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第62話 チャンスになり得ないピンチだってある。

 「な、なんだ!?」


 青色の光が辺りを照らす。そんな眩い光の中、なんとか目を閉じずにいると佳奈島の首元からそれは出てくる。


 首飾り!?


 そう、それは首飾りだった。光でどんな色なのかは分からないが、その首飾りが発光源なのは間違いない。


 宙に浮いた首飾りから、今度はオーラが飛び出してくる。そのオーラは佳奈島の霊力と同じ色。それが霊力だということはすぐに分かった。


 その霊力が佳奈島の全身を包む。


 佳奈島が使うは『霊昏の首飾り』。その霊具は己の霊力を溜めておくことができる。


 開放することにより、溜めていた霊力を、解放した者が自分の霊力として扱うことができる代物。


 佳奈島が『霊昏の首飾り』を持っていることを奥崎蓮は知らされていなかった。奥崎蓮が祭持営から聞いていたのは『消滅』という霊能力だけ。


 祭持営がその首飾りの存在を知らなかったのではく、知らせていないだけ。


 何故、そんなことをしたのか。それは本人しか分からない。


 佳奈島を縛っている鎖に綻びが生じ始める。


 「私はもう霊異者の話を信じたりなんかしない。あの日からそう、誓ったの」


 佳奈島が力を入れるにつれて、鎖にヒビが入る。ついには光の粒子となって崩壊していき、佳奈島を縛る鎖は全て消えるのだった。


 「奥崎蓮。私はあなたを滅する」


 「マ、マジかよ」


 おいおい、こんなの聞いてないぞ。


 予想だにしない展開に、俺はつい苦笑いを浮かべてしまう。顔を引き攣らせている俺の顔を見て、佳奈島は首を傾げた。


 「もしかして、知らない?」


 知らない。知るはずがない。何故なら俺は、佳奈島にこんな切り札があることなんて祭持さんから伝えられていないのだから。


 明らかにさっきの佳奈島よりも段違いに強いことを直感的に感じてしまい、冷や汗が止まらない。今の佳奈島は、俺が付け入る隙なんて存在しないだろう。


 死。その単語が俺の頭に浮かんだ。思わず俺は後ずさってしまう。


 「私の手の内がバレてるから、これもバレてると思ったのに、変」


 佳奈島は不思議とばかりに首飾りを見て、次に俺を見る。


 「奥崎蓮。大人しく私に殺される気は、ない?」


 その目は本気だ。本気でそう提案してきているのがよく分かる。


 『大人しく私に殺される気はない?」だって?それは最初に言っていた『痛みなく殺してあげるから』という意味か?そんなのはごめんだ。


 俺は佳奈島の提案を鼻であしらう。


 「ないな。そっちこそ、大人しく降参する気はないのかよ?」


 俺は虚勢混じりに見栄を張り、首に手を置いた。


 余裕そうな態度を佳奈島に見せるが、実際は余裕なんてこれっぽっちもありはしない。


 できれば、今の言葉で臆して撤退なんかしてれるとすごく助かるのだが。


 俺の提案を聞き、片眉をピクリと動かした佳奈島が、「何を言っているの」と首を傾げた。


 「降参、する訳ないでしょ」


 「……だよな」


 そうだ。佳奈島はそういう奴だ。そんなの前から分かりきっているだろ、俺。


 ちょっと見栄を張れば、ワンチャン戦うのをやめてくれるかも?だなんて、そんな訳がない。佳奈島の性格は俺が学校一分かっているつもりだ。


 佳奈島は引くつもりは微塵もない。このまま戦えば、間違いなく俺はやられる。


 今の俺には佳奈島を倒せる程の実力は持ち合わせてはいない。祭持さんが事前に仕掛けていた霊具も、既になく、絶体絶命の状態。


 そんな俺だが、実はもう一つ、最後に一つだけ手が残っている。

 

 その手を上手く扱うことができれば、勝つことは不可能だが、佳奈島に拳を下ろさせることができるかも知れない。


 俺にはまだ、霊能力が残っているのだ。


 だが、俺の霊能力は正直言って強くない。攻撃特化では無いし、かと言って防御に特化している訳ではない。言うなれば特殊系というのが正しいだろう。


 そんな霊能力を上手く扱えば、佳奈島に拳を下ろさせることができるかも知れないのだ。


 ……見破られさえしなければな。


 俺は霊能力を具現化させるため、右手に霊力を集めていく。


 「……だったらこっちも切り札を切らせてもらうからな」

 

 右手に半透明な霊力が集まっていく。徐々に、しかし確実に。右手に一定量集まった霊力はその色と性質を変化させた。


 今から俺が具現化するのは、佳奈島……お前の『消滅』だ。


 俺の右手が黒く染まる。禍々しいドスの効いた『消滅』が俺の手に纏わりつき、まるで生きているかのように蠢いている。そんな右手を、俺は見せつけるように前に出した。


 「降参するなら今の内だぞ、佳奈島」


 「なっ!?」




 奥崎蓮の手に霊力が集まっていく。その霊力は色を変え、霊力から霊能力へと変化する。できたのは黒色のオーラ。


 それは佳奈島、私の霊能力と全く同じ色の霊能力。


 「なっ!?」


 私は驚きのあまり、思わず一歩下がってしまう。彼、奥崎蓮の右手に宿っている霊能力は、私がよく知る霊能力だった。


 あの霊能力は『消滅』。


 私の能力と同じ……!?偽物?いや、でもあの感じ……本物。直感で分かる。アレに触れてはならないって。


 あれは私の能力そのもの。『消滅』が霊能力である私にはよく分かる。


 だけど、変。霊能力が他人と似ることはあっても全くの同じというものは存在しない。つまり、奥崎蓮の能力は『消滅』ではない。けれど、『消滅』を使えている。


 そこまで思考し、私は一つの考えに行きついた。


 「そう……それが奥崎蓮、あなたの霊能力『コピー』」


 使えない霊能力が使える。しかも対面している私の霊能力を。『何か条件の元で他人の霊能力をコピーできる』


 それが私の考えついた奥崎蓮の霊能力。


 私の言葉に奥崎蓮が頷いた。


 「そうだ。相手の能力を使える、それが俺の能力だ」


 そう、俺の能力は相手の霊能力を自分のものとして使える……


 という能力ではない。


 俺の本当の霊能力は、『俺が見たことのある『霊異に関するもの』を見た目だけ完璧に再現する』だ。

 

 つまり、偽物。今、俺の手に宿っている『消滅』は効果のないただの霊力なのだ。


 これで佳奈島を騙して、戦いをやめさせる。それが俺に残させた最後の選択肢。


 なんとも阿呆らしい作戦だが、もうこれしかないのだ。全力で佳奈島を騙して、その拳を下ろさせてやる。


 佳奈島……お願いだから、気付いてくれるなよ?


 そう心の中で祈りながらも、こちらに向かって飛びかかってくる佳奈島に『消滅』もどきを纏った手を向けるのだった。

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