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第57話 説得

 同時刻。


 私、祭持営は、奥崎君が佳奈島清をこの場所に連れてくるのを待っていた。


 既に事前準備は終えており、後は奥崎君が来るのを待つだけ。


 今は手持ち沙汰だ。暇すぎてあくびが出る。


 「ふわぁ…………ん?あれは……」


 あくびを噛み締めていると、ここから見える表通りにチラッと見覚えのある人物が歩いているのを見かける。


 その人物とは外蘭の付き人であり、私の古い知り合いでもある斎藤三輪。そんな彼女が何やら食べ物らしき何かが入った袋を抱えて歩いていた。


 「……ふむ」


 斎藤君はこの後、誰かと一緒にでも食べるのだろうか?でも変だな。この街で斎藤君の知り合いがいるだなんて私の耳には入っていない、知らない。ということは外蘭か。


 あの食べ物は外蘭と食べる為に買った物なのだろう。さしずめ外蘭に「買ってこい」と頼まれたのか。つまりは……


 外蘭がこの近くに居る可能性が高いということ。


 ここまで考えた私は、外蘭が近くにいられると作戦に支障が出てくることに気付く。


 「不味いね……外蘭が近くにいたら作戦に支障をきたしてしまう……しょうがない、予定を変えようか」


 本当は奥崎君の件を先に片付け、その後に外蘭の元へと向かおうと思っていたのだけれどもね。


 もし、奥崎君が佳奈島清を説得している最中に外蘭に乱入でもされたら作戦が完全に破綻してしまう。そうなってしまうと説得どころではなくなり、本当に殺し合いになりかねない。


 それだけは避けなくてはならない。


 「……ふむ」


 再度、作戦途中に外蘭に来られたらどうなるかを一通り考え、やはり作戦が破綻してしまうという考えに至った私はその場から離れることを決める。


 「はあ、上手くいかないものだねえ」


 私は気付かれないように斎藤君の跡をつける為、表通りへと行くのだった。




 「ついて来てくれ」

 「…………分かった」


 祭持さんの言う通り、佳奈島はコンビニに入って行った。俺は、佳奈島が出てきたタイミングを狙って話しかけ、誘うことに成功した。


 さあ、ここからが祭持さんとの作戦だ。


 最初の作戦。それは街のどこかにいる佳奈島を指定の場所へと誘い込むことだ。俺にとって有利で、佳奈島にとっては不利な場所にな。


 そして、そこで話し合いを持ち込む。もし佳奈島と話し合いをすることに成功し、俺が霊異者ではないことに納得してもらえたら作戦は終了。


 だが、もし話し合いができず、戦闘になってしまったら、第二の作戦へと移る。そして万が一の時の為に、祭持さんが陰で見守ってくれるらしい。

 

 俺は振り返り、佳奈島がちゃんと後をついて来ていることを確認し、佳奈島に気づかれないように拳を強く握る。


 よし、ちゃんとついて来ているな。


 そのまま佳奈島を連れて、目的地へと歩き続けるのだった。


 佳奈島を連れて目的地へと向かって数分。その最中、二人は互いに話題を振ることも無く歩いていた。


 そしてあと少しで目的地へと着く、そんな時に佳奈島が口を開いた。


 「私をどこに連れて行くの?」


 佳奈島の声で佳奈島の方へと顔を向けると、佳奈島が目を細めて俺を見ていた。


 敵意、あるいは警戒心を剥き出しの佳奈島。


 数日前までの佳奈島とは大違いの表情に、思わず胸が締め付けられる。


 「そんな警戒しないでくれよ。俺はただ佳奈島と話をしたいだけなんだ」


 そう、それだけ。場合によっては戦うことになるかもしれないが、できれば戦いたくなんてない。その意味を込めて告げるも、佳奈島は黙ったまま。




 

 そんなやり取りをちょうどし終えた時、目的地へと着いた。


 そこは路地裏。元々は小さなお店が並んでいた路地だったみたいなんだが、今ではその全ての店が閉店しており、寂れた看板だけが当時の面影として残っているだけ。


 少し不気味さを感じるからか、ここの路地裏は人が滅多に通らない。その路地裏のちょうど真ん中へと辿り着いた俺は足を止め、振り返った。


 「・・・・」


 相変わらず、佳奈島は俺を睨んでおり、ここに連れてきた俺を警戒している。が、それは当然のことだ。「ついてきてくれ」と言われて、こんなところに連れてこられたら警戒するだろう。その相手が人ではない者だと思っているのなら尚更な。


 佳奈島の顔、警戒心剥き出しの表情を見ていると、数日前まで無表情が恋しいだなんて思ってしまう。


 「佳奈島」


 俺はゆっくりと持っていた手提げバックに手を突っ込み、中から一冊の本を取り出した。その本を佳奈島に渡す為に前へと向ける。


 「これ、読み終わったから返すよ」

 

 その本は、俺が佳奈島から借りていた本であり、昨日の夜に読んでいた本。まあ、正確には佳奈島に「読め」と押し付けられた本だが。


 「『都市伝説チキンボリューミー』、タイトルはアレだけど、読んでみると面白かったよ。まさかヒロインがラスボスだったなんて思いもしなかったな」


 そう言い、笑いかけるも佳奈島の表情は変わらない。俺は更に一歩踏み出した。


 「佳奈島。貸してくれて、ありがとな」


 「・・・・」


 だが、やはり佳奈島は立ち尽くしたままで、手を前に出そうとはしない。佳奈島は目を伏せた状態でボソリと呟いた。


 「…………らない」


 「ん?」


 よく聞こえなかった俺は聞き返す。佳奈島は顔を上げ、佳奈島にしては大きめな声量で言った。


 「その本は、いらない。私は霊異者から何かをもらうことは、できない。例え、それが私が貸した、本でも」


 俺を睨む目は固い意志を感じる。佳奈島はそう俺に告げると小さな拳を強く握りしめた。


 「な、なあ、佳奈島」


 まだ、まだ説得できる。そう思いたい俺は話しかけるも、佳奈島は聞く耳を持とうとはしない。


 「奥崎蓮。何であなたが霊異者になったのかは知らないけど、なったからには滅さないといけない」


 「違う。俺は霊異者じゃ……」

 「とぼけないで。あなたから霊気が出てる。誤魔化しても、無駄」


 「な、なあ佳奈島。俺の話を聞いてくれっ!」


 頼むから、一回だけでも良いんだ!一回だけでもいいから俺の話を聞いてくれよ!


 そう強く思うも、やはり佳奈島は断固として聞いてはくれなかった。むしろ、睨む目が強くなる一方。


 「聞かない。奥崎……蓮、あなたは霊異者。それだけ分かれば、充分」


 佳奈島は言い終わると同時に己の身体能力を上げる為、全身に霊力を纏う。


 外蘭の黄緑色の霊力、祭持さんの灰色の霊力とは違い、佳奈島の霊力は暗い赤紫色。


 霊力を纏ったまま俺に向かって飛び、蹴りを喰らわせてくるのだった。

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