第56話 できるだけの準備はした
「……チョコ、チョコ」
昼前。
柵根町に三店舗しかないコンビニの内の一つ。住宅街の近くに建っているそのコンビニへと一人テクテクと歩いて向かっている少女がいた。
その少女は、お尻の辺りまで伸びた紫色の髪を微かに揺らしながら、大股で歩いており、路上で談笑していた地元のおばちゃん達はそんな少女を見て、「可愛いらしい女の子ね」だなんて囁いている。
当の本人である高校一年生の彼女としては自分を大きく見せようと頑張っているのかも知れないが、童顔と背の低さも相まって、ただ小学生が大股でピョコピョコ歩いているようにしか見えない。
そんな小学生のように見える高校生、佳奈島清はコンビニへと入っていった。
私の目当ての物はお菓子。本を読む時のお供に欠かせないチョコレートを買いにきた。
誰にも言っていないけど、私、甘いものが好き。いつも休日にはこのコンビニでチョコを買うのが休日の日課なの。
「いらっしゃいませー」
店員さんの声に気付き、チラッと見るとその店員さんは私を小動物を見るような目で見てくる。
……私、高校生なのに。
一瞬、むっとするけど、そんな目で見られるのはいつものことだから、私は視線を外し、チョコレートの並ぶ棚へと向かう。
いつも目当てのチョコが並んでいる場所へと行くと、今日はチョコが私の身長には優しくない高めの場所に置かれていた。
数日前までは二段下に置いてあり、難なく手に取れたのだけど、今日は難しそう。
だからと言ってチョコを買うのを諦めるなんて選択肢が無い私は、背伸びをし手を伸ばす。
「……んっ!」
なんとかチョコに手が届き、手に取ることに成功した私はムフーと鼻息を荒げて胸を張る。
「ゲット」
一人、勝ち誇った顔をしていると、買い物しているおばさんが私に微笑ましい笑顔を向けてきていることに気付いたが……誰?私、あの人知らない。
おばさんは見なかったことにして、レジへと向かった私は、会計をする為にチョコを台に置いた。
優しそうな店員さんがバーコードを読み取り、レジに値段が表示される。値段ちょうどの額のお金を財布から出し、トレーに置くと店員さんが、
「ちょうど、お預かりしますー」
と言って、レジを打ち始める。打ち終えるのを待つ間、私は何気なくチョコをじっと見つめていた。
チョコ…………ん、そう言えば、奥崎蓮もこのチョコを好きと言っていた。確か……昔、よく食べたとか。
チョコを見つめていると、何故か一人の男子高校生との会話を思い出してしまった。
何故?いつもはこんなこと考えないのに。
そう不思議に思うも、私の頭の中の考えは止まらない。
……奥崎……蓮、学校の同級生。違うクラスだけど、クラスの人よりも話しやすかった……
「ありがとうございましたー。こちら、レシートです」
今思えば、私のわがままにも付き合ってくれてた。私が読んで欲しいと本を渡せば、読んでくれた……けど、もう…………
「・・・・」
「……お客様?」
「…………あ」
いけない。考えに浸っていたみたい。
私が考えている間に会計が終わっていたみたいで、私は素早くチョコを取り、レシートをもらう。
その勢いのまま早歩きで自動ドアへと向かった。その最中も、あの同級生が頭から離れず、つい、俯きながら考えに浸ってしまう。
奥崎……蓮。高校で私が一番仲が良かった人。
「ありがとうございましたー」
私は自動ドアを通り抜け、コンビニを出る。そのまま家に帰ろうと歩き続けようとするも、誰かが私の通り道の正面にいて、歩こうにも歩けない。
俯いたままの私は、立ち塞がっている人物の靴しか見えない。
避けない……何で?
不思議に思い、顔を上げると私の前にいるその人は今まさに私を悩ましている張本人だった。
「……奥崎蓮」
奥崎蓮。数日前まで普通の人だった同級生。けど、今は体から霊気が出ており、それは霊異者であると物語っている。
そんな奥崎蓮が、顔を上げた私に話し掛けてきた。
「なあ、佳奈島。ちょっと、話したいことがあるんだ。少しだけ付き合ってくれないか?」
学校の時と変わらない態度。少し素っ気無い、無愛想とも取れる態度。体から霊気が出てさえいなければ、今までとなんら変わりない姿。霊気が出てさえいなければ……
「……、……分かった」
私は強く頷く。その頷きを見て奥崎蓮はホッしたように一瞬表情を緩ましたが、すぐに気を引き締め、歩き始める。
「ついて来てくれ」
私は奥崎蓮の指示に軽く頷くと、言われた通りに後ろからついて行く。
私は奥崎蓮には聞こえない声で呟くのだった。
「奥崎、蓮」
高校で初めて私に話しかけてくれた人。こんな私でも今までずっと接してくれた人。私の、唯一の……っ、友達……だった人。彼はもう人ではない。滅する対象である霊異者。
私は彼を殺さなければならない。




