第72話 冷たい誤解は溶ける。
路地裏での戦闘後、俺達は公園に来た。
決して大きくはない公園。その公園内では遊具やボールなどで楽しそうに遊んでいる小学生が数人。
そんな公園の端に置いてあるベンチに、俺と佳奈島は座った。
佳奈島が公園に来たのはあの日以来。そんなことなど知らない俺は、ブランコに乗って遊んでいる小学生を見て、呑気に楽しそうだななんて思う。
そんな中、佳奈島が俺に尋ねてくる。
「聞かせて……奥崎蓮、あなたの身に一体何が起きたの?」
その目は真剣。俺はその目に応えるように頷いた。
「ああ」
それから、俺は佳奈島に俺の身に起きた出来事を話した。
謎の少女にこんな体質にされたこと。祭持さんに何度も助けてもらっていること。そして競斗さんを助けたこと。
佳奈島は終始、俺の話を黙って聞いていた。
肯定も否定もしない。ただただ俺の話に耳を傾けていた。
そして俺が全て話し終えた時、佳奈島はようやく頷いたのだった。
「そう。そんなことがあったんだ」
佳奈島は無表情でそう呟く。俺は、佳奈島が続けて何かを言うのかと待ってみるが、それ以上特に感想は無いのか、何も言わない。
「「・・・・」」
え?それだけ?俺のここ最近の出来事って結構濃い話だと思うんだけどな。霊異が当たり前の佳奈島にとって、今話した内容は薄い話だったのか?
ツッコミたい……他には何か感想は無いのか?と言いたいが、今はそんな雰囲気ではない。
俺はツッコミたい気持ちをグッと堪え、肝心のことを佳奈島に聞くことにする。
大きく、大きく息を吸う。乱れる呼吸を無理矢理正そうと、緊張を少しでもほぐそうと深く吐いた。
そして、佳奈島に聞く。
「な。なあ、佳奈島」
「……なに?」
「それで俺を……俺を殺さないのか?」
俺の言葉を聞いた佳奈島の体が若干揺れる。
佳奈島は、路地裏で俺に話を聞くと言ってくれた。だが、話を聞くと言っただけで殺さないとは言っていない。つまり、佳奈島は俺の話を聞いて、俺が霊異者かどうかを判断するつもりだったんだ。
そう……次に喋る佳奈島の言葉次第で、俺が死ぬかどうかは決まるのだ。
佳奈島の回答を待っている俺の手汗が止まらない。そんな緊張している俺の横に座る佳奈島は一度目を閉じる。
少しの間を置いた後、目を開いてゆっくりとその唇を動かした。
「……殺さない……奥崎蓮。私はあなたを殺さない」
その言葉を聞いて、俺は佳奈島の方を向く。
「じゃ、じゃあ、俺が霊異者じゃないってこと、分かってくれたのか?」
佳奈島はそうじゃないと首を横に振る。
「分かってない。私はあなたを霊異者だと思ってる。霊気の持った人間なんて、変」
え?嘘だろ?だったらなんで……
佳奈島は、疑問に思って不安になっている俺を見た。俺の目をじっと見つめ、言葉の続きを言う。
「でも、信じてみる。奥崎蓮。あなたが霊異者じゃないって言うなら、それを信じてみることにする。だって……」
「あなたは私の友達だから」
「とも……だち」
その佳奈島の表情は今まで見たことのない表情だった。柔らかで控えめだけど、それでいて力強さを感じる。そんな笑みを浮かべて言ったその言葉は、声量こそ小さかったが、確かにハッキリと俺の耳に届いた。
俺は一瞬、佳奈島の表情と言葉に驚きの表情を浮かべるも、すぐに微笑む。
「友達……友達か。ああ、そうだな。俺たちは友達だ」
一緒に本を読む仲。本の貸し借りをする仲。それを友達と言わずして何と言うのだろう。
女子と友達。その事実がなんだか照れ臭くて頑なに認めていなかった俺。
人と距離を置いていたのは俺もだったんだな。
そんな俺の言葉を聞いた佳奈島は立ち上がった。そのまま座っている俺の前までくると、俺の服の袖を引っ張ってねだり始める。
「戦ったせいで疲れた。お菓子買って」
その表情はいつもと同じ。だが確かに前よりも心の壁は無くなったと思う。
じっとこちらを見つめてくる佳奈島を見て、俺はニヤリと笑うのだった。
「いいぞ。好きなだけ買ってやる」




