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第73話 師々共々

 奥崎蓮が佳奈島清を説得することに成功した頃、こちらでもまた、祭持営が外蘭斬人の説得に成功していた。


 その公園には遊んでいる子供が誰一人として居らず、公園内には外蘭達を含めた三人しかいない。


 地面は所々削れており、外蘭を説得するのが容易では無かったことが窺える。それだというのに祭持営の体には傷一つ付いていなかった。


 「と、言う訳でね外蘭。君が殴りかかっていったあの少年は霊異者ではないんだよ」


 傍にある木に寄りかかり、肩をすくめてみせる祭持。そんな祭持の話を聞いた外蘭は神妙な顔を見せた。


 「なるほどなぁ……あのガキが霊異者じゃねぇってことは分かった。だけど、霊気を持った人だってぇ?馬鹿げてるなぁ、そんなの聞いたことねえよ」


 そう……聞いたことがない。そんな人間が今まで存在しただなんて話は外蘭は知らない。


 意味がわからないと眉を顰める外蘭に、祭持は当然とばかりに頷いた。


 「それはそうだろう。恐らくだがあの少年が人類史上、初めてだからね。彼のあの体質は、先天的ではなく後天的。ある一人の者によって、そういう体質になってしまった。つまりは与えられた体質なんだ」


 生まれつきの体質ではなく、与えられた体質。祭持の言葉を聞いた外蘭は疑問に思う。


 「そのガキを変えた奴っていうのは誰なんだぁ?」


 祭持なら知っていても当然。そんな考えから聞くも、意外なことに祭持は知らないらしく、首を横に振った。


 「さあね、私でも分からない。でも彼、奥崎君の話では黄色と白のワンピースを着たピンク髪の少女みたいだよ」


 祭持が知らない。霊異であれ個人情報であれどんな情報もある程度は入手することのできる程の情報網を持っている祭持が分からない。


 そのことに驚きを隠せない外蘭は動揺から微かに体を揺らし、目を見開く。


 外蘭のその表情を見た祭持は苦笑いを浮かべ、ため息を吐いた。


 「外蘭。お前は何か勘違いをしているようだけど、私もなんでも情報を入手できる訳じゃない。入手できない情報も沢山あるんだ。そんな驚くようなことじゃないだろう?私がなんでも知っていると思われては困るよ」


 「でもほとんどのことは知ろうと思えば知れるんだろぉ?全く情報が分からないって言うのは異常じゃねぇかぁ?」


 知れることの方が多い祭持が全くの情報を掴めない。それは明らかに変だ。

 

 外蘭の言葉を聞いた祭持はその通りだと頷くと遠くを見つめる。


 「そうだね、その通りなんだよ。人の体質を変化させる少女。そんな変わった存在を誰か知っていてもおかしくないのに、誰も知らない。知っているとすれば、あの少年、奥崎蓮だけ……奥崎君は一体何に魅入られたんだろうね」


 腕を組み、目を細めて顔も知らぬ少女に思いを馳せる祭持。


 そんな祭持を見て、外蘭は鼻で笑った。


 「はっ!あのガキはついてねぇなぁ!少女とお前、二人に目ぇつけられるなんて、可哀想だなぁ!」


 外蘭の放った挑発と取れる言葉。その言葉を聞いた祭持は片眉をピクリと動かすと、外蘭がしたように鼻で笑い返した。


 「そうかい?むしろ、二人の女性に気に掛けられるなんて凄く幸せで乙なことじゃないか」


 「はぁ?そんな訳ねぇだろぉ?正体不明の少女と性悪なお前だぜぇ?むしろ逆だわなぁ!」


 「まあ、感性は人それぞれだからね。外蘭には良さが理解出来なかったみたいだ」


 祭持は皮肉に笑う。その表情を見た外蘭は眉を顰めるが、それ以上祭持が何も言ってこなかった為、言い返さない。


 「「・・・・」」


 公園内に絶妙な空気が流れる。その元凶はもちろん祭持と外蘭の言い合い。


 虫の音一つ聞こえないくらいに冷えわたっている空気に、外蘭の横に佇んでいる三輪は思わず苦笑いを浮かべてしまう。


 祭持と外蘭。今は言い合いで済んでいるが、さっきまで戦っていたのだ。


 このまま口喧嘩がヒートアップして再度戦闘になるかも知れない。考えたくもないがもしかしたら殺し合いに……


 そんな考えから三輪は額に冷や汗を浮かべるも、その心配は杞憂だったようだ。


 睨みつける外蘭と嘲笑うように見つめる祭持。互いに黙り合う二人だったが、祭持が突然思い出したかのように手を叩いた。


 「あっ、そういえば、この刀を犬の石像として庭に置いていたんだけど、この刀に変化させたら、彼、奥崎君は心底驚いていたよ」

 

 「あぁ?犬の石像だぁ?」


 突拍子もなく、意味の分からないことを言い始める祭持に、外蘭は、急に何を言っているんだと首を傾げる。


 祭持は地面に刺していた刀を引き抜くと切先を空へと向けた。


 「外蘭、お前も知っているだろう?この刀は形を自在に変えれるんだ。その特性を利用して、庭に置いておいたのさ」


 そう言って、刀の長さを変えてみせる。短くしたり長くしたり、はたまた刃を潰してみせたり。そんな形が次々と変わる刀を見ながら、外蘭は目を細めて言うのだった。


 「はっ!普段は犬の石像として……ねえ。あのガキにはそういうことにしたのかよ……常に小さくして持ち歩いているくせによぉ」


 祭持は犬の石像として置いていると言っているが、そんなことは祭持はしない。昔から知っている仲である外蘭から言わせれば、祭持がその刀を自分の届く範囲から手放すなどあり得ないのだ。


 ……そもそも、あの懺悔薄刀の形を変えるという特性には限度がある。刀の範囲で形を変えれたとしても犬の石像に変えることなんか出来ねぇ。何か霊具を使ってそういう風に見せただけだろ。


 ニコニコと笑っていた祭持だったが、外蘭の言葉を聞いて動きを止め、表情を変える。笑っていた顔は一瞬にして真顔へと変化したのだ。


 「…………そうだった。外蘭は知っていたんだったね。そうだよ?奥崎君にはそういうことにしたんだ」


 祭持は再度笑顔を作り、外蘭に笑いかける……が、微笑んでいるのは口元だけで目は一切笑っていない。


 そんな表情を浮かべる祭持に外蘭は訝しむ表情を向けて聞くのだった。


 「祭持……お前、あのガキを信用していないってことかぁ?」


 そんな手間が掛かることをしてまで嘘をつく。曲がりなりにも弟子であり、助手である人物を騙すなんて少なくとも外蘭にはできないし、しない。


 祭持は正しい形へと戻した刀を見つめて呟く。


 「いいや?そんなことは無いさ。ただ……そう、これは保険だよ」


 「……何のだぁ?」


 「さあ?何だろうね?」

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