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第90話 してやったり

 身軽ということもあって、随分と遠くまで飛んでいってしまった佳奈島。


 この距離を離されては、戦線復帰することは難しいだろう。

 

 それになにより、蹴りによるダメージが大きすぎる。


 「……うっ!」


 飛ばされた佳奈島はコンクリートの壁に衝突し、埋もれていた。


 その姿は満身創痍。


 全身に切り傷があり、さっきの蹴りと壁に衝突したせいで体の内側もボロボロになってしまっている。


 佳奈島は苦痛から表情を歪ませているが、とてもやられた者が見せる顔ではない。むしろ、やり切った顔をしている。


 佳奈島は夜空を見上げ、呟いた。


 「もう……動けない……けど、充分」


 佳奈島清が手に持っていた折れたナイフの柄は、砂のように消えて無くなってしまうのだった。




 これでもう、あの少女ハ戦えないダロウ。


 少女が吹っ飛んでいった方角を見て霊異者はそう思う。


 これで一人、邪魔者がいなくなった。あとはもう一人の地面に転がっている雑魚を殺すダケだ。


 さっき何度か殴ったが、それでもあの少年は死なずに虫の息だった。あのまま放っておいても勝手に死ぬだろうが……


 やっぱり自分の手で殺した方ガ楽しいカラナ。

 

 霊異者は恍惚に口を歪ませてると、障害にすらならないもう一人の同士、弱い少年がいた方へと振り返る。


 この雑魚ヲ殺して、金髪の女も殺セバ、お楽しみノーーーー


 だが、振り返った先に少年の姿が無い。


 「ァ?」


 逃げたノカ?


 ひび割れたコンクリートの地面を見て、霊異者の頭にそんな考えがよぎる。


 あの程度の実力なら逃げても不思議ではナイ。いや、むしろ逃げる方ガ当たり前か?


 「……ハハッ」


 俺との力の差を身を持って知ったンダ。俺が恐くなったのダロウな。


 「……アレは、金髪の女ヲ殺した後に殺しに行くとするカ」


 霊異者は構えていた手を下ろした。纏っていた霊力も緊張も解き、脱力する、そして、金髪の女の方へと足を進めーーーー


 「俺は上だよ」


 突然、上から声が聞こえた。


 霊異者は声が聞こえた方向、空を見上げると、そこには両手で何かを持った人物が……


 その人物はてっきり逃げたとばかりに思っていた少年。


 そしてその少年が両手で握っている何か……よく目を凝らすと、それはさっきの少女が持っていたナイフ。粉々に割ったはずの青白いナイフだった。


 「ェ?」


 霊異者は意味が分からず思考停止に陥る。


 逃げたと思っていた少年が逃げていなかったこともそうだが、折れたはずのナイフ、それも少女が握っている筈のナイフを少年が持っていたのだから。


 ア?少年?逃げたはずじゃ?ナイフ?さっき折ってやった。じゃあこれハ偽物?いや、本物?でもこの少年ハ雑魚。というかさっきまで瀕死だったんジャーーーー


 口を開けて呆けている霊異者。そんな間抜け顔をした霊異者の脳天に、奥崎蓮はナイフを突き刺したのだった。


 「おおおおぉぉ!」


 「ァ?…………ァ、ァァ、ガァァァぁぁぁぁァァ!」


 額にナイフを刺された霊異者は悲痛の叫びを上げる。


 苦痛からか、己の額に突き刺さったナイフを持って、のたうち回る。辺りの地面にヒビを入れながらも悶え苦しみ、血の涙を流した。


 「はぁ……はぁ……どうだ、佳奈島が考えたこの作戦は?痛いだろ?」


 奥崎は、肩を大きく上下しながらも、転げ回っている霊異者に笑みを見せる。そんな奥崎を見て、霊異者は意味が分からないとその目を見開いた。


 なっ、ナンで!?


 「なんで?って、言いたげな顔だな。瀕死にまで追いやったはずの俺が今こうしてピンピンしていて、さっき折ったはずのナイフは折れていない状態で俺が持っていたのか、聞きたいか?」


 奥崎は横たわる霊異者へと歩み始めた。


 霊異者は近づくなと言わんばかりに霊力を刃物のように尖らせて、奥崎の腕を傷つける……も、すぐに傷は癒える。


 「ッッ!?」


 「俺はな、再生能力を持っているんだ。たとえ瀕死に追いやられようともすぐに傷が回復するんだよ」


 ハ?なんだソレは!?霊力も消費せずに再生なんて聞いたことがナイ!と言うかコイツ、よく見たら同ジじゃない!?コイツはッーーーー

 

 霊異者が抱いている謎が余計に深まる。だが、そんなことは知らない奥崎は言葉を続ける。


 「そしてそのナイフ」


 奥崎は霊異者の額に突き刺さっているナイフを指差す。


 「実はな、俺の持っていたナイフは佳奈島から借りた本物で、佳奈島が持っていたナイフは偽物なんだ」


 そう言うと、奥崎はその手にもう一本、ナイフを作ってみせた。


 「俺が霊能力で作った偽物の、な」


 「ナン……だとッ!?」




 それは本体に戦いを挑む前のこと。


 佳奈島が俺にした耳打ちの内容はーーーー


 「じゃあ今考えた作戦、教えるから、耳貸して」


 そう言われ、俺は耳を佳奈島に寄せる。


 「私が『消滅』とナイフを使って霊異者を瀕死寸前に追い込むから、あなたがナイフで霊異者を、滅して」


 「え?ナイフ、二本あるのか?」


 「ない」


 「だったらどうやって……」

 「奥崎蓮、あなたの霊能力を使えば、ナイフを二本にできるでしょ?」


 そういうことか。佳奈島のナイフは見るからに霊異に関するナイフだ。そのナイフを俺の霊能力を使って二つあるように見せることはできる……だが、俺が霊能力で生み出したナイフはあくまでも偽物だ。


 そのことは佳奈島も知っているはずだが……


 「まあ、二本にはできるけど、俺の霊能力で作った偽物は見た感じは同じでも、ナイフとしての切れ味は……」

 「そんなの知ってる」


 「だったら、俺が偽物のナイフを持ったところで何の意味がーーーー」


 「何言っているの?私が偽物のナイフを持って、あなたが本物のこのナイフを、使うの」


 「……は?」


 佳奈島、お前が一体何を言っているんだ?


 驚きと戸惑いのあまり、目が点になっている俺に、佳奈島がもう一度言う。


 「だから、私が偽物のナイフを持って囮になるから……奥崎蓮、あなたが倒すの」


 「…………はぁ?」

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