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第80話 俺の役割……

 深夜。左右に並ぶ家々も既に明かりが消えており、町全体が寝静まりかっている中、俺と佳奈島、そして祭持さんは道路の真ん中を歩いていた。


 俺を中央にして歩く三人。


 車が走っていないこの時間帯は堂々と道路の真ん中を歩いても問題は無い。普段とは違う景色……状況に、三人は各々の思いから微かに心を躍らす。


 夜の街……いつもは車の音やら人の声やらで騒がしい町が静まり返っているという新鮮さに俺は楽しさを見出す。


 いつもとは違うメンツでの除霊ということに若干の嬉しさを胸に秘めているが表情に出すことはない佳奈島。


 そして、これから面白いことが起きる、見られるのだと口元を緩ます祭持さん。


 彼、彼女らは霊異者が現れるであろうその場所へと向かうのだった。


 しばらくして、祭持さんが足を止めた。そこは普通の交差点と何ら変わらない場所。交差点に入りかかる手前で、祭持さんは振り返り、その口元を歪ました。


 「着いたよ。ここが霊異者が現れる場所だ」


 見晴らしの良い交差点。程よく電灯が辺りを照らしているため、この場所に霊異者がやってきたときに間違っても見落とすなんてことはないだろう。


 交差点をざっくりと見渡し、そんなことを考えていると、祭持さんが人知れず微笑んでいることに気付いた。


 祭持さんのことだ。ろくなことを考えてはいないだろう。


 「祭持さん。来たはいいけど……俺はどうすればいいんだ?」


 俺はあのビルを出てから、ずっと気になっていることを聞いてみる。


 数十分前、あのビルの廃墟で会議をしたが肝心の作戦を決めていない。いや、祭持さんのことだから既に作戦は考えているのだろうが、その作戦内容を聞かされていない。


 故に俺は何をすればいいのかがよく分かっていないのだ。なにしろ除霊なんてもの、俺はこの方初めてだからな。


 祭持さんは一度俺の目を見ると、何を思ったのか、俺に向かってくる。そしてその整った顔をずいっと近づけるのだった。


 祭持さんは何故顔を近づけて来たのか……俺は一瞬分からず戸惑ってしまう。だが、祭持さんの唐突な行動は今までも多々あった。大層な理由なんてないのだろう。無理に理由をつけるとしたら、それはきっとこうしたら面白いから……とかではないだろうか。


 祭持さんは俺の目をじっと見つめた後、喋り出す。


 「奥崎君……君は、君自身の特異体質を存分に活かしてくれればそれで良いよ」


 琥珀色の瞳。その瞳で見つめられ、気圧されてしまう。


 このままずっと見ていたら吸い込まれてしまうのではないか。


 そう思い、俺はその瞳から逃げるように目を逸らすも、目を伏せた先に祭持さんの唇が視界に入り、俺はついその唇に目を釘付けにされてしまう。


 俺は祭持さんの唇を見ながら尋ねる。

 

 「……と言うと?」


 「それは、もちろん……囮になってくれって、意味だよ」


 その唇を動かし、ゆっくり、はっきりと喋る祭持さん。言葉を言い終える同時に口角を大きく吊り上げた。


 そして近づけていた顔をパッと離す。距離を取り、微笑む祭持さんに俺は嫌そうな顔を見せるのだった。


 「お、囮かよ……他には何かすることはないのか?」


 「他?うーん、それは考えていなかったな」


 ……おい、囮の役割だけで俺を連れて来たのかよ。


 囮だけで連れて来られたと言う衝撃の事実にショックを受け、肩を落としてしまう。


 確かに俺の体質を考えれば妥当な役割だが、あまり良い役回りではない。それにそれだけが俺の役割って……遠回しに俺が役立たずって言われてるようなものじゃないか。


 ……まあ、確かに俺はまだ霊異者と戦えるとは言い難いが……なんかこう、うん、ショックだな。


 深いため息をついていると、隣にいる佳奈島が首を傾げて祭持さんに尋ねた。


 「……私は?」


 「佳奈島君。君はもちろん私と一緒に除霊に加わってもらうよ」


 「うん、分かった」


 あぁ……いいな、佳奈島は。戦うのはごめんだけど、ちゃんとした役割っていうものがもらえるなんて……なんかちょっと羨ましいな、おい。


 センチメンタルになり、前のめりの姿勢になってしまう。心無しか、ただえさえ暗い夜の交差点が、さっきよりも薄暗く感じる。


 死んだ目で薄暗い交差点を見つめていると、隣から佳奈島が声をかけてくるのだった。


 「ねえ、奥崎蓮」


 「……なんだ?」


 「頑張って、ね」


 「え?お、おう」


 横を見ると、佳奈島が小さく手をガッツポーズをしていた。顔は相変わらずの無表情だが、声色から張り切っているのが分かる。


 今、俺……佳奈島に応援されたのか?


 そんな言葉を佳奈島から言われるなんて思ってもいなかった俺は目をパチパチさせ、口を開けっぱなしで呆けてしまう。


 誰が見てもアホだと思うような表情で突っ立っていると、祭持さんが手を叩いた。


 「時間も近くなってきたから、私の話を聞いてくれ。作戦はこうだ。奥崎君、君がここで霊異者と少年が来るのを待つ。そして霊異者と少年が出てきたら彼らを連れて、この先をずっと走って行ってくれ。そうしたら、その先で待ち伏せをしている私と佳奈島君が二人がかりで霊異者を滅する……どうだい?良い作戦だろう?」


 「うん、良い」


 祭持さんの話を聞いて、佳奈島は納得から強く頷く。対して俺は、その作戦で良いのか?と眉を顰めてしまう。


 今言った作戦内容。祭持さんの立てた作戦が結構大雑把なのは……ま、まあまだ良いとして、一つだけ……一つだけ懸念点がある。それは俺が霊異者と少年を誘導するという点だ。


 「祭持さん……霊異者と少年を連れてきてくれって簡単に言うけど、少年が見ず知らずの俺の言葉を信じて、ついて来てくれるとは思わないんだが」


 そう、俺がその少年の知人、もしくは俺自身が知名度の高い人物であれば俺の言葉を信じてついて来てくれる可能性は高いだろうが、残念だが、俺は今回狙われている少年の知り合いではないだろう。


 まあ、まだその少年を見ていないから絶対そうだとは言い切れないが、たまたま祭持さんが受けた依頼の被害者が俺の知り合いだなんて可能性は限りなく低い。それに俺は有名人でも何者でもない。


 もし俺が祭持さんと佳奈島が待つ場所へと誘導できなかったら、この作戦は失敗。少年は霊異者の餌食になってしまう。


 滅多なことがない限り死ぬことのない俺が誘導するというアイデアは良いが、正直、成功する確率は低いだろう。


 俺は作戦の不安を吐露するも、祭持さんは一切問題ないと微笑んだ。そして言い淀むこともなく俺に言う。


 「それは大丈夫だよ。霊異者も少年も、奥崎君なら連れてこれるからね」


 「おい、それってどういう……」


 「じゃあ奥崎君。もう少ししたら、あの角から霊異者と取り憑かれている少年が飛び出してくるから、殺されないように頑張ってくれ。期待を込めて……待っているよ」

 

 祭持さんはそう言うと、踵を返して交差点の奥へと向かっていく。


 「お、おい!」


 その背中に声を荒げて呼び止めるも、祭持さんは振り返ることなく、スタスタと歩いて行ってしまう。その後に続いて佳奈島も行ってしまうのだった。

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