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第63話 師匠同士であり、同志でもある

 一方、その頃。


 短い黒髪を後ろで纏めた女性がおやきの入った袋を両手に、公園の中へと入っていった。


 彼女は整った容姿で、何より姿勢が良い。ランウェイを歩いたことがあると言われても納得のいくモデル体型の女性の名前は斎藤三輪。


 彼女は、とある除霊師の男の付き人。そんな彼女がおやきを買った理由は単純。


 自分の主人に頼まれたからである。


 公園へと入った斎藤三輪は、己の主人である外蘭斬人が待つベンチへと真っ直ぐ向かっていった。


 「外蘭様、頼まれていたおやき、買ってきました」


 「おう、ありがとよぉ」

 

 斎藤三輪から、おやきを袋ごと受け取った外蘭斬人は、中から一つ取り出すと豪快にかぶりついた。


 余程、おやきが食べたかったのだろうか。おやきを口に入れる手が止まらない。ただ夢中で、無言のまま食い荒らす。


 その後、おやきを全て食べ終えた外蘭は、斎藤三輪から受け取ったペットボトルの水を飲み干して、ため息を吐いた。


 「はっ、この街は何にもねえな。楽しくねぇったらありゃしねえ。デパートは一つしかねえし、料理屋も何軒かしかやってねえしよぉ」


 外蘭がこの街に着いたのは三日前。たった三日しか経っていないというのに、この街にはもう飽きたのか、そんなことを言う。


 「私達がいたのは都心区ですから。お世辞にもあまり大きいとは言い難いこの街と比べるのは酷でしょう」


 三輪の言葉に、外蘭様は顔をしかめる。


 「それはそうだがよぉ、もうちょっと何かあっても良いじゃねえか」


 本人も、三輪の言いたいことは分かっているみたいだが納得がいっていない様子。


 そんな外蘭に、三輪が問いかけた。


 「外蘭様。『もうちょっと』と言うのは具体的にどのようなものですか?」


 「あぁん?それはだなぁ……」


 「それは?」


 「……お、俺が楽しめると思う場所だぁ!これ以上の具体性はねえよ!」


 「はい、そうですね。外蘭様にそれ以上の具体性は不必要です」


 そう言うと、三輪は外蘭からおやきが入っていた袋を受け取った。几帳面な一面を持ち合わせている彼女は、後は捨てるだけの紙袋を綺麗に折り畳み始める。


 その最中、外蘭が三輪に尋ねた。


 「ところでよぉ、三輪ぁ」


 「はい?なんでしょうか?」


 三輪は手を止め、顔を上げて外蘭を見た。外蘭はさっきとは打って変わって、真剣な表情をしていた。


 「お前、付けられて来たのに気付いてるかぁ?」


 「え?」


 外蘭の言葉で三輪は後ろを振り向く。だが、そこには誰もおらず、人の気配はない。いるとすれば数羽の雀くらいだ。


 それだというのに、外蘭は誰もいない空間に言った。


 「隠れてないで、出てこいよぉ」


 外蘭がそう言ってから、数秒遅れて、建物の陰から一人の女性が出てきた。


 全身を赤紫、黒の三色で飾った服装。灰色の手袋を嵌めたその女性は、外蘭とも三輪とも面識がある人物。

 

 「……二日ぶりだね、外蘭」


 「祭持か……って、おいおい、何だぁ?物騒なもんを持ってんじゃねえか……俺と戦うってのか?」


 祭持と呼ばれた女性の手には異常な長さの刀が握られている。その刀は、七年前の事件で彼女が主となった長刀。彼女の持ち物。


 祭持は、外蘭と三輪の注目を集めている長刀、懺悔薄刀を軽く振り、微笑みを見せた。


 「お前と戦う?何を言っているんだ。冗談は止してくれよ。それは戦いではなく、一方的な蹂躙になってしまうじゃないか。もちろん私が君を……ね?これはただ、外蘭、君を脅す為に握っているに過ぎない」


 「……はっ!調子に乗りやがって」


 外蘭は言い返すも否定しない。


 それはつまり、外蘭よりも祭持の方が実力的に上なのを告げている。その事実を知らなかった三輪は大きく目を見開き、動揺を見せるのだった。


 「外蘭様より祭持さんの方が強い……!?」


 「それでぇ?祭持。お前、わざわざストーカーじみたことをしてまで、俺のところに何しに来たんだぁ?」


 俺のところに来る用は無い筈。そう思っている外蘭だが、それを見ていた三輪は、


 一昨日の会議、私達がやらずに帰ったことの説教?もしくは、会議をしに来た?あるいはその両方でしょうか?と思う。


 会議で集まったというのに、それをやらずに帰られた私達が何か言われるのは当然のこと。


 各々、祭持が来た理由を予想しているも、残念ながら彼ら二人の考えは外れている。


 警戒している外蘭と、怒られる気満々で目を伏せている三輪。二人を順に見た後、祭持はその口を大きく歪ましたのだった。


 「……それはね。浅い知識しか持ち得ない外蘭、君のお勉強会をしに来たんだよ。それとその頭の硬さをほぐしてやろうと思ってね」

 

 「……あぁん?何だってぇ!」


 何をしに来たのか。そう身構えていた外蘭だが、まさか悪口を言われると思っていなかったのか、予想外の暴言に頭に血が昇る。


 「そんなに怒るなよ、外蘭。まだ話の本題にすら入っていないじゃないか。頼むから、落ち着いてくれ」


 祭持の暴言でベンチから立ち上がった外蘭だったが祭持の言葉を聞き入れ、殴りたい気持ちを何とか堪えると再度、ベンチに座った。


 くそっ、ムカつくが……しょうがねぇ。


 「……ちっ……それで?俺が何だってぇ?」


 「脳みそが小さい、馬鹿な君の為にお勉強会を開こうと思って来たんだ」


 晴れやかな笑顔で告げる祭持。明らかに喧嘩を売っているとしか思えない言動に、堪えていた外蘭の怒りが爆発する。


 「ああん!?誰が馬鹿だぁ!殺すぅ!絶対ぇお前を殺すっ!」


 怒りのままに霊力を放出する。ここに一般人がいたのなら圧迫感から息ができなくなり、倒れていたことだろう。しかし、一般人ではないがそれに近しい三輪は外蘭の霊力を浴びて、苦しさから顔を顰める。


 不穏な空気が辺り一帯を占める中、祭持が面倒くさそうに腰に手を置いた。


 「……はあ。斎藤君、この馬鹿を宥めてくれないかい?」


 「ええぇ!?ここで私に話を振るのですか!?」


 「ここに君以外、外蘭を落ち着かせる人はいないじゃないか」

 

 「そ、そうですけど……」


 三輪は祭持の言葉にあたふたした姿を見せる。だが、そんなことをしているだけでは状況は変わらないと悟った三輪は、外蘭の方を向いた。


 「が、外蘭様、落ち着きましょっ。外蘭様は決して馬鹿ではありませんからっ」


 三輪がそう言うが、外蘭は霊気を放出し続ける。だがしばらくすると、ある程度は冷静さを取り戻したのか、霊力を放出するのをやめ、明後日の方向を向くのだった。


 「……三輪に免じて、今回だけは聞かなかったことにしてやるよぉ。今回だけだからなぁ!」

 

 「ああ。それはありがとう」


 感情が乗っていない感謝を口にした祭持。外蘭はベンチに背を預けると、早くどこかに行って欲しいという思いから、祭持に話の本題へと急かす。


 「それで?結局、話って何なんだぁ?いい加減、ふざけてないで早く言えよ、そして帰れ」


 「そうだね。そうしようじゃないか」


 祭持は手に持っている懺悔薄刀を地面に刺し、体を預けると喋り始めた。


 「私はお前に話をしに来たんだ。内容は、私の助手であり、弟子である少年のことについて」


 「はあ?少年って、お前の弟子は男じゃなくて女って聞いているんだがぁ?」

 

 「彼女とは別の弟子だよ。最近、私は弟子をもう一人取ったんだ。ほら、外蘭。お前も面識のある少年さ」

  

 『面識のある少年』。そう言われ、外蘭は目を細める。外蘭がこの町に来て三日。その間に面識がある少年というのは片手で数える程度にしかいない。その内の一人は……あの殺し損ねた霊異者。


 「……そいつは誰だ?」


 「一昨日、お前がビルの廃墟で会った、霊気を帯びた少年のことだよ」


 「……祭持ぃ!」


 祭持の言葉を聞き、外蘭が飛び出す。霊力で身体強化をしながら拳を振るい、祭持に殴りかかるも、懺悔薄刀を支えにして伸ばした足で止められる。獣の様な形相をしている外蘭に、祭持は呆れた顔を見せた。


 「外蘭。話は最後まで聞けと学生の頃、先生に教わったじゃないか。忘れたのかい?」


 「うるせぇぇぇぇ!」

 

 外蘭はもう片方の拳を祭持目掛けて振るう。だが、祭持が躱したことによって空を切った。


 その後も、外蘭が拳を振るっては蹴りを入れたりする。それを祭持は、その攻撃を避けたり防いだりする。


 そんな攻防の最中、祭持が喋り始めた。


 「はあ……お前は本当に昔から聞く耳を持たない……しょうがない、このまま話すからちゃんと聞いといてくれよ?外蘭」

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