第85話 厄介極まりない
「ーーっ!ーーーー!」
誰かの声がする。耳鳴りが鳴り響く暗闇の中、聞いたことのある男の声が鳴り響いている。
目覚めるなら女の子の声で目覚めたかった。
そんなことを考えてしまうが、聞こえてくる声の持ち主が切羽詰まって俺を呼んでいるため、それどころではないのではないのだろう。
俺は曖昧な意識に鞭を打ち、無理矢理に覚醒させた。
次第に聞こえてくる声も大きく鮮明になり、視界も明るくなっていく。
見えてきたのは一筋の灯りと竹一改の泣き顔。
「……い!……ざきっ!おい、奥崎!大丈夫か!」
「……んぁ?」
気がつくと目の前に改がいて、倒れている俺をゆすぶっていた。
俺が目を開けたことにより、意識が戻ったことに気がついた改は、若干の涙を目尻に浮かべながらも安心したように笑った。
「俺、奥崎が死んだんじゃないかと思ったぞ」
「……?」
鼻をすすながらも涙ぐむ改にそう言われ、俺は気絶する前の記憶を辿る。
確か……俺と改で霊異者を誘き寄せて、佳奈島と祭持さんが霊異者を倒してくれた。で、無事除霊が終わったと思ったら、急に壁から霊異者がすり抜けて出てきたんだったか?そして俺は……
上体を起こし、俺が倒れている場所を確認する。
今いる場所はさっき俺と改がいた場所とは違う場所だった。それに俺の後ろには穴の空いたコンクリートの壁があり、俺の周りにはコンクリートの破片が散らばっている。
……そうか。俺は吹き飛ばされたのか。
何故俺が倒れていたのか、そのことが分かった俺は次に自分の体を確認し始めた。
手を動かし、足を上げてみる。
全身をくまなく目視するも、既に負ったであろう怪我は完治しており、どこも痛む箇所はない……ということは結構、時間が経ってしまったのか?
一通り、自分の状態を確認し終えた俺は改に尋ねる。
「改、あの霊異……化け物はどうなったんだ?」
改は目元の涙を袖で拭うと、首を横に振った。
「分からねえ……金髪の女性と佳奈島が戦っているのは確かだけど、俺の目では追えねえんだ」
そう言い、改は交差点の方を見る。それに続いて俺も向くと、そこでは佳奈島と祭持さんが大勢の同じ姿をした霊異者と交戦している最中だった。
その戦闘は改の言う通り、常人には目視不可能なほど素早い戦いが繰り広げられていた。
俺も霊力を纏う前の状態では目で追うことができず、時折、霊異者の拳と交えている祭持さんと佳奈島が現れては消えてを繰り返していることしか確認できない。
自分の全身、瞳へと霊力を纏わせることによって、ようやくその戦いを見ることができたのだった。
複数の霊異者が飛びかかってくる中、佳奈島は小柄な体を活かして巧みに隙間を潜り抜けては蹴りを入れていた。
佳奈島には後ろに目でも付いているのではないのだろうか。
そう思ってしまうのも当然。佳奈島は見えないはずの後方からの攻撃も、目視せずに難なく避けていたのだ。
そして佳奈島の右手には霊能力である『消滅』は宿っておらず、温存しておきたいのか、使っていない。
祭持さんは飛びかかってくる霊異者達を切り伏せていた。
狭い路上を縦横無尽に駆け回り、軽い足取りで次々に霊異者へと向かっている。その最中、祭持さんは余裕そうな笑みを浮かべてはいるが、端から見ている俺にはそこまで余裕があるようには思えない。
何故なら二人が戦っている霊異者は二十数体にも及んでいるのだから。
それに祭持さんと佳奈島が霊異者を倒し続けてはいるが、それと同じくらいの速さで本体である霊異者が分身をどんどん生み出している。
厄介なことに本体は二人から少し遠くにおり、分身達を倒すことに精一杯な二人では分身を生み出すことを止められない。
おいおい、上限はないのかよ。
少し遠方で、何食わぬ顔をして分身を次から次へと生み出している本体を見て、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
今行われているのは耐久戦。霊異者の霊力が先に切れるか、祭持さんと佳奈島の体力が先に尽きるか……そんな戦いだ。
俺にはどっちに転ぶかは分からない。分かるとするならば、戦っている本人達だけだろう。
そんな感じで改と二人で戦いを眺めていると、突如として祭持さんが行動を起こした。
「……ふっ!」
祭持さんが唐突に速度を上げる。さっきも速かったのだが、今はさっきとは比にならない速さで分身と思われる霊異者を切り捨て始めた。
分身を倒しながらも、半ば強引に本体へと近づいていく。
それは慣性の法則に逆らった強引な刀捌き。
駆け抜けながらも懺悔薄刀のリーチの長さを利用して複数の霊異者を切断し、宙を舞う。
異常な程の速さで刀を振るい、近くの霊異者を一掃すると同時に宙を蹴り、その勢いのままに本体へと一直線へと向かった。
端から見ている俺には余りにも力技極まりない動き。
祭持さんは限界まで引き延ばした腕を利用して、本体目掛けて強烈な一閃を入れるのだった。
そんなごり押しとも取れる強力な一撃を繰り出した祭持さんだったが、本体である霊異者はその一閃を避ける。
途轍もない速さの斬撃だったから、確実に霊異者を斬ったと思ったが、霊異者にはその一撃が見えていたらしい。
若干、重心を傾けた姿勢で祭持さんを一瞥すると、後ろに下がりながら分身を生み出して、その分身を祭持さんへと集中的に向かわせた。
そんな霊異者の一連の体捌きを見た祭持さんが呟く。
「なるほど。分身と本体の戦闘能力に差異は無いと思っていたけど……若干、本体の方が強いみたいだね」
本体が遠のくと共に、本体が生み出した霊異者達に阻まれ、その姿は次第に見えなくなっていく。
分身の先にいる見えない本体に、祭持さんは毒を吐いた。
「自分は攻めないで分身をぶつけてくるから、てっきり分身よりも弱いと思っていたよ」
祭持さんの周りに大量の霊異者達が集まってくる。我が先だと言わんばかりに飛びかかってくる分身達を見て、密かに眉を顰めたのだった。
「本当にキリがない……嫌になるよ」




