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第9話 男子高校生ってこんなもん

 学校に着いてから競斗さんに霊異者が取り憑くようにくっついていたこと、霊異者の見た目まで一通り説明をし終えたあと、祭持さんは細い目をした。


 「ふむ……他に何か情報はないかい?」


 「ないよ。俺は祭持さんに言われた通り、なるべく距離を取っていたからこれ以上の情報はない。」


 まあ、隣の席だから取れる距離には限度があったけどな。


 学校生活に支障をきたさない程度に距離を取っていた為、授業の時以外はなるべく避けて過ごしていた。だから、本当にこれ以上の情報はない。


 「そうか……まあ、今の話だけだとなんとも言えないけど、彼女……競斗 芽井だっけ? その子が霊異者に取り憑かれているのは確かだね」


 どうやら情報が少なかったらしい。今持っている俺の情報だけではあまり分からないみたいだ。……もう少し危険を冒してでも何か情報を得れば良かったか? いや、踏み込みすぎるのは良くない。


 「それで?奥崎君、君はその子を助けたいってことでいいのかな?その子……競斗 芽井に取り憑いている霊異者を取り除き、霊異者から解放する……合ってるかい?」


 「ああ。あまり関わりのないクラスメイトだからといって、助けれるかも知れないのに助けないなんて後味悪いからな。それに競斗さんに取り憑いている霊異者を追い払ったら、俺の身の危険もなくなる。毎日隣の席に霊異者がいるなんて落ち着かない」


 ……いつ俺、または周りの人が霊異者にとってのNGワードを言うか分からない。もし誰かがNGワードを言った瞬間、俺の命が危ないからな。


 「ふーん、素直じゃないね、君は」


 一瞬ニヤリと笑い、ボソッと祭持さんが何かを呟くが、小さすぎてその言葉を俺は聞き取れなかった。


 「ん?」

 

 「いやあ、なんでもないよ」


 祭持さんは話は終わりだと言わんばかりに立ち上がると、俺の肩に手を置き耳元で囁いた。


 「私の元へ連れてきたらその子から霊異者を引き離してあげる」


 「っ!?」


 ……え、えぐいっ!エロすぎっ!


 突然耳元で囁かれ、硬直してしまう。そんな俺を見て、祭持さんはしてやったりと言わんばかりに笑った。


 「任せたよ、奥崎君」


 「……はい」


 年上でナイスバディ。謎要素が多い美女という多属性は俺には心臓が悪すぎる。


 もう話すことはないだろう。俺は入ってきた部屋を出ようとドアノブに手をかけた。


 「あ、奥崎君」


 「なんだよ?」


 まだ話は終わっていなかったのだろうか。祭持さんの言葉で俺は振り返るのだった。


 「今日はもう遅いから、競斗くんを連れてくるのは明日でいいからね」


 「いや、流石にこの後連れてこようとは思ってないわ」


 「そうかい?それじゃあ、泊まってく?」


 じゃあとは一体なんなのだろうか。てか思春期まっしぐらの男子高校生にそんな言葉をかけないでくれ。


 「…………お邪魔しました」


 このまま話していたら俺が俺じゃなくなってしまうかも知れない。何かとてつもない危機感を感じた俺は早々にドアを開け、逃げるようにして迷いの館から出ていくのだった。




 朝が来た。小鳥の囀りが、まるで今日が来たことを祝福しているかのように聞こえる。虫が喜びの声を上げ、度々、車がそれらの音を掻き消している。変なことを口走っているが、まあ、要するに朝が来たと言うことだ。


 「何ブツブツ言ってんだ? 早く学校行けよ」


 幸福感いっぱいのポエムのような思考に浸っていると、刃物のような言葉で現実へと引き戻された。声のした方へと顔を向けるとそこには俺の実の姉が鋭い目つきで立っている。そんな姉ちゃんに俺は睨み返すのだった。


 「……うるせえよ」


 「あ?姉に向かってなんて言葉遣いしてやがる」


 「そう言う姉ちゃんは実の弟に対して酷い言葉を使うもんだな。もっと姉として、包容力を持った言葉を使えよ」


 紹介したくないが……紹介しよう。今、目の前にいる男子高校生が理想とするお姉ちゃんとはかけ離れた存在のこの女の名前は、奥崎 真衣 『おくざき まい』。俺の二つ上の姉で、近くの大学に通っている大学一年生だ。この女は、俺が記憶にある小さい頃からずっと荒っぽい性格の持ち主で、口調も昔から変わらない。


 姉ちゃんは幼い頃から俺、いや、誰に対しても荒っぽく、今は知らないが小学生から高校生の間は先輩、後輩関係なく揉め事を起こしていた。


 揉め事は別に姉ちゃんが悪い訳ではない。ただ、この女は悪い奴が許せないんだ。誰かを虐めている人を見かけたら乱入して虐めている人達をボコボコにしたり、仲間外れにしている人を見かけたら問い詰めたりと……要するに正義感が強いのだ。悪いことは見過ごせないし許さない。頑固な性格の持ち主だよな。まあ、だからなのか姉ちゃんを慕う人も少数いたんだけど。


 そんな頭が固い姉ちゃんは再度、俺に言い放つ。


 「うるせえ。ガキは早く学校に行けってんだ」


 「……まだ起きたばっかりなんだけど」


 「あ? そんなの関係ないだろ?」


 ええ?何言ってんだよコイツ。


 理不尽すぎる姉ちゃんの言葉を無視し、洗顔、歯磨きをしパジャマから制服に着替えた後、朝食を食べた俺は家を出た。それから十数分かけて学校に行き、授業を受けるのだった。




 今日の学校の授業は、午前が座学。そして午後に体育があった。体育ではバレーで、男女に分かれてクラスの運動神経抜群な二人がリーダーとしてジャンケンをし、勝った順番でメンバーを決めていくのだが、俺は運動神経は別にいい訳でも悪い訳でもない為、お前でいいや的な感じで選ばれた後、俺のチームは見事に負けるのだった。



 それから時間が過ぎ、放課後がやってきた。帰りのショートホームルームが終わりクラスの皆が教室を出ていく中、俺は競斗さんに祭持さんのところに一緒に来てもらう為、話しかける。

 

 ……ちなみに肩の霊異者がちょっと怖くて足が震えてるが気にしないでくれ。


 「ぁ、あのさ、競斗さん」


 「ん? どうしたの?」


 帰ろうと鞄に物を詰め込んでいた競斗さんは、横に立つ俺を見上げる。俺に話しかけられるとは思わなかったのだろう。競斗さんはまんまるな目をした。


 ああ……やっぱ女子の上目遣いは可愛いな……それに競斗さんがするとまるで天使みたいだ。まあ隣に悪魔みたいな霊異者がいるけどな。


 「放課後さ、俺と一緒に来て欲しいところがあるんだ」


 「ん? 来て欲しいところ?」


 競斗さんは頭にハテナを浮かべて首を傾げる。その仕草はまるでキュートなエンジェルのよう……やべ、霊異者がこっちを見てる!

 

 俺は急いで窓の方に顔を向ける。


 「そ、そうなんだよね!まあ、あの!競斗さんにとって良いことの為と言うかなんと言うか……ね!」


 ひい!冷や汗が止まらない!


 けど、競斗さんと俺の平和の為だ。これくらいは乗り越えなければ!


 だが、競斗さんの返事は俺が期待していた言葉ではなかった。


 「そ、そうなんだね。でもゴメン!今日は先約がいるからさ無理なんだ……」


 競斗さんは申し訳なさそうに背中を丸めて俯く。

 

 いや、申し訳なさそうにではなく本当に申し訳なく思っているのだろう。いつもは誘うことのないクラスメイトが誘ってくれたのにその期待に応えてあげれない罪悪感。それに押しつぶされそうになっているのだろう。


 そうだった。競斗芽井はそういう女の子だった。


 言いづらそうに拳を握り、震える声で泣きそうな顔をする。


 「ほ、ほんとゴメンね?勿論、誘ってくれたのは嬉しかったよ!でも友達と約束しちゃったから……」


 半泣きに近い競斗さんを見た俺は焦ってフォローをしようとしたその時、ちょうど競斗さんを呼ぶ声が聞こえた。


 「芽井〜? まだ〜?」

 

 声のする方を見ると、廊下から一人のクラスメイトが顔を覗かしている。競斗さんが約束しているのはこの子なんだろう。


 俺は手を引っ込め、笑顔を作る。


 「あ、いや、俺の用事は別に今日じゃなくてもいいからさ、全然大丈夫」


 いや、大丈夫じゃないだろ!何言ってんだよ俺!俺の命がかかってるんだぞ!でも言える訳がない……あんな顔されたらな。

 

 だから俺は、立ち上がる競斗さんに手を振ることしかできなかった。


 「ほんとごめんね! また、誘ってくれると嬉しいな」


 終始、申し訳なさそうにした競斗さんは鞄を持って教室を飛び出していった。


 「じゃあね、奥崎君!」


 「は、ははは…………」


 何だ、この虚しい気持ちは……告白した訳じゃないのに、なんだか振られた気分なんだが。


 そんなことを思っていると、もう周りに誰もいないことに気が付いた。いつの間に皆、帰ったのだろう。静かになった教室で俺は呆然と立ち尽くすのだった。


 「はあ……とりあえず、祭持さんのところに行くか」

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