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第60話 ピンチはチャンスなのだよ

 一時間前、迷いの館の庭にて。


 「奥崎君。君に佳奈島君の情報を教えるよ」


 作戦会議がようやく始まったと思ったら、祭持さんは第一声に口を歪ませてそう言った。


 「ん?佳奈島の?」


 あれ?作戦会議は?


 作戦会議を始めると言ったのに作戦とは違うことを言い出し始めたものだから、俺は呆気に取られた顔をしてしまう。


 そんな顔をした俺が、『別にそんな情報なんかいるのか?』と考えていると思ったのか、祭持さんは眉を顰めて細い目で見てくる。


 「……奥崎君。まさかフェアな戦いで、君が佳奈島君に万が一にでも勝てるとでも思っているのかい」


 「え?でも、昨日、祭持さんはもしかしたら勝てるくらいには俺は強くなったって……」


 「それは、君が佳奈島君を圧倒的不利な戦いへと持ち込んでようやくそうなると言う意味だよ。霊異の世界に足を踏み込んでまだ日の浅い君が、除霊師の弟子になって数年の佳奈島君に真っ向勝負で勝てる訳がないじゃないか」


 「……真っ向勝負をするつもりはないが、佳奈島を圧倒的に不利にさせないと今の俺では勝てないのか?」


 自分で言うのもなんだが、昨日の祭持さんとの特訓で常人の域を超え、超人の類いへと変わった。それに俺には他の人にはない超再生能力を持っているというアドバンテージがある。


 だから、佳奈島を圧倒的不利な状況下に置いて戦う、そこまではしなくてもいいと思うのだが。


 そう思っていることを伝えると、「何を言ってるんだ。アホか、君は」と手に額に当て、ため息をつかれる。


 「君が佳奈島君の能力、戦い方を知っていて、逆に佳奈島君は君の能力を知らないし君に知られていることも知らない。それらの情報の利、更にはそれを活用できる地の利があって、ようやく君は勝利の活路が見出せるのだよ。それくらい準備しておかないと、佳奈島君が本気で殺しにかかってきたら、君なんか秒殺されるよ?」


 「……秒殺なのか?」


 え?佳奈島って、そんなに強いのか?それとも、除霊師が皆それくらいの実力を持っているっていうのか?


 「君は除霊師を舐めすぎだ。いいかい?除霊師というのは霊異者を滅することに長けた専門家だ。彼らに回ってくる依頼は、大半が『霊異者の中でも強者に位置する者を滅する』という依頼。その依頼は除霊師以外では対処できないくらいの難しさを誇っている。佳奈島清はそんな依頼を既に七個達成しているのだよ。そんな彼女に、弱っちい君が勝てる訳ないじゃないか」


 そんな凄い奴だったのか、佳奈島は。と言うかさりげなく俺を貶していないか?


 俺は不満気な顔を見せる。


 そんな表情に気付いたのか、祭持さんは俺の方へと近づくと、人差し指を立てて、俺の鼻に優しく当てる。そして人差し指一本分の隙間だけを残して至近距離で見つめてきた。


 「いいかい、奥崎君?今から私が君に教えるのは佳奈島清、彼女の霊能力についてだ。戦闘前にすっかり頭から抜け落ちるだなんてヘマはしないでくれよ?」


 「わ、忘れる訳がないじゃないか」


 突然の急接近に心拍数が上がる。祭持さんは動揺を隠しきれていない俺に軽く微笑むと、人差し指を離し、顔を遠ざけた。


 「佳奈島清。彼女の能力は右手にのみ宿る『消滅』だ。触れられたものは例外なく消滅させられる。それが例えどんなに硬いものだろうと何だろうとね」


 「……どんなものだろうと、だって?」

 

 祭持さんは俺のこぼれ出た言葉に頷く。


 「そうだよ。そしてもちろんデメリットも存在する。彼女の能力は右手にしか宿らないんだ。右手で触れないと能力が発揮されないから、一定距離をあけておけば、さほど脅威ではない」


 一定距離をあけることができれば……ね。俺の身体強化って微弱なんだが。


 「そして、能力の持続時間が極端に短いと言うこと。彼女の能力、『消滅』はこの世の理から外れていると言っても過言ではない程に強力な能力だ。だからか、強力が故に霊力の消耗が激しいみたいで長くは続かないみたいなんだ。持って三分。その時間、君が攻撃を避け続ければ、勝機が見えてくるだろうね」


 三分。時間って意識して数えたら、すごい長く感じるんだよな。


 「もちろん、彼女も霊力で身体能力を上げているだろう。だけど、昨日の特訓を終えた君だったら、そう食らうことはないよ。彼女の能力を事前に知った君ならね」

 

 本当だろうか?


 そう疑問を抱いてしまうも、祭持さんの顔は自身に溢れている。適当に言っている訳ではなさそうだ。


 「彼女の霊能力、『消滅』はむやみに乱用できない。佳奈島君はここぞとばかりの時に使ってくるだろう」


 「ここぞとばかり?」


 「……君を殺せる、決定的な瞬間だよ」

 

 そう言うと、祭持さんは俺の肩を強く掴み、乱暴に手を回す。そして俺の耳元に顔を近づけて甘く囁くのだった。


 「奥崎君。君が殺されそうになったその時、ようやく君にチャンスが回ってくるのだよ」

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