第77話 会議がようやく始まる。
それから数時間後。時間になった為、俺は祭持さんと一緒にビルの廃墟に向かった。
祭持さんは庭に置いてある犬の石像を、懺悔薄刀へと戻し、引きずるように持つ。
既に辺りは暗く、動いている車達は皆、ライトを付けて走っている。
そんな夜道を、青白い街灯の下、祭持さんと二人で歩くのだった。
迷いの館を出ること二十分弱。早く着く訳でも遅刻する訳でもなく、ちょうどいい時間に着いた俺と祭持さんは、廃墟のビル内へと足を踏み入り、二階へと向かう。
時間通りに着いたのに関わらず、外蘭達は既に待っており、前回と同じように外蘭がソファに座り、その両端に佳奈島と三輪が佇んでいた。
ただ前回と一つ違うことがあった。それは外蘭が座っているソファの前に大きな丸いテーブルが置かれていたのだ。
外蘭がだるそうな顔をしている横で佳奈島はいつも通りの何を考えているか分からない無表情で立っている。
その反対側では三輪さんが外蘭とは対照的な、やる気に満ちた表情をして俺たちがくるのを待っていた。
三人の表情から察するにどうやらこのテーブルを置いたのは三輪さんみたいだな。少しでも外蘭に会議に対して興味を持ってもらう為に用意したのだろうか。
そんなことを考えていると、二階へと上がってきた俺たち……いや、俺に向かって外蘭が意地悪な笑みを浮かべてきた。
「よぉ、クソガキぃ。また会ったなぁ」
ソファに肘をつき、煽るように俺を見てくる。ニマニマと俺を小馬鹿にするような表情を浮かべる外蘭に、俺は苦虫を潰したような顔を見せる。
「……あ、ああ。一昨日ぶりだな」
歯切れの悪い返事。その返事を聞いた外蘭は、つまらなそうにため息をついた。
「はあ……安心しろよなぁ、俺はもうお前に殺しにかかったりはしねぇからよぉ」
残念そうに肩を落とす外蘭。本当は殺したかったと言いたげなその態度に、俺は苦笑をこぼすしかない。
そんな俺たちの会話に一切興味が無いのか、佳奈島が今来たばかりの俺たちを急かしてくる。
「会議まだ?……早くしよ」
佳奈島はテーブルの前に行き、待ってると言わんばかりに祭持さんをじっと見る。それに続いて外蘭と三輪さん、そして俺自身も祭持さんの方へ顔を向けた。
この場にいる全員に見つめられた祭持さんは、仕方がないとばかりに腰に手を添えた。
「……そうだね。早速だけど会議を始めようか」
そう言い終えるが否や、祭持さんは佳奈島が待っているテーブルへと足を運ぶ。それに続いて俺もテーブルへと向かうのだった。
街の外れにあるビルの廃墟。その二階では、今にも切れそうで心許ない電灯の下で、一つのテーブルを囲うようにして五人の男女が集まっていた。
一人は除霊師……また、一人は霊媒師。彼らと彼ら二人の弟子と付き人である女性の五人は、ある霊異者を除霊するための話し合いを始めようとしている。
今夜、行う……除霊について。
皆が一様に真剣な表情を浮かべる中、ただ一人、長身の女性だけは余裕そうな不気味な笑みを浮かべている。
まるでこれから始める会議は全然大したことではない……そんな風にも取れるが、それは間違いである。
今から始める会議で取り上げられる霊異者は、既に実力者である除霊師を一人殺しているのだから。
女性は灰色の手袋を履いた手でテーブルをそっとなぞるとゆっくりとその口を開いた。
「これから、霊異者を滅するための会議を行う」
その声は決して大きくはないが、静まり返っているこの空間では、やけに響く。皆がその女性を見つめる中、女性は言葉を続けた。
「まずは標的である霊異者について説明しよう。霊異者の生前、人であった頃の名前は『麦原 翔』……猟奇殺人鬼だった男だ」
「……猟奇殺人鬼?」
祭持さんの口から突然飛び出てきた単語に俺は思わず驚愕の表情を浮かべてしまう。
まさか俺達が今から滅しに行こうとしている霊異者が生前に犯罪者だったなんて……
そんな奴と、俺はこの後戦わなきゃいけないのかよ。




