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第66話 佳奈島の過去

 これは過去の出来事。忘れることのない、私の深く辛い傷痕。


 「ママ、パパ!私、もうすぐ誕生日だよっ!」


 六歳。もうすぐ七歳になる頃の私は、今の私とはかけ離れた、とても元気で明るい女の子だった。元気で明るいと言っても内弁慶な私は両親の前以外では静かではあったけど。


 けれど、少なくとも今よりは明るく元気だった。それは間違いない。


 「誕生日!誕生日っ!」


 七歳になることよりも、三日後にプレゼントがもらえることが嬉しくて、私はリビング中を駆け回り飛び跳ねていた。それを見たパパが朗らかに笑い出す。


 「ははははは。清も、もう七歳になるのか。ついちょっと前までは四つん這いで歩いていたのに。子供の成長は早いものだなあ……うぅ!パパは嬉しくて涙が止まらないよぉ!」


 喜びから一転。突然、膝から崩れ落ちたパパを見て、ママは呆れた目をしてため息を吐いた。けど、その目は優しさで溢れている。

 

 「パパ、それはもう六年以上も前のことじゃない。流石に比べる時期がかけ離れ過ぎだと思うわ」


 「うぅ!だってぇ、本当なんだもん……あぁ、こんなに時間が経つのが早いなんて……こんなに成長が早いと、瞬きしたらもう高校生になるのかぁぁぁぁ!」


 「そんな訳ないでしょ?」


 「早いぃぃぃぃ!早いよぉぉぉぉ!どうしてこんなにも早いんだぁぁぁぁ!」


 床を叩く感情豊かなパパ。そんなパパを冷ややかな眼差しで見る、少し鋭い言葉を使うけどとっても優しいママ。そして、元気いっぱいな私の三人。


 そんなどこにでもいて、幸せな家庭。


 それが私の家族。


 私はパパの言葉で腰に手を置いて、踏ん反りかえると、嬉しそうに笑うのだった。


 「私!成長早い!早いの!えへへー!」


 

 


 次の日。私は一人で外に遊びに行くため、遊ぶ道具が入った袋を片手に靴を履く。扉に手を掛けると、元気な声を出した。


 「パパ!ママ!私、公園に行ってくる!」


 「おう!気をつけて行けよ」

 「気をつけてね」


 「うんっ!」


 パパとママの声に頷き、外に出る。少し暑い太陽の日差しが素肌を焼くが、そんなことは気にしない。


 私は小さな足で地面を踏み締めて歩く。


 私の目的地はちょうど一週間前に見つけた、人が来ることが滅多にない小さな公園。滅多に人が来ない為、一人気ままに遊べるの。


 鼻歌混じりにスキップする。公園で遊ぶのが楽しみすぎてニコニコしていると、どこからか複数人の子供の声が聞こえてきた。


 思わず、電柱に隠れてしまう。


 知っている人だったらどうしよう……話しかけられたらどうしよう。


 そんなことばかり考えてしまい、私の電柱を掴む手が力む。


 そうして少しすると、前から四人の子達が歩いてきた。その子達は私の知らない人。


 知っている人じゃないことが分かった私は安心からため息をついた。


 ああ、良かった……怖かったよぉ。

 

 彼ら四人が私を通り過ぎるのを待ってから、私は再度、公園へと歩き出す。


 この頃から、私は皆でワイワイと遊ぶよりも一人で遊ぶ方が好きだった。人見知りというのもあったけど、賑やかなところよりも断然静かな空間が好きだった。


 そんな私にとって、今から行く公園は家に次ぐもう一つの新しい私の居場所。


 そこで今日、私は彼女と出会ってしまう。今思えば彼女は『一人で遊ぶのが好き』、そんな孤独が好きな私を狙って話しかけて来た。そうかも知れないと思う。


 公園に着いた私は砂場に行き、家から持ってきたオモチャのスコップや型取りを使って一人で遊んでいた。

 

 お城を作ったり、動物の型取りで色々な動物の顔を取ったり。


 私が一人夢中で遊んでいると、そこに一人の少女が近づいてきた。上下一体となっている赤色のつなぎを着て、ピンク色の髪を両端で縛った少女。


 私は遊ぶことに夢中で、少女が近づいてきているなんて全く気付かない。


 少女は、せっせとスコップを動かしている私と砂のお城に割って入るようにして覗き込んできた。


 「ねえ、何してるの?」


 「……ふぇ?」


 急に現れた知らない人の顔。突然のことで思わず私は固まってしまう。


 「砂遊び?いいよね、楽しいよね」


 そんな私にニコニコと笑いかけてくる少女。私は何か言おうと思い、あたふたと慌ててながらも喋ろうとするも、言葉を詰まらせる。


 「え!?あっ、そ、そそ、そのぉ……」


 ど、どうしようぅ……しっ、知らない人っ……


 知らない人だと言うことに加えて、突然のことすぎて心の準備もしていない私は何を言えばいいのか分からなくなる。


 「うん?」


 挙動不審に目を泳がせ、軽いパニックになってオロオロとしている私を、少女は不思議なものを見る目で見ているも、その後、私の傍に落ちている動物の型取りを見るや否や、私の手を取り満面の笑みで微笑んだ。


 「ねえ、私も一緒に遊んでもいいっ!?」


 「……ぇ?」

 

 私に顔を近づけてくる少女。そんな少女の勢いに押され、頷いてしまう。


 「い、いい……よ」


 私が頷いたのを見た少女は、嬉しそうに目を見開くと、両手を上げて叫んだ。


 「やったぁぁぁぁ!」


 その子は砂場の上で飛び跳ね始める。よっぽど嬉しかったのか、私とお城の周りを何周もし、その後、私の前にしゃがみ込む。


 「私の名前はみなっ!あなたは?」


 「……きよ、かなしまきよ」


 「そうっ!きよちゃん、よろしくね!」

 

 「よ……よろしく?」


 まるで太陽のような少女。初対面の私にも明るく隔てなく接してくるこの女の子に、私は不思議と苦手意識はそこまで無かった。


 その後、私はみなちゃんと一緒に砂遊びをした。他にも鉄棒やジャングルジム。汗だくになるほどに遊び続ける。


 みなちゃんと遊ぶ。それはとても……とっても楽しかった。


 人見知りの私だけど、人見知りをしていたのは最初だけ。三十分経った頃には笑顔が絶えなく、心の壁も無くなっていた。


 そんなこんなで私達は二時間程遊び続け、最後にブランコに乗って涼んだ後、解散したのだった。


 「またね、みなちゃんっ!」


 みなちゃんに笑顔で手を振る。


 「うんっ、また明日。きよちゃんっ!」


 みなちゃんのひまわりのように明るい笑顔を見届けた後、私は家へと帰るのだった。

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