第25話 怒涛の突破――怪物、止まらず
3回戦の相手は鳴海工業だった。
試合時間はわずか1時間弱。
夏目は初回から全力の【170キロ+高回転ストレート】だけで、
相手打線を完全に沈黙させた。
「なんでストレートで詰まるんだ……?」
「浮いてないか?あの球……?」
「いや、見えねぇって……」
相手ベンチの声がすべてを物語る。
打つ方でも、夏目は初回先頭ホームランから暴れに暴れ、
3打数 2安打 2本塁打 1敬遠
試合結果は、
開明高校 8-0 鳴海工業(7回コールド)
野球部のグループLINEはお祭り騒ぎで、
中村はベンチで泣き笑いしていた。
「夏目ぇぇぇ!!優しさと暴力のハイブリッドかよお前ぇぇ!!」
伊藤はスコアブックに視線を落としながら思う。
(……今日も球が伸びてた。昨日より、また。)
胸の奥で小さく積もる違和感は、
まだ“正体”を持っていなかった。
⸻
4回戦の相手は、県内屈指の打撃校・北条商。
相手は「夏目攻略ノート」を作り、満を持して挑んできた。
だが、そのノートの最後の行にはすでに絶望が滲む。
《ストレートを捨てろ!全部浮き上がる!》
《変化球は理解不能!手を出すな!》
《……無理では?》
結果は、その予感を軽々と超えた。
夏目は5回を投げて 15奪三振、走者ゼロ。
打撃では――
第1打席:左中間特大ソロ
第2打席:逆方向ホームラン
第3打席:ランニングホームラン未遂(三塁打)
ついに相手監督が叫ぶ。
「もうアイツ全国行かせてやれ!!うちは無理だ!!」
開明高校 10-0 北条商(5回コールド)
マウンドを降りた夏目の肩を中村が叩く。
「お前……ほんとに高校生か……?
いや、地球人か……??」
夏目は首を傾げた。
(……そんなにか?)
伊藤は胸にざわつきを覚える。
(今日の球質……昨日よりまた良くなってる。
いったい……何が起きてるの、この人……?)
違和感はまだ“名前”を持たず、
静かに根を張るだけだった。
⸻
準決勝を終えた夜。
開明高校の名前は県内ニュースで踊っていた。
《謎の怪投手・夏目孝太郎。3試合で走者ゼロ》
《甲子園候補最有力、開明高校》
しかし当の本人は、
自室で淡々と筋トレを続けている。
(……明日勝てば、甲子園か)
胸の奥の高鳴りは、
夏目自身が思っている以上に大きくなっていた。
⸻
翌朝。
球場はこれまでとは桁違いの人の波に埋め尽くされていた。
実況がいなくても、空気そのものが熱を帯びている。
中村は手を震わせながら言った。
「夏目……いよいよ決勝だぞ……!
ここ勝ったら……甲子園……!」
伊藤は静かに微笑む。
「夏目君。今日も“いつも通り”でいいのよ。
……あなたの“いつも通り”は、他の人とは違うけど」
夏目は短く返す。
「……まあ、やれるだけやるよ」
「その“やれるだけ”が県を破壊してんだよ!!!」
三者三様の熱が混ざり合い、
夏目の背中を押していく。
彼はゆっくりと、
決勝のマウンドへ歩き出した。




