第51話 事情聴取
……だったら、別に俺も祭持さんに再生能力のことを教えなくても良いんじゃないのか!?
そう心の中で突っ込むも、状況が状況だ。そんなことを口にしたら、何をされるのか分かったものじゃない。
俺は、テンパりながらも、必死に弁明する。
「す、すまない、祭持さん。別に秘密にしていた訳じゃないんだ。た、ただ、言おうとは思っていたんだが、タイミングを逃していたんだ」
これは本当だ。俺は別に再生能力のことを隠すつもりはない。隙を見て言うつもりだった……だがまあ、祭持さんに再生能力を伝えること、そのことは頭からスッカリ抜けてしまっていたんだがな。
「じゃあ、いつ、君はその能力を手に入れたんだい?」
「ふ、二日前、競斗さんを追っている時、祭持さんと別れた後に競斗さんに一度遭遇したんだ!その時、殺されかけたんだが、瀕死になった時にアイツが現れたんだっ!」
そう、取り憑かれた競斗さんにフルボッコにされて死にかけた時にあいつ、あのうざったらしいあの少女が現れたんだ。
「アイツって……君の目をそうさせた少女のことかい?」
「あ、ああ!俺が競斗さんにやられて、意識が朦朧としている時にアイツが俺に『良い物をあげる』って言ったんだ。俺はその後すぐに意識が無くなって、起きたら競斗さんもアイツも俺の前から消えていた。そして体に負った傷も全て治っていたんだよ」
「つまり、君はその時に少女から、その再生能力をもらった……と」
「そ、そうだ!俺自身信じられないけど、それが事実なんだ!」
良いもの、それが何かはあの時すぐには分からなかったが、それは再生能力だった。瀕死の俺を生かす為にこの能力を与えたのだろうけど、何故そうしてまで俺の命を助けたのかは分からない。
何か意味があるのか、それともあいつの気まぐれか。
「…………へえ、そうか……正直、私も誰かから能力を貰ったり、あげることができるなんてにわかに信じがたいが……その少女は君の目を霊異が見えるように変えた存在だ。能力の一つや二つ、他者にあげることができてもおかしくはないか」
祭持さんは俺の話を完全には信じてはいけないくれていないようだが、それでも俺が嘘をついていないことは信じてくれているみたいだ。
ようやく俺の疑いが晴れたのだろう、祭持さんは俺の首元に当てていた懺悔薄刀を下ろした。
「そうか……そうだったんだね。理由が知れて良かったよ」
さっきまでの冷たい視線が無くなる。自分の命が脅かされるような危機感が無くなり、俺は安堵からため息をついた。
「……で?他に、私に言っていないことはあるかい?」
他に……か。
俺は他に何か祭持さんに言っていなかったことはないかと頭を巡らせる。だが出てこない為、首を振った。
「……無いと思う」
「分かったよ。じゃあ、質問だ」
まだ質問があるのか。
さっきのこともある為、また「質問だ」と言われた俺は若干、目を伏せる。が、
チャキッ
何やら祭持さんの方から音が聞こえた為、顔を上げると……
俺の目、右目に懺悔薄刀の刃先を向けていた。
その刃先と俺の目の距離は数ミリ。僅かにでも前に動こうものなら俺の瞳孔に刃先が食い込むであろうそんな距離。
祭持さんは懺悔薄刀を向けながらも、俺の目を見つめるのだった。
「君には何が見えている?その右目には世界がどう映っているんだい?」
どう映っているのか。そう聞かれるも、正直質問の意図が分からない。霊異の世界が見える俺と同じで祭持さんにも見えているはずだ。それに違いなどないはずだが……
「へ?い、いや、普通に……」
「私には霊異者が酷く透けて見えているんだ。私だけじゃない、霊異者が見えている者は皆、そう。霊力の強い霊異者は別だが、霊力の弱い霊異者だと本当に薄っすらとしか見えない。世間一般的に知られているような幽霊のようにね。君はどうなんだい?」
そうだったのか……祭持さんには霊異者がそういう風に見えていたのか。それは知らなかった。
つまり、霊異者を認識できる人間には霊異者が半透明に見えると言うことなのだろう。それに例外は存在しない。霊異者はそう映っている……だが俺は違う。
俺には霊異者がハッキリと見える。その後ろにある物が透けて見えたことなどない。
「……俺には霊異者がはっきりと見える。透けて見えたことは一度もない。多分だが、弱い霊異者も」
「へえ、それはつまり、弱い霊異者の姿も透けて見えないという訳だね。現界の物体と区別出来ない。普通の人と霊異者は同じ次元に存在しているように見える。そういうことかい?」
「あ、ああ」
「……ふうん、なるほど……ね」
祭持さんは口に手を当て、しばらく考える仕草を見せた。
俺には霊異者が透けて見えない。霊異者も人も建物も全て同じに見える。
そのことを聞いて、一体何を考えているのかは分からないが、きっと祭持さんは良からぬことを考えているのではないだろうか。
見えてしまったんだ。
一瞬だけだが、口を隠している手の隙間から、大きく吊り上がっている唇がな。
「分かったよ。質問はこれでお終いだ。特訓に移ろうじゃないか」
祭持さんは持っていた懺悔薄刀を地面に突き刺した。柄から手を離し、始めると言わんばかりに手を叩いた。
ようやく、特訓が始めるのか。




