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第88話 初めての共闘

 祭持さんが分身達を誘導しに行った後、そこに残ったのは俺と佳奈島だけ。


 喧騒が遠のいたその場所で、俺と佳奈島は同時に目を合わせた。その目は互いに何か言いたげ。


 「奥崎……」

 「佳奈島……」


 「「作戦は?」」


 同じタイミングで同じことを聞く二人。佳奈島が首を傾げた。


 「……考えてないの?」

 「そっちこそ、なんで戦闘経験の無い俺に作戦を聞いてるんだよ。そもそも、何か考えがあったからあんなに自信ありげだったんじゃないのか?」


 「……別に、二人がかりなら何となく勝てると思っただけ」


 おいおい、抽象的な自信だな。


 「はあ、どうすればいいんだ?無策で突っ込んでも勝てる可能性なんて無いから……やっぱり作戦は考えた方が良いよな」


 どうすれば、あの霊異者を倒せるのだろうか。その作戦を考えようと頭を捻っていると、佳奈島が言った。


 「じゃあ、こうする。私が頑張って、隙を作るから、奥崎蓮が倒して」

 「……は?止めを刺すのは佳奈島じゃないのか?」


 「私じゃない。奥崎が止めを刺した方が、色々と……安全」


 おい、色々ってなんだよ。


 白い目を向けるも、佳奈島は気にすることはない。


 「じゃあ私、今、作戦考えたから、教える。耳貸して」


 そう言い、佳奈島は俺の耳元で作戦を囁くのだった。




 霊異者の耳に届かないくらいの声量で言葉を交わした後、佳奈島考案の作戦を聞いた俺は頷いた。


 正直、あまり乗り気がしない作戦だが、佳奈島の言うことを信じてみよう。


 「はあ……分かったよ、それで行こう。でも、俺が失敗しても責めるなよ?」


 この作戦は俺にかかっていると言っても過言ではない。少しでも緊張を薄めるために若干、ふざけた感じで聞くも、佳奈島は真顔で返してくる。


 「何言ってるの?責めるに決まってる」


 当然とばかりにそう言う佳奈島。


 そこは嘘でも、「責めるわけない。そんなに気負いしないで」とかの言葉が欲しかったな。


 「……はあ、そうかよ」


 「お、俺はっ!?俺はどうしたらっ!」

   

 不意に、遠くで座っている改が叫んだ。見ると、改は俺達の方を見ながら自身を指差している。


 そんな改の問いに、佳奈島は間髪入れずに冷たげに答えた。


 「邪魔になるだけ。静かにしてて」


 「あ、はい」


 余計なことはするな。そう言われてしまった改は肩を落とし、体育座りをし始めた。


 ……容赦ないな。


 佳奈島のあまりの冷たさに、横で聞いていた俺は思わずたじろいでしまう。


 佳奈島の言いたいことは分かる。普通の人である改には何もしないでいて欲しい、それが一番、俺達の助けになるのだ。


 だが、もうちょっと言い方というものがあるだろうに……まあ、今の状況で心に余裕を持てないのも仕方がない。


 俺が一人、佳奈島の態度に頷いていると、佳奈島が俺の方を向いた。


 「じゃあ準備しよ」

 「あ、ああ……そうだな」




 深夜の町道。


 騒がしい戦闘が繰り広げられている場所から少し離れたところで、生前、麦原翔と呼ばれていた者は己の無数の分身を相手にしている金髪の女性を見つめながらも手から次々と分身を生み出していた。


 「あいつが一番厄介ダナ」


 霊異者の視線の先にいる女性は、金髪の長い髪をなびかせながら分身を次々と倒していっている。


 あまりにも容易に、余裕の笑みすら浮かべて戦っているその様を見るだけで女性が強者だということがよく分かる。


 仮に一対一で戦エば、負けるのはこちらだロう……あくまで一対一なら。


 金髪の女性は強い。自分と近しい実力を持つ分身達を倒し続けている。


 それに持っている刀、アレは危険ダ。


 だがそんな強い女性でも、分身を生み出すスピードを超える速さでは分身を倒せていない。


 霊異者はだるそうに肩を落とした。


 「……あぁ……邪魔、ダ」


 はあ……本当だったラ、今頃は一人の少年を殺シテ悦に浸っていた筈ナのに。

 

 ちらりと遠くで座り込んでいる少年を見る。


 その少年はこちらの視線に気付き、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。


 あいつらさえイナければ、今この瞬間には、あの少年の表情を、心ヲ、感情ヲ!恐怖に染メて、震え上がラセながらその体ヲゆっくりと痛ぶっていたはずナノニィィィィ!


 …………アァ、そう考エルと苛立ちが募ってくるナ。

 

 「…………ンァ?」


 

 ふと、己に近づいてくる気配を感じ取る。その数は二つ。


 横を見ると、二人の邪魔者がこちらに歩みを進めてきた。


 「アアァ?」


 霊異者は鬱陶しそうに顔を歪ませる。


 自分に向かってくるのは二人の子供。あの背の低い少女の方は、複数体の分身を相手取ることができるくらいにはそこそこ強いが、それでも自分には及ばない。


 そして、そんな少女の隣にいる少年は雑魚だ。脅威にもならず、獲物となんら変わらない者。


 気にかける必要のないほどの雑魚。


 そんな二人を見て、霊異者はこう考えた。


 少年はともカく、この少女を殺セバ、あの金髪ノ女に集中デキル。


 この少女が分身を倒すのに加われてしまうと、さっきのように自分が分身を出すのと倒されるスピードが同じになってしまい、いつまで経ってもこの戦いは終わらずにあそこで座っている少年を殺す時間が伸びてしまう。


 ……今、この少女ヲ殺してしまえば、あそこで分身と戦ってイル金髪の女ヲ殺せる時間ガ短くナル。


 そして、あの少年を心ゆくままに殺せる。


 「……アッハァァァァ」


 アア、そう考えると笑みガ止まらナイ。


 霊異者は分身を作る手を中断し、体を二人の方へと向けて、その身に霊力を纏わせた。


 真っ赤で血のように濃い霊力。鮮血に近い色をした霊力を己の全身に余すことなく巡らせていく。

 

 その様はまるで薄い鎧。


 それを見た佳奈島清は左手にナイフを握ると構えを取った。また、奥崎蓮も全身に霊力を纏い、身体能力を上げる。


 「奥崎蓮、始める」


 「ああ」


 乏しげな電灯の真下で、奥崎蓮の頷きとほぼ同時に佳奈島は動き出したのだった。

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