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第69話 辛。

 「な、なあ、清。悪いんだが……その、お友達のみなちゃんはどこにいるんだ?」


 「……え?」


 私は一瞬、パパが何を言っているのか分からなかった。


 だって、パパの目にはみなちゃんが映ってなどいないって。パパには私しか見えていないって。


 でも、そんなはずはない!だって、私はみなちゃんを見えているし、手も握ってる!おかしいのはパパの方だ!


 「な、何言ってるの、パパ!ほら、ここ!私の横に居るでしょ!?」


 隣にいるみなちゃんを指差すも、パパの反応は良くない。パパはママに尋ねる。


 「横?……うーん、なあ、ママ。清の横に友達なんているか?」


 「……居ないわね」


 ママもみなちゃんが見せていないの?


 「え?パパ、ママ?変だよ!何で見えてないの!?みなちゃんはここにいるよ!私の隣にいるじゃん!」


 そう言うも、やっぱりパパとママの顔は暗い。


 「ねえ、みなちゃん!パパとママに何か言ってよ!…………みなちゃん?」


 みなちゃんからもパパとママに何か言ってもらおう!


 そう思い、隣を見た私だったが、みなちゃんの見せる表情を見て、固まってしまう。


 みなちゃんは、この世のものとは思えない笑みを浮かべて、パパとママを見ていたのだ。


 「ぇ?み……みな、ちゃん?」


 私は悍ましい笑顔を見せるみなちゃんに思わず恐怖を感じてしまう。


 みなちゃんの手を握っていた私だったけど、恐怖から握っていた手の力を緩めてしまった。


 直後、みなちゃんは握っている私の手を振り解いた。


 「みな……ちゃん?」


 みなちゃんは駆け出すと、ママを殴った。聞いたことのない鈍い音が聞こえ、ママが飛んでいく。


 「……ぇ?マ、マ……?」


 壁の激突したママは動かない。


 それを見たパパが私を危険な何かから守る為に動き出す。


 「き、清ぉぉぉぉ!」


 パパは私の元まで来ると、覆い被さるようにして抱きつく。パパはみなちゃんが見えていないはずなのに、私を守る為、助ける為にその大きな体を盾にしたのだ。


 パパが覆い被さって来たその時、パパの服の隙間から、みなちゃんが可笑しそうに笑うのを私は確かに見た。

 

 「あはっ」


 その表情は私を嘲笑っているように見えた。パパとママの元にみなちゃんを連れてきた私をまるで馬鹿だと言っている。


 その顔は、私の記憶に深く抉るように刻まれたのだった。




 昼下がり。一軒家が並ぶ住宅街を歩く二人組がいた。


 一人は金髪で所々黒髪が混ざっている目つきの悪い男。もう一人は姿勢正しい黒髪の女の子。彼らはある家の前まで来ると、足を止めた。


 「ここだぁ」


 男が先頭にその家の敷地内へと入る。そのまま玄関の扉まで行くとチャイムを鳴らした。


 が、全く反応は無い。


 「出ませんね、外蘭様」


 「・・・・」


 男は耳を傾ける。しかし、その家の中から音はしない。

 

 男は扉に手を置いた。


 「しょうがねえ、こじ開けるぞぉ」


 「え!?外蘭様!?」


 突然の提案に、女の子は驚きを見せるも止めるには既に遅い。男は扉に置いている手に力を入れ、前に押し出した。金具が壊れる音が聞こえた後、扉が前へと倒れたのだった。


 それを見て、女の子は頭を抱えているが男は一切気にする様子はない。


 「行くぞ」


 そう言うと、男は無断で上がっていく。仕方が無いというばかりに女の子は男の後をついて行くのだった。


 入ると、まず目に入ったのは家族写真。少女を肩車している父親の隣に母親らしき女性。


 幸せな家族写真。


 二人はその写真を見つめていたが、何か家の奥から声が聞こえることに気付き、廊下の先へと顔を向けた。


 「…………ん……ひっく……」


 「三輪ぁ、聞こえるかぁ?」


 「はい、私にも聞こえます。女の子……ですかね」


 「三輪にも聞こえるってことは一般人の可能性の方が高いかぁ」


 家の奥を見つめてそう言う男。


 少女のすすり泣く声。声からして小学生くらいだろうか。


 女の子は男の方を見て、頷く。


 男はクンクンと、奥の方の匂いを嗅ぐが、ここからだと一つの匂いしか分からない。


 悍ましいほどに大量の血の匂い。


 その匂いがすると言うことは……ちっ、考えたくねぇな。


 男は足を進め、子供の声がする方へと向かう。廊下を歩き、一つの扉の前で足を止めた。


 子供の声が聞こえる場所。強烈な匂いが漂っているのはこの部屋だ。

 

 男はドアノブに手を掛ける。ゆっくりと回し扉を開けると、そこは悲惨な状態だった。


 言葉には言い表せない程、酷い光景。その光景を見た男は舌打ちをし、女の子は目を伏せて悲しげな表情を見せる。


 扉を開けるまでは分からなかったが、部屋に入った今はよく分かる。突き刺さるような血の匂いに、少女の匂い。そして霊異者の微かな匂い。


 この三つの匂いが、この部屋を占めていた。


 男は理解した。こんな風にしたのは霊異者の仕業だと。


 「ちっ、遅かったかぁ」


 男は悔やむ。もう少し早く来ていたのなら、犠牲者を出さずに霊異者を滅せれたかも知れないと。


 ふと、疑問が湧く。


 こんな惨いことをした霊異者を滅したのは誰なのか?霊異者を滅し、少女を残してどこかに去っていったのか?


 そう考えていると、部屋の真ん中にいた少女が二人に気付き、振り返る。


 「……ぐすんっ……だれ?」

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