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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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第46話「復活」

甲子園の空は、昨日より少しだけ高かった。

開明ナインは静かにアップを始めていたが、その空気には微妙な“揺れ”があった。


佐藤はストレッチしながら、マウンド方向をちらりと見る。


(……今日の夏目、大丈夫か?)


前日の死闘。

右腕の限界。

左へのスイッチ。

そしてサヨナラ勝ち。


興奮はあっても、疲労の気配は隠せなかった。


夏目は表情はいつも通りだが、左手を確認している。


伊藤はスコアブックを開いたまま、視線をそっと伏せた。


(……こんな状態で、あと三試合も投げられるの?)


ベンチの空気は、誰も言わない不安で満ちていた。

それでも夏目は、ただ前を向いていた。


そんな中。


――ザッ。


ベンチ入口で足音が止まる。


誰もそちらを見ていないのに、

空気だけが先に気づいた。


振り返ったのは佐藤が最初だった。


「……っ」


そこに立っていたのは、

開明高校 野球部キャプテン――中村秀人。


ファーストミットを左手に。

ユニフォーム姿で。

堂々と。


まるで、ずっとそこにいたかのように。


誰かが息を呑む音がした。

誰かが叫びそうになって口を塞いだ。


夏目だけは振り向かず、

ただ肩を回し続けていた。


中村は、その背中に向かって歩いた。


ゆっくりと。

噛み締めるように。

ここに戻る意味を、一歩ごとに刻みつけるように。


夏目の横に立つと、

中村は無言でミットを胸の前に掲げた。


夏目がようやく振り返り――

目を細めた。


「……復帰か」


たったそれだけの言葉だったが、

その声は、確かに震えていた。


中村は笑った。


「おう。戻ってきたぞ」


夏目の視線が、一瞬だけ鋭くなる。


「なんでファーストなんだよ」


中村は息を吸い、

ファーストミットを握り直した。


「簡単だろ」


言葉が落ちる。


「キャプテンはな。

 怪物のいちばん近くで戦うもんなんだよ」


夏目の表情が揺れた。

ほんの一瞬。

その揺れは誰にも気づかれないはずだったが、

佐藤だけは見逃さなかった。


(……夏目、嬉しそうじゃんか)


周りで見ていた部員たちが、一気に沸き立つ。


「中村さんだ!!」

「戻ってきたのかよ!!」

「やっぱキャプテンがいると空気違うな……!」

「キャプテン……安心する匂い……」


伊藤は胸元にスコアブックを抱えたまま、

そっと小さく息を吐いた。


(……よかった。本当に、間に合った)


中村はマウンド方向を見て言った。


「行けよ夏目。

 お前は投げりゃいい。

 キャプテンが横で全部受け止めてやるからよ」


夏目は言葉を返さない。

ただ前を向いて歩いた。


その背中は――昨日までとは違う。


もう“ひとりで戦う背中”じゃない。


その横には、

キャプテンが戻ってきた。


彼らの夏が、

またひとつ、強くなる音がした。


――準々決勝、始まる。




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