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第55話 作戦会議は二人きりで

 次の日になった。

 

 俺は約束通りに九時に祭持さんの家、『迷いの館』に行った。


 昨日に引き続き、祭持さんは今日も約束を忘れて寝ているのではないのかと思っていたが、驚いたことに、祭持さんは俺が着いた時には既に玄関の前で待っていた。


 「おっ!来たね……ん?その中身は何が入っているんだい?」


 祭持さんは俺が持っている手提げバッグに目が入ったようで、バッグを見ながら俺の方へと歩いてくる。


 「佳奈島に借りていた本が入っているんだ。読み終わったから、説得ついでに返そうと思ってな」


 そう言いながら、俺はバッグから本を取り出し、祭持さんに見せる。祭持さんは顔を近づけ、その本を興味深そうに見つめた。


 「へえ……この本……ね」


 「なんだ?」


 この本に何かあるのだろうか?

 

 疑問に思い、首を傾げていると、それに気付いたのか祭持さんは顔を離す。


 「ん?いや、別になんでもないよ」

 

 そう言うと、祭持さんは歩き始め、少し俺を通り過ぎたところで振り返る。そして、悪巧みでもするかのように大きく口を歪ませて言うのだった。


 「それじゃあ、奥崎君。作戦会議と行こうじゃないか」





 迷いの館。その館の敷地内である庭で、佳奈島を説得する為の作戦会議が行われようとしていた。


 向かい合うは二人。一人は普通の男子高校生だった少年。もう一人はこの世ならざる者に精通している女性。


 彼女は岩に腰掛け、少年は女性の次の言葉を待っていた。少年は緊張で表情が強張っているが、女性は対照的に落ち着いており、その緩んだ口元には余裕さえ感じられる。


 これから何が始まろうというのだろうか。


 「「・・・・」」


 しばらくの静寂の後、女性が口を開いた。


 「それじゃあ…………まずは作戦名から考えようか」


 「…………は?」


 え?作戦名?そこから考えるのか?


 てっきり、そのまますぐに作戦内容へと入ると思っていた俺は呆気に取られてしまう。


 「作戦名なんて、いるのか?」


 正直な話、作戦さえ練れれば良いから、作戦名なんて要らないと思うのだが。


 だが、祭持さんは俺とは考えが違うみたいでで、俺の言葉に強く頷いた。


 「いるよ。大事だね」


 そんなに大事か?別にいらなくないか?


 そう思うも、「絶対、必要だ」と、力強く言う祭持さんの圧につい押されてしまう。


 「そ、そうか」


 「うーん、何にしようか……」


 祭持さんは考える仕草をし始めるが、中々思いつかないのか、険しい顔で頭を捻っている。


 何をそんなに悩んでいるのだろうか。作戦名なんてそれっぽいことを適当に付けるだけでいいと思うのだが。


 「・・・・」

 「……うーん」


 祭持さんが考え込み、俺がそれを待つ。そんな状況が数十秒続いた後、思いついたのか、突然、祭持さんは声を上げた。


 「そうだね、作戦名は『すれ違う若き男女二人の仲直り作戦』だ」

 

 「なんだそのふざけた作戦名は」


 結構考えた作戦名がそれかよ。


 良い作戦名を考えたものだと思ってそうなくらい良い笑みを浮かべている祭持さんには悪いが、その作戦名はあまりにもふざけているとしか思えない。


 祭持さんは、俺に間髪入れずにツッコミを入れられたのが不満だったのか、少しばかり眉を寄せた。


 「君が佳奈島君を説得する作戦の名前だよ」


 「作戦は俺も知ってるよ。そうじゃなくて、その作戦名だと俺と佳奈島が恋人同士みたいに聞こえるじゃないか」


 俺と佳奈島がそういう関係ではないことは、昨日の俺と佳奈島を見て、祭持さんも分かり切っているだろうに。


 そう思い、細い目で祭持さんを見るが、祭持さんは白を切り、知らないとばかりに何食わぬ顔で傾げる。


 「おや?違うのかい?」


 「全く違う。俺と佳奈島はそんな仲じゃない」


 「またまた〜。実はそんな仲だったりして、な?」


 「違う」


 ニヤニヤしながら俺の反応を窺ってくる祭持さん。俺は眉を寄せて軽くため息をついた。


 本当、この人は人を弄るのが好きだよな。


 「それじゃあこんなのはどうだい?作戦名『俺の思いよ彼女にお届け』」


 「それだと、俺が佳奈島にこれから告白をしに行く作戦にしか聞こえないじゃないか」


 「……違うのかい?」


 「違う」


 いい加減、祭持さんの悪ふざけに付き合うのにもうんざりしてきた。俺は大きくため息を吐く。


 「はあ……いい加減、早く作戦会議をしないか?」


 「うーん……そうだね、本題に入っちゃおうか。まあ、作戦名なんてぶっちゃけどうでもいいしね」


 いや、どうでも良かったのかよ。だったらさっき、「絶対、必要だ」って言ってたのは一体何だったんだ。


 俺は今日何度したのか分からないため息を吐き、肩を落とす。そんな中、祭持さんは足を組み直し、大きく息を吸う。


 そして、その唇を動かした。


 「……じゃあ、始めようじゃないか」


 一言。


 祭持さんのたった一言でこの緩んだ雰囲気が一気に張り詰めた雰囲気へと一変する。


 もしここに鳥や虫がいたら飛んで逃げていったことだろう。唐突な変わりように俺は鳥肌が立つ。


 ……ようやく、作戦会議が始まるのか。


 「ああ」


 祭持さんの言葉に俺は強く頷くのだった。




 その後、二十分弱に渡り、作戦会議が開かれた。まあ、作戦会議と言っても、祭持さんが考えていた作戦を俺が聞き、この作戦で良いかどうかを二人で決める。そんな時間だった。


 もちろん俺も「こうしたらどうだ?」だの、「これじゃ駄目なのか?」と案を出したりしたのだが、それらは全部却下された。


 そんなこんなで、俺が佳奈島を説得するという作戦の内容が決まるのだった。


 「と言う感じで行こうじゃないか。それでいいかい、奥崎君」


 作戦を決め終え、改めてその作戦内容を口にした祭持さんは、俺に最終確認をする。


 その作戦は、俺という存在を良く活かしている作戦内容だった。そんな作戦に異論は無い俺は、頷いた。


 「ああ、それでいい。それなら何とか俺でも勝利をもぎ取れるんだな?」


 「まあ、そうだね。ゼロではないよ」


 ゼロではない。それはさっきも聞いていたことだ。この作戦は、成功する可能性より失敗する可能性の方が高いことは俺も重々承知している。祭持さんが言うには、この作戦が一番勝てる見込みがある作戦だ。


 今思いつく作戦で一番の作戦。


 可能性が低くても、この作戦が一番良い。


 「……分かった。そのゼロではない可能性に俺は賭けるよ」


 絶対に成功する作戦なんて存在しない。例え、成功する確率が九十パーセントでも作戦が失敗することもあれば、成功率五パーセントの作戦が成功することもある。

 

 成功するかどうかなんてやってみなきゃ分からないのだ。少しでも成功する可能性があるのならやってやろうじゃないか。


 「良い気迫だね。これなら成功しそうだよ。じゃあ、向かおうか。佳奈島のところにね」

 

 「ああ!……って、申し訳ないんだけど、俺、佳奈島のいる場所なんて、知らないぞ」


 佳奈島とは学校、放課後に一緒に本を読んだりするだけの仲だ。佳奈島は読書が好きで、特にオカルト系が好きということくらいしか知らず、もちろん家なんか知らないし、休日は何をして過ごしているのかも知らない。


 競斗さんの時みたいに、また地道に探さなきゃいけないのか。


 そう思い、うんざりした顔を見せる俺に祭持さんはニヤリを笑みを見せるのだった。


 「大丈夫だよ。私が知っているからね」


 「……なんて?」


 「だから、私が佳奈島君のいる場所を知っているって」


 「はあ?」


 ……何で知ってるんだよ。まあ、探さなくていいから助かるけども。

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