表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/103

第27話 右の怪物、左で伝説を作る

4回裏。

先頭打者がバットを構えた瞬間、球場の空気がぴんと張った。


夏目は左手でボールを握り、ゆっくりとワインドアップに入る。

右腕のフォームとはまったく違う、やや縦振り気味のオーバースロー。

ほんの僅か無意識に――人差し指をひねって縦回転を増やした。


投球。


――バシュッッ!!


捕手のミットが破裂したような音を立てた。


球速、150キロ。


ただ、それ以上に異質だった。


打者は震える声で言った。


「……伸びて……沈んだ……?」


球が “スッ” と下へ吸い込まれる奇妙な軌道。

縦スラとも、ストレートとも違う、説明できない球。


強いて言うなら――ジャイロボール。


城南学院のベンチは全員腰を抜かした。


その回、三者三振。


球場は一度静まり返り、次の瞬間には爆発的な歓声に包まれた。


伊藤は胸の奥がざわつくのを止められなかった。


(……なんなの。本当に……)


 


5回裏。

ベンチに戻った夏目の前に、見たことのないステータスが浮かんだ。


――――――――

夏目孝太郎(17)

<左専用>

球速 150km

コントロール S

スタミナ S


変化球

ジャイロフォーク 1

ジャイロスライダー 1

ジャイロスクリュー 1


振り分けポイント:620

――――――――


(左専用……、球速は160までしか上げれないのか……変化球も弄れそうだな)


思考するより先に、夏目は球速と変化球にポイントを注ぎ込んだ。


――――――――

夏目孝太郎(17)

<左専用>

球速 160km

コントロール S

スタミナ S


変化球

ジャイロフォーク 7

ジャイロスライダー 7

ジャイロスクリュー 7


振り分けポイント:260

――――――――


夏目はマウンドへ戻る前、佐藤のところへ向かった。


「さっきのジャイロ、斜めと下なら動かせる。ミットに入るように投げるから覚えて」


佐藤は半ば諦めた顔で笑った。


「はいはい……どうせまた“ポイントで”とか言うんだろ。お前のコントロールは信用してるよ……

でもな、あの時のフォークは忘れてねぇからな!」


軽口を叩きつつも、佐藤の手は震えていた。


夏目は指先の感覚を確かめるようにボールを握り直した。


(……この回で仕留める)


 


再開。

城南学院の1番から。


佐藤がアウトローを示す。

夏目は軽く頷き、左腕をしならせた。


――バシュッ!


ジャイロスクリュー。

右打者のインから鋭く斜めに沈む。


打者は声にならない悲鳴を上げた。


「っ!? お、おち……!」


完全に振り遅れ、バットはボールの上を空振りする。


球場がざわめく。


二球目は外から内へすべり落ちるジャイロスライダー。

高速で伸びながら入ってくる、理解不能の軌道。


バットの先にわずかに触れた。

だが三遊間の真正面。ショートの渡辺が難なく一塁へ送球する。


「アウト!」


 


2番打者は粘りが持ち味の左打者。

フルカウントまで粘られた。


夏目はゆっくりとセットに入る。


(落とす)


――バシュウゥッ!!


ジャイロフォーク。

スプリットより速く縦スラのような軌道で地面へ吸い込まれるように落ちた。


打者は完全に振り遅れ、空を薙ぐだけだった。


「ストライク三振!」


客席で混乱した声が上がる。


「え、なんだあれ……?」

「高速縦スラ……なのか……?」

「いや、物理法則どうなってるんだ……?」


 


3番。城南学院の主砲。

監督が必死に叫ぶ。


「下に落ちるやつに手を出すな!ストレートだけ待て!!」


だが夏目はわずかに笑った。


初球、160キロのジャイロストレート。

真っすぐ――のはずが、打者の手元でわずかに“伸びて落ちる”。


主砲は完全に上を叩き、ファールになる。


佐藤がミット越しに呟いた。


(……これ、もうストレートじゃないだろ……)


二球目は外角低めいっぱいへジャイロスライダー。

主砲は見送るしかなかった。


そして三球目。

佐藤がミットを高めに構える。


(釣り球に見せて――)


夏目の左腕がしなる。


――バシュッ!!


ジャイロフォーク。

縦に、そして加速するように落ちた。


主砲のバットは空を切った。


三振。


スタンドが「ひっ」という声とともに沸騰した。


ベンチへ戻った夏目に、佐藤が呆れたように笑う。


「……お前さ。三球種全部、球速バグってねぇ?変化球のスピードじゃねえよ」


夏目は汗を拭きながら答えた。


「ミットに入るラインに回転合わせただけだろ。簡単だ」


「簡単じゃねぇよ!!」


ベンチ中が笑いに包まれた。

ただ一人、伊藤だけは笑えなかった。


(……これは、今までと違う。異常すぎる……左手で、いきなり、ここまで……?)


城南学院のベンチには沈黙が落ちていた。


(……攻略不可能。何を待っても当たらない)


その絶望のまま、試合は後半へ進んでいく。


 


6回表。

橘の疲れが見え始め、夏目の3打席目が回ってきた。


甘く入ったストレート。


夏目は――迷わず振った。


カァァァン!!


打球はセンターの頭上を越え、フェンスまで一直線。

夏目は走り出した。


いや、走り出した瞬間、爆発した。


観客が叫ぶ。


「速っ!?」「なんだその加速!!」


一塁、二塁、三塁、そして――そのままホームへ滑り込む。


ランニングホームラン。


中村が叫んだ。


「なんじゃそらあぁぁ!?ランニングホームランってぇぇ!!」


スコア1−0。

均衡を破る一撃だった。


 


8回裏。

2アウト一二塁で夏目に打順が回る。


橘はもう限界だった。


(ストライク投げたら……殺される……頼む歩いてくれ……)


ボール、ボール、ボール。

全て外れていく。


中村が叫ぶ。


「夏目!!ボール球は打つなよ!!わかったか!!」


夏目は聞いてない。


四球覚悟で投げた外角のワンバウンド。

地面すれすれ。


夏目は――ゴルフスイングで拾い上げた。


カァァァァァン!!!


橘が崩れ落ちる。


「なん……で……?」


打球はライトスタンドへ吸い込まれ、スリーラン。

スコア4−0。


球場は悲鳴と歓声が入り混じった。


中村が泣き笑いで叫ぶ。


「お前ぇぇ!!普通に野球しろぉぉ!!」


夏目は淡々と答えた。


「普通だろ?」


伊藤は即座に否定する。


(普通じゃない!!)


 


9回裏。

夏目の左腕は最後まで衰えなかった。

城南学院の7、8、9番はバットにかすりもしない。


最後のジャイロストレート、160キロが佐藤のミットに吸い込まれた。


「ストライク!バッターアウト!」


決勝戦が終わった。


開明高校、優勝。

夏目孝太郎、完全試合。

ホームラン2本。

県大会制覇――甲子園へ。


中村は泣き崩れた。


「夏目ぇぇぇぇ……!!最高の相棒だよおお……!!」


夏目は顔をしかめながらも、笑った。


「うるせぇよ」


伊藤は胸にそっと手を当てた。


(夏目君……あなたの“謎”は、もっと深いところにある気がする)


そして甲子園の物語が、静かに幕を開けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ