第65話 躊躇。
ヤバッ!
『懺悔薄刀もどき』を前に出しながら、俺は後悔する。『懺悔薄刀もどき』で受けるのを止めようにも、前に出している最中の腕はすぐには止まらない。
俺の霊能力で出した『懺悔薄刀』は耐久力なんか皆無。
そんな『懺悔薄刀もどき』で攻撃を受けることなんてしたら、簡単に折れてしまう。それは特訓の時に実証済みだ。
危惧した通り、『懺悔薄刀もどき』が折れる。佳奈島の蹴りを刃で受けたのにも関わらず、ガラスのように砕け散り、佳奈島の蹴りは減衰することのないまま俺のみぞおちに入った。
「がぁっ!」
勢いよく吹き飛ぶ。俺は何度か地面を跳ねて、コンクリートに投げ出された。
「……え?」
禍々しい長刀。明らかにやばそうな刀があまりにも手応えなく折れてしまったからか、佳奈島は目をパチパチさせながら呆けた顔をする。
そんな中、蹴られた俺は、全身擦り傷だらけの体で立ち上がった。
「……痛って」
佳奈島の足元にある『懺悔薄刀もどき』の折れた刃が煙のように消えていく。それを見て、手元に目をやると、持っている『懺悔薄刀もどき』の柄の方も消えていっていた。
……流石に、バレたか?
そう思い、佳奈島の顔を見るも、佳奈島は無表情で何を思っているのかは分からない。だが、何か言いたげにしているのは何故か分かった。
「……ねえ」
「……なんだ?」
「その刀、脆すぎない?」
やばい、怪しまれている!
「そ、そうか?武器って、こ、こんなもんだろ?」
俺は目を逸らして苦し紛れに答える。そんな俺の言葉を受け、佳奈島は一瞬考える仕草をした後、思いついたかのように顔を上げた。
「……あ、もしかして」
そう言うと佳奈島は足元に落ちていたレンガを持つ。そして、『瞬脚』で俺の元までやってくると、俺の右手、『消滅もどき』にレンガを押し当てた。
なっ!?油断したっ!
俺の右手に宿っているのは『消滅もどき』。『消滅』ではない為、レンガが消滅することはない。
俺の右手に当ててもレンガが消滅しないのを確認した佳奈島は呟いた。
「……やっぱり、偽物」
……ちくしょう、気付かれてしまったか。
佳奈島の呟きを聞いて、俺はつい苦笑いを浮かべる。
「は、はは」
うん、これは終わったな……殺されるぞ、俺。
「はは、はははっっぶふぇっ!」
佳奈島の肘打ちが頬に入る。次に回し蹴り。その後、『消滅』で肩を抉ってくるも、俺は深く抉られる前に後ろに転がる。
その後も、俺の『消滅』も『懺悔薄刀』も偽物だと分かった佳奈島は猛攻してくる。攻撃の手が止まない。
俺は殺されまいと、佳奈島の攻撃を防いだり避けたり、逃げ続けたりしてなんとか生きながらえる。もちろん避けきれずに何度も食らっているけどな。
だが、それもジリ貧。俺の行動パターンは時間が経過すると共に読まれ始め、段々と受ける攻撃が増えていった。
俺が佳奈島に殺されるのは時間の問題なのだ。
佳奈島の『消滅』が俺の脇を抉る。蹴りを躱すが、肩に拳を受ける。また蹴りが飛んできて、なんとか躱すも今度は『消滅』で太ももを抉られる。
「ぐぅっ!」
拳を避けるも、避けた先で蹴りを受ける。次にくる攻撃を避けようと体を逸らすも、佳奈島は既に俺の行動を予測しており、避けられない。
もう完全に俺の動きは佳奈島に読まれている。避けることすらできない。
俺はただひたすらにボコボコにされ続ける。側から見たら、サンドバックに見えるだろう。
「がっ、ごっ……ぐっ!……く、くそぉぉ!」
殴り、蹴り、『消滅』。それらが繰り返される。やられっぱなしに痺れを切らした俺は、攻撃されながらも佳奈島に無理矢理、殴りかかろうと拳を振り上げた。
「お、おああぁぁぁ!」
「っ!?」
今の俺に攻撃する余裕は無い。佳奈島はそう思っていたのだろう。攻撃に集中していた佳奈島は突然攻撃してきた俺の拳を、驚いた顔をして見ている。
このまま振りかざせば、佳奈島の顔にあたるだろう。佳奈島を吹き飛ばし、この攻撃の連続を止めさせることができる。
だが俺は、己の拳を佳奈島の頬に当たる寸前で止めた。
「くそっ!」
何、殴ろうとしてるんだよ、俺はっ!
俺は別に佳奈島を傷つける為に戦っている訳じゃないだろ。俺は……俺は、説得する為に来たんだろうが!
動きを止めた俺を、佳奈島は蹴って吹き飛ばす。俺は転がり、路地裏の端まで飛んでいったのだった。
「がはっ!」
佳奈島は、飛んでいった奥崎蓮を目を細めて見た。理解が出来ないとばかりに、その小さな拳を強く握りしめ、無意識に奥歯を強く噛み締める。
「……なんで」
なんで、奥崎蓮は攻撃を寸前で止めたの?
何故?何故なの?意味が分からない、本当に分からない。
……まさか本当に話し合いをしたいと思ってるの?いや、そんな筈はない。だって今の奥崎蓮は霊異者。
霊異者は話し合いなんてしない。持ちかけてきたとしても、それは人間を陥れるための罠。霊異者と私たち人は、分かり合うことなんてできない。
だって霊異者は……あの子は私の大切なものを奪っていったのだから。




