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第8話 『迷いの館』再び

 その後はなるべく競斗さんと距離を取り、話しかけられたら競斗さんの顔以外どこも見ないという戦法でなんとかやり切った。競斗さんには申し訳ないが、この方法しか俺の身を守る方法が思いつかなかった。少々罪悪感はあるが仕方ないんだ、すまない。


 まあ、俺はいつも相手の目を見て話すタイプではない為、「奥崎君って、そんなに相手の目を見て話す人だったっけ?」と不審がられたが、乾いた笑いでなんとか誤魔化すことができた。と言うか競斗さんが一歩引いたというか……まあ気にしない、気にしない。


 そんなこんなで午後の授業が全て終わり、帰りの会、ショートホームルームも終わった。チャイムがなり、放課後になった為、俺は学校を出たのだった。ちなみに俺は部活には入っていない……強いて言うなら帰宅部という奴なのだ。


 俺は校門を通り抜け、いつも通っている帰り道とは違う道を歩いていく。今日はこのまま家には帰らない。昨日知り合った霊異のスペシャリスト、祭持さんの家に行くつもりだ。


 ……あのまま、霊異者にくっつかれたままの競斗さんの状態を放っておく訳にもいかない。あれを放っておくと競斗さんにどんなことが起こるか分からないし、放っておくことによって隣の席の俺にも被害が及ぶかもしれないからな。


 霊異者に詳しい祭持さんなら……祭持さんに相談したら解決してくれるのではないか?もしくは助言をくれるかもしれない。ともかく俺の知っている人で霊異を知っているのは祭持さんしかいない。


 そんな淡い期待に胸を膨らませて、俺は祭持さんに競斗さんのことを相談すべく、祭持さんの家……『迷いの屋敷』へと向かうのだった。

 



 十分くらいだろうか。学校を出てからそれくらいの時間歩いた頃、祭持さんの家へと繋がる道の前へと着いた。


 何も変哲のない道。歩道があり、電柱がある。住宅が並んでいて、車も止まっている。その奥には交差点があり、奥へと続いてる。そんなどこにでもある道だ。


 だが俺は知っている。この道をずっと右に曲がり続けると不気味なところに繋がるということを。もし途中で道を間違えたらどうなるか分からない、もう戻ることはできなくなるかもしれない道へと続いていることを。


 そう考えるとなんだか寒気がしてきたな。


 俺は無意識に体を震わせ、唾を呑んだ。


 だが、ここで止まってても仕方がない。祭持さんに会う為にはここを通らないと会えないし、恐怖の道といっても、そもそも迷わなければ何の問題はないんだ。

 

 よし。


 俺は意を決して歩き始めた。祭持さんに会うべく、『迷うの道』へ入っていくのだった。




 やっぱり前も思ったけど気味が悪いな。

 

 ひたすらに右へと曲がり続け、同じ道をぐるぐると周り続けて、数分。おそらく五、六周したくらいだろう。気がつくと周囲から音がしなくなっていた。正確には、風は微かに吹いていて風の音は聞こえるが、他の音は何もしない。人や車の音はもちろん、さっきまで聞こえていた鳥や虫の声もしなくなった。まるで自分以外に誰もいないかのよう……。


 『迷いの道』に入ることができたのか?


 しばらくその場で立ち止まってみても、車が来ることも人の声が聞こえることもない。どうやら今俺のいる場所は『迷いの道』で間違いないようだ。


 俺はなるべく道路の真ん中を歩くようにしてそのまま右に歩き続けると、交差点の先に目指してきた館が見えてきた。


 そう、『迷いの館』。祭持さんの住む家だ。


 良かった……迷わずに着けた。


 取り敢えず、無事に祭持さんの暮らす家に着くことができたことに安堵し、息を吐いた。


 それから俺は門のついていない入り口を通り、小さな庭を歩く。庭には無造作に置かれたレンガがあちこちにあり、手入れをしていないのか雑草が伸びている。そんな庭に、ポツンと犬の石像があるのが目についた。昨日は気が付かなかったその犬の石像には、一輪の花が添えられている。


 まあ、昨日は見る間もなく館に入ったからな。それに、そんな余裕もなかったから見落としていたのだろう。


 少し遠くからまじまじと犬の石像を見て俺はそう思うと、意識を館の方へと向け、歩き始める。


 まさか次の日にくるとは思わなかったな。


 普通の家の扉より一回り大きな扉を前に、俺はため息をついた。


 そしてチャイムを押そうと探すが、チャイムらしきものはどこにも見当たらない。扉には丸い輪がぶら下げられているだけ。


 ……ん? この輪は見たことがあるぞ。たしか映画で見たな。……は!?これがチャイムなのか!


 一瞬の硬直の後、そう思い至った俺はそれがチャイムの代わりだと理解する。そしてその輪を持ち、扉に叩きつけるのだった。


 「おや? 奥崎君じゃないか?」


 少しして、ドタドタと家の中から音が聞こえたと思うと扉が開き、中から祭持さんが出てきた。 

 

 ついさっきまで寝ていたのだろうか、もう夕方に近いというのに、薄手のピンク色の寝巻きを着ている。祭持さんのナイスバディも相まってなんてエッチい……。そんな俺の視線に気がついたのか、祭持さんは体を少し傾けて悪い笑みを見せた。


 「学校帰りに大人の女性の家に来るなんて悪い高校生じゃないか」


 「……そんなんじゃないですよ」


 そう、そんなやましい理由では決してない。だが、胸元を見ながら言う俺の言葉は説得力が皆無だった。


 そんな俺の反応に、祭持さんは悪ノリで乗っかってくる。


 「そんなんじゃないって……なんだい?詳しく教えてくれないかい?」


 わざとらしく前のめりで強調する祭持さんのグッドなバディが……おっといけない。


 ……これ以上は俺が持たない。あまり女性と接する機会のない俺は、こういう流れは得意じゃないんだ。自分が恥をかかない為にもこの会話はここで途切らせたい。俺は大袈裟にコホンと咳込むと、冷静を装うよう為に表情筋を固まらせ、祭持さんの目を見る。


 「……相談を……しにきたんだ」


 あぁ、すごいな……こんな魅惑ナお姉さんを前ニ冷静にナレル俺スゴイ……見たい……見たいよ。


 下にいこうとする視点を鋼の意志でなんとか動かさずに固定させていると、祭持さんの表情が変わった。ニヤニヤと悪戯な表情が一変し、仕事の顔になったのだ。


 「へえ?……まあ、立ち話もなんだから入りなよ」


 相談という言葉を聞いて、俺が霊異関係で訪問しに来たのを察したのだろう。祭持さんに促されるままに俺は『迷いの館』の中へと入るのだった。




 昨日と同じ部屋に案内された後、祭持さんはしばらくその場に俺を置いて、どこかに行った。そして数分後に戻ってきた祭持さんの服は変わっており、ピンクの薄い寝巻きから見覚えのある赤紫のオーバーサイズシャツになっていたのだった。


 「それで?私の元に来たということは霊異関係で何かあったってことでいいかい?」


 静かにソファに座った祭持さんは、片足を組み、鋭い目つきでこちらを見てくる。そんな祭持さんの問いかけに俺は頷いた。


 「そうだ」


 「ふむ……」


 何かあるのだろうか。じっくりと俺のことを品定めでもするかのように見ている。


 「・・・・。」


 「まあ、見た感じ君に何か変化が起きたようには見えないから……身近な人が霊異関係に巻き込まれた……とかってことかな?」


 そう言うと、祭持さんはゆっくりと目を閉じ、目尻の辺りを指でさすり始める。


 合っている。俺を見ただけでそこまで考えが及ぶなんて、俺が思っている以上に祭持さんはすごい人なのかも知れない。


 「それで、誰なんだい? 霊異関係に巻き込まれた人っていうのは」


 祭持さんはソファに背中を沈ませ、リラックスしながら俺に聞いてくる。


 「俺が通っている学校のクラスメイトに霊異者が取り憑いているんだ」


 「ふーん、君のクラスメイトね……もっと詳しく説明を聞かせてくれ」


 もちろん、俺もそんな説明で終わらせるつもりはない。俺は今日の学校でのことを祭持さんに話したのだった。

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