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第75話 チョコ大好き佳奈島清

 俺、奥崎蓮は佳奈島の説得に成功したあの後、宣言通り、佳奈島にお菓子を好きなだけ奢ることにした。


 最寄りのコンビニに行き、佳奈島が食べたいだけのお菓子を買ってあげたのだ。


 ……正直、自重と言うか俺に対して多少は遠慮すると思っていたが……まあ、そんなことはなかったな、うん。

 

 そう、佳奈島は次から次へと棚に並んでいるチョコをカゴに入れ、それでも足りないと店員を呼んで追加のチョコを頼み、その総額は一万円を軽く超えたのだ。


 はあ、確かに好きなだけいいとは言ったが、限度ってものがあるだろ。


 大量のチョコが入った大きなビニール袋を両手に持つ佳奈島と、財布が軽くなり、若干、顔が青ざめている俺はコンビニを出た。


 そしてチョコを食べるためにもう一度公園のベンチへと戻ったのだった。


 


 公園に入ると、まださっきの子供達が楽しそうに遊んでいた。そんな子供達を見ながら佳奈島はチョコを口に運ぶ。


 「ん、うんまい」


 「そうか……それは良かった」


 目を輝かせてモグモグと口を動かす佳奈島に俺はやつれた顔を見せる。


 佳奈島は次々とチョコを袋から取り出して、食べ続ける。特にやることのない俺は遊んでいる子供達を見ながらボーとする。


 ふと、佳奈島は何かに気付いたのか、「むっ」と一言こぼすと俺の方を向いた。


 「ん?どうしたんだ佳奈島?」


 突然こちらに顔を向けてくるのもだから、俺も気になり尋ねると、佳奈島は難しい顔をしながらチョコに視線を落とした。


 「……おかしい、なぜかいつもより美味しく感じる」


 「それはな、人の金で買ったお菓子だからだ」


 「なるほど」


 俺の言葉に納得した佳奈島は、袋へと視線を戻す。そして次のチョコへと手を伸ばした。


 その後もパクパクと夢中になってチョコを食べ続け、開けた袋に入っていたチョコがみるみる内に無くなっていく。


 ついに最後の一個となったチョコを手に取った時、佳奈島は突然、動きを止めたのだった。


 「・・・・」


 今まですごい勢いで食べ続けていたのに、急に固まった佳奈島に俺は驚き、問いかける。


 「ど、どうしたんだ」


 「・・・・」


 俺の問いに答えようともせず、ただただ手に持った最後のチョコを見つめている。その顔はいつも通りの無表情な為、何を考えているのかは当然分からない。


 「……佳奈島?」


 「…………ん」


 何を思ったのか、佳奈島は俺にチョコを向けて来た。


 「ん?」


 え?なんだ?チョコをなぜ俺に向けてくるんだ?


 佳奈島の意味がわからない行動に俺は首を傾げる。そんな俺に佳奈島は小さな声で言うのだった。


 「チョコ、いる?」


 「え?」


 「前に、このチョコ好きって言ってた」


 前に?うーん、そう言われると以前、「小さい頃はよく食べてた」とか佳奈島に話したような……って、今それを思い出したから俺にくれるってことか?


 ……固まってたのは、最後の一個を俺にあげようか迷っていたからか。


 くれると言っているのだから、貰わないと悪いだろう。そう思った俺は佳奈島からチョコを受け取るのだった。


 「あ、ああ。ありがとう」


 なんか自分の金で買ったチョコをもらうって複雑な気分だな。


 もらったチョコを見つめ、そんなことを考えた後、チョコを口に入れようとする……が、その直前、佳奈島が俺の名前を呼んだため、俺の手が止まる。


 「奥崎……蓮」


 「ん?何だ?」


 横を見ると、佳奈島が目を細めて俺のことを見ていた。まあ、正確には俺ではなく、俺の手の中にあるチョコを。もの惜しげに、微かに唇を噛み締めてじっと見ていたのだ。


 「……あげるのはそれだけ、だから」


 「あ、ああ」


 

 そうして、佳奈島にもらったチョコを口に含み、チョコ特有の甘みを堪能しながら公園で楽しそうに遊ぶ子供達を眺めていると、突然、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 「上手く説得できたかい?奥崎君」


 その声と同時に視界に金髪の長い髪が映ったかと思うと、後ろから誰かが俺を覗き込んでくる。


 誰かと思い、顔を上に向けると、その人物は祭持さんだった。


 俺を見下ろすその顔には何やら含んだ笑いが浮かんでおり、何かを面白がっているのがよく分かる。


 佳奈島を説得する時に俺一人にさせたことを面白がっているのか、あるいはこの状況に何か面白さを見つけたのか。


 俺には分からないが、少なくとも祭持さんが笑みを浮かべている理由はろくでもないのだろう。ここ数日で祭持さんの性格はよく分かったからな。


 そんなことを思いながら、俺は祭持さんの問いに答える。


 「まあ、できたが……祭持さん、どこに行ってたんだよ。危うく死にそうだったんだが」


 『死にそうだった』、その言葉を強調して言ったつもりだったんだが、祭持さんは何とも思っていないのか、カラカラと笑顔を見せると、俺の両肩に手を置く。


 「いやー、外蘭のところに行ってたんだよ」


 『外蘭のところに行ってた』。それはつまり、俺が霊異者では無いことを外蘭に伝えに行ったということだろう。


 俺が佳奈島と戦っている間に祭持さんもまた外蘭と戦いを繰り広げていたのだろうか?


 そのことも気になるが、それよりももっと気にしなければいけないことがある。そう、外蘭が俺を霊異者じゃないと認めてくれたかどうかだ。


 俺は見下ろす祭持さんの顔を見る。


 「……と言うことはじゃあ」


 「うん。もう君は外蘭に殺されはしないよ」


 そう言い、笑顔を見せる祭持さん。その顔と言葉を聞いて、自然と俺の口角も上がる。


 外蘭は俺が霊異者ではないことを納得してくれた……もう俺は、外蘭の殺しの標的ではないのだ。


 「そう……師匠が」


 俺と祭持さんの会話を聞いて、佳奈島は意外そうに目を見開くが、嬉しさに浸っていた俺はそんな佳奈島の反応に気付くことはなかった。

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