第36話『世界が騒ぐ、怪物はまだ高校生』
完全試合から数時間後。
開明高校の宿舎は、通知音が止まらなかった。
夏目は畳に座り、いつも通り古文の参考書をめくっていた。
「……助動詞“べし”からやるか」
中村が泣きそうな顔でスマホを突きつける。
「やるな!!今は世界が騒いでんだよ!!これ見ろ!!」
スマホの画面には――
Tmitter 日本トレンド
1位:夏目孝太郎
2位:173km/h
3位:世界最速
4位:メジャースカウト
5位:桜阪高校
6位:隊長Z
7位:高校生最速更新
8位:開明高校
9位:佐藤キャッチング
10位:甲子園なのにメジャー騒ぎ
中村が叫ぶ。
「なぁ夏目!!“メジャースカウト”って単語あるんだけど!?なにこれ!!」
夏目はページをめくりながら淡々と答える。
「……ああ。県大会の時、ちょっと話してた」
「聞いてたなら言えよ!!!!」
伊藤がスマホを見せた。
「これ見て。北米トレンドにも入ってる」
Tmitter 北米トレンド(US)
12位:Natsume Kotaro
15位:173km/h kid
19位:Japanese pitcher 107mph
23位:Koshien
コメントは完全にカオスだった。
「107mph!?ありえねぇ」
「なんで高校生がチャンプマン超えてんの?」
「映像見たけどスーパーマン」
「契約はいつだ?」
中村が震える。
「夏目ぇ……お前、アメリカまでバズっちまったよ……」
夏目は普通に返す。
「いや、日本にいるけど」
「そういう意味じゃねぇよ!!!!」
メジャー公式アカウントまで反応していた。
《A high school pitcher in Japan touched 107mph today.》
《We are monitoring.》
伊藤が息を飲む。
「……これ、本気のやつね。向こう、本当に動き始めてるわよ」
夏目は参考書を閉じ、淡々と訳す。
「“我々は注視している”って意味」
中村が頭を抱えた。
「英語の勉強じゃねえよ!!」
スポーツニュースも加熱していた。
《複数球団、夏目孝太郎の急成長に驚愕》
《まだ伸びる可能性が高い》
《メジャー3球団が急遽スカウト派遣》
中村は夏目を指差す。
「お、お前!!メジャー行くんじゃねぇのか!!?」
「いや、大学行くけど」
「そこだけブレねぇのなんなんだよ怪物!!」
YourTubeでも世界が解析を始めていた。
《Japanese high schooler throws 107mph》
再生 210万。
「this kid insane」
「sign him already」
「漫画なの?これ」
そして日本側では――
《桜阪高校、全員ポーズして散る》
再生 85万。
コメント欄が地獄。
「隊長多すぎて草」
「三振芸でバズる高校」
「夏目のせいで相手校が有名になるのおもろい」
中村が涙を流す。
「夏目ぃ!!お前のせいで相手校が芸人扱いされてる!!」
夏目は淡々と尋ねた。
「……あのポーズ意味あったの?」
「誰も知らんわ!!」
なんBも炎上していた。
【朗報】甲子園1回戦、MLBが動く【夏目孝太郎】
1 :風吹けば名無し
173km/hは世界最速だぞ
18 :風吹けば名無し
隊長Z帽子飛んだ瞬間で笑い死んだ
33 :風吹けば名無し
佐藤のキャッチングが地味にやべぇ
34 :風吹けば名無し
↑伏線くさくね?
中村が震えながらスレを読む。
「おい佐藤!!なんか“伏線”とか言われてるぞ!!」
佐藤は耳を赤くし、
「俺は普通だって!!夏目がおかしいだけ!!」
と言うが、伊藤は少しだけ微笑んだ。
(……普通、ね。本当に?)
騒ぎ続ける宿舎の中。
夏目だけは布団に入りながら、淡々と結論を出した。
「……明日も練習だし寝る」
「寝るのかよ!!!」
中村がツッコむ前に、夏目は静かに目を閉じた。
そしてぽつりと呟く。
「……次の試合、もっとやれる気がする」
その一言に、
部屋の空気が一瞬止まり、
背中をゾクリと震わせた。
“怪物は、まだ進化する。”
その事実に、
世界がようやく気づき始めた夜だった。




