第28話 夏目家大崩壊
県大会決勝を完全試合で制し、チームメイトたちが歓喜の渦に包まれるその頃――
夏目孝太郎は、静かに帰宅していた。
(……明日、物理の小テストだしな)
怪物が優先するのは、変わらず「勉強」である。
玄関を開けた。
「ただいま」
リビングでは、父が経済新聞を読み、母がハーブティーを飲んでいた。
平和な夜の風景。
「おかえり孝太郎。今日は補習だったの?」
「補習じゃない。試合」
母はやさしく微笑んで紅茶を口に運ぶ。
「試合って何の?」
「野球」
その瞬間、母の動きが止まった。
「……野球って……どの?」
「部活の」
バシャァァァ!!
紅茶が盛大に吹き出され、父の新聞が真っ二つに裂けた。
「……部活……?」
「うん。県大会の決勝だった」
両親、沈黙。
夏目は靴を揃えながら、さらりと言う。
「勝った。甲子園行く」
「甲子園……???」
母の声が裏返り、父は破れた新聞の左右を逆に持ちながら固まった。
「ちょ……ちょっと待て孝太郎……
お前“野球部に入ってた”という認識で間違ってないか?」
「最初は名前貸してただけだったけど、気づいたら投げてた」
「気づいたら投げてた!?!?」
母が息子の腕を掴む。
「ていうか!!いつからそんな本格的に野球やってたの!!?」
「県大会の一回戦から」
「すごい最近!?!?
なんで親に言わなかったのよ!!」
「聞かれなかったから」
母はその場に崩れ落ちた。
父は震える指でテレビをつける。
ちょうどスポーツニュースが始まった。
――『県大会決勝、開明高校のエース・夏目孝太郎!
5試合連続無失点、うち4試合が完全試合。
決勝ではランニングホームランも記録!
球速は“世界最速の173キロ”との分析も――』
画面いっぱいの“息子”に、両親は同時に変な声を上げた。
母「……え……これ……孝太郎よね……?」
夏目「俺だな」
母「知ってるわよ!!!なんでテレビで知るのよ私たち!!」
父は震える手でスマホを取り出し、投資仲間に連絡する。
〔うちの息子、甲子園行くらしい。しかも世界最速らしい〕
返ってきたメッセージ
〔は?嘘だろ〕
〔会社の話?〕
〔孝太郎くんってスポーツ苦手じゃ?〕
〔いや絶対影武者〕
「……誰も信じてくれない……」
母は夏目の腕を揺さぶりながら叫んだ。
「孝太郎ぉぉ……!!
野球でピッチャーなんて危ないでしょう!?大丈夫なの!?!」
「大丈夫だろ。筋トレしてるし」
「筋トレで片付く問題じゃないわよ!!!」
父も肩を掴む。
「孝太郎……秘密は、まだあるのか……?」
「いや別に」
「もっとあるんだな!?!?!?」
「“ある”とは言ってないだろ」
「今の言い方は“ある”ときの言い方だ!!!」
母は涙と鼻水を流しながら絶叫。
「孝太郎……正直に言いなさい……
本当はプロを目指してるんじゃないの……?」
「いや大学行くけど」
母「行くのねぇぇぇぇぇ!!!(号泣)」
父「頼む!!行ってくれ!!普通のルートを選んでくれ!!」
夏目「普通ってなんだよ」
父「お前以外だ!!!!」
母「でも甲子園は全力で応援するからぁぁぁ!!!」
夏目(……帰ってこなきゃよかった)
三者三様に泣いて笑って叫んで、
夏目家はその夜、近所から通報されかけるほどの大騒ぎとなった。
昨日はすみませんでした。
予約投稿を忘れておりました……
ということで2話投稿致しました。
面白いと思っていただけたら、これからもこの作品をよろしくお願いします!




