第83話 頼もしすぎる二人
そのまま二人は最後の別れ道を通り過ぎ、行き止まりへと迷わず一直線で向かう。
その足取りは決して重くはなく、迷いもない。さっきまでの怯えただけの顔ではなく、今も怯えてはいるが、決意に満ちた表情をしている。
こうして二人は行き止まりへと辿りついたのだった。
「行き止まりに着いたぞ、奥崎!こっからどうすればいいんだ!?」
壁に背を向けた改が横にいる俺に聞いてくる。全速力で走った疲れから、肩を上下する改を横目に俺は辺りを見渡した。
この場所は三方向にはコンクリートの壁。家もあるが、それはコンクリートの壁の奥にあり、その家々には明かりは灯っていない。
というか、自分達を照らしているのは右端に立っている電灯一本のみ。そのため、見える範囲は限られており、その範囲には祭持さんと佳奈島の姿は確認できない。
祭持さんと佳奈島が待ち伏せしているって話だったが……本当にいるのか?
あまりにも周りが静かすぎるため、そんな不安が押し寄せてくる。だがそれも一瞬。それは無いとすぐに頭から疑問を振り払った。
祭持さんはちゃんと待ち伏せすると言っていた。それに佳奈島もいる。流石に昨日みたいにどこかに行っているということはないだろう。
「もう少し……もう少し待ってくれ!」
俺は自分に言い聞かせるように強く言葉を吐く。そんな願望とも取れる俺の言葉を聞いた改の中で焦りが生じる。
「はあ!?そんなこと言ったって、もう追いつかれちまうぞっ!」
改は俺の両肩を掴んだ。不安からか、力加減が全くできてなく、勢いよく俺を揺さぶってくる。
「おあぁぁぁ!……お、おおい!やめろって!」
強く揺さぶられ、大きくブレ続ける視界の中、そう言うも、改はやめようとしない。というか、聞こえていない。
「もうそろそろ霊異者がここにー!」
ま、まだか……祭持さんと佳奈島はまだなのか!?
ぐわんぐわんと揺れる視界の中、祭持さんと佳奈島に早く来てくれと願う。だが、やってきたのは祭持さんでも佳奈島でもなかった。
「なあ奥崎っ!ここの来たのには意味があるんだろー!…………あ」
改の手が突然止まる。俺のブレブレだった視界が戻り、改の顔がハッキリと見える。俺の目が捉えた改の顔は俺の方を向いてはおらず、俺達がやってきた方向に向いていた。
改が凍りついた表情をしている。
ま、まさか……。
俺もゆっくりと改と同じ方向へと顔を向けた。そこには俺達を追ってきていたあの霊異者が立っていた。
その距離は百センチ……いや、もっと短い。手を伸ばせば届くくらいの距離で霊異者が俺と改を覗き込むようにして佇んでいたのだ。
霊異者が笑う。楽しそうに嬉しそうに、残虐で嗜虐的な笑みをその顔に浮かべてゆっくりと口を動かした。
「鬼ごっこはもうイイのかァァァァ?」
「「ひぃっ!」」
霊異者が見せる顔があまりにも悍ましく恐ろしかったため、改は俺の袖を強く握った。その手は袖越しだというのに、俺にも分かる程、震えていた。
「ゆ、ゆゆ、幽霊だ!!」
手と同様に、改は震えた声で叫ぶ。青ざめた表情でカタカタと歯を鳴らして怯え始めた。
そんな中、俺は霊異者がいつアクションを起こしてきてもいいようにと、俺の袖を掴んでいる改の手を解こうとするも……解けない。
あれ?一応……今、俺は霊力で身体能力を上げているのだが……え?改、力強くないか?
「お、おい!俺の服を引っ張るなよ!」
無理矢理解くことを断念した俺は、改にそう言うも、俺の方など一切見てはくれない。改の目は、霊異者に釘付けになってしまっている。
駄目だ。恐怖で聞こえてやしない。
「う、うわぁぁぁぁ!」
「はあ!?ちょっ!?」
しまいには俺に抱きついてきた。俺の足に両足をクロスさせ、腕に両腕を絡めてくる。俺は足やら腕やらを絡められ、動こうにも動けなくなってしまう。この状態では対処できることもできない。
そんな俺たちに、霊異者が腕を伸ばしてくるのだった。
「あはぁハァ……えふぇヘェぇ!」
「「うわああああ!」」
霊異者の手が迫る。俺はなんとか避けようとするも、改が俺にがっしりとつかまっているためにうまく身動きができず、避けることができない。
あたふたとしている俺と改の視界が霊異者の真っ白な手で埋め尽くされるのだった。
「「あぁ……」」
終わった……再生できる俺はともかく、改は……
迫り来る霊異者の手を見て、そう思った俺は一貫の終わりだと目を閉じようとした……が、その時、霊異者の手が俺と改の顔に触れる寸前でどこからか声が聞こえてきたのだった。
「……させない」
その言葉は無感情ながらに微かに力強く、聞き馴染みのある声。俺の友達であり、ぶつかり合った仲である佳奈島の声だった。
その声が聞こえたと同時に、俺と改へと伸びていた霊異者の手が止まる。そしてズルズルと腕から先が地面へと落ちた。
霊異者の腕の断面は、刃物で切ったにしては綺麗すぎる断面。
気付くと俺達の左側に佳奈島が立っていた。その右手には『消滅』が宿っている。どうやら、佳奈島が『消滅』で霊異者が伸ばした手を切断したみたいだ。
「た、助かった」
そう思ったが否や、俺は地面にへたり込んだ。腕に絡みついていた改も同時に地面へと倒れたが、それでも離そうとはしない。けれど、佳奈島が来てくれたんだ。もう大丈夫だろう。
俺は壁に背を預ける。安心から脱力し、ため息を吐いた。
「ッ!ァガぁぁぁぁ!」
そんな俺に、霊異者が残っているもう片方の腕を伸ばした。さっきのようにゆっくりとではなく、確実に俺達を仕留めようと勢いよく振りかざす。
だが、その手も俺と改には届かない。
今度は切断音共に、霊異者の腕が吹き飛んだのだった。
「良い働きだ、奥崎君。やっぱり君は私の助手に相応しいね……ただ、一般人と一緒になって怯えるのはどうかと思うよ?」
いつの間にか右側に祭持さんが立っていた。祭持さんは長い懺悔薄刀を振り上げる形で持っており、俺に向かって笑みを浮かべている。
「……ァ?」
突然のことに驚きの表情を浮かべる霊異者。何が起こったのか分からなかったのだろう。霊異者からすれば、勢いよく腕を振るい、目の前の人間を殺ったと思ったのに、その人間は生きていて、代わりに己の腕が吹き飛んだのだから。
霊異者の表情が一変する。
さっきまでの楽しげな笑みから怒りの表情へと変わり、口が裂けるのではないかと思うくらいに口を大きく開けて叫んだ。
「邪魔……スルなぁァ!」
そう言うと、霊異者は俺と改から目を離し、横にいる祭持さんの方へと体を向けた。
「おっ?」
霊異者は、自分の片腕をもいだ少女も危険だが、この中で一番の障害はもう片方の腕を斬り飛ばしたこの金髪をなびかせる女性である祭持さんだと直感的に感じたのだろう。
「ォォォォアぁぁ!」
霊異者は雄叫びを上げながら祭持さんの方へと飛び出す。それと同時に、佳奈島は万が一の時のために俺と改を守るようにして前に立った。
己へと霊異者が向かってくる中、祭持さんは懺悔薄刀に視線をやる。まるで愛おしい恋人の頬を這うように刀身をなぞると、その口元を緩ました。
「何百、何千……彼の者滅さん」
再度、霊異者を見る。両腕が無い中、狂った形相で口を大きく開け、噛み殺そうと迫ってくる霊異者に向かって一言。
「残念。君では私に勝てないよ」
刹那、祭持さんの姿がブレた。今の俺の目では追うことなど到底敵わない速さ。
気がつくと霊異者は木っ端微塵に斬られており、振り上げた姿勢で祭持さんが佇んでいるのだった。




