第50話 特訓。その前に教えてね?
「な、なあ祭持さん」
祭持さんに追いつき、斜め後ろへと並んだ俺は、祭持さんに問いかける。祭持さんは顔だけをこちらに向けた。
「なんだい?」
「何で今までその……懺悔薄刀を持ち出さなかったんだ? そんな凄そうな武器があれば、昨日の霊異者相手に外蘭と祭持さん二人で戦えば、倒せたんじゃ……逃すこともなかったんじゃないのか?」
祭持さんがその武器を手にすることで、どれくらい強くなれるのかは俺はまだ知らないが、外蘭と祭持さん二人合わせて、あの霊異者へと向かっていけば倒せたんじゃないかと思う。まあ、戦闘素人の考えだが。
そんな俺の考えは概ね合っていたのだろう。俺の問いに祭持さんは頷いた。
「そうかも知れないね。二人でかかれば除霊できただろうね。でもね、これは……懺悔薄刀は、私に除霊の依頼が来た時にだけ持ち出す。とそう決めているんだよ。だから例え、昨日あの瞬間に霊異者が現れると事前に分かっていても、私は持ち出すことはなかったよ」
「何でだ? 何で、除霊の依頼の時しか持ち出さないんだ?常に持っておけばいいじゃないか」
正直、祭持さんがそうする理解ができない。
常に持ち歩いた方が絶対に良いと思う。いつ、何が起こるか分からないからな。まあ、法律に引っかかってしまうだろうけど、命が関わってくるんだ。そんなこと言ってられない。
何かあった時に対処できるもの。その内の一つである『武器の所持』は、できることならしておくべきではないのか?
そう思う俺だったが、祭持さんはしないとばかりに横に首を振る。
「私は除霊師ではなく、霊媒師だ。霊異者を滅するのが仕事じゃないから普段からこれを使うことは無いんだ。それにこんなに長い物を毎回持ち歩くのは骨が折れるだろ?」
「まあ確かにな」
そんなことを話し終えると同時に、ようやく目的地に着いたらしい。祭持さんは足を止め、腰に手を置いた。
「着いたよ。ここで君の特訓をするんだ」
そう言い、前方を指差す。
ここは迷いの館の裏側。迷いの館の玄関とは真反対の場所に位置する空き地。雑草一つ生えていないその土地を、祭持さんは指差していた。
迷いの館の後ろはこうなってるんだな。
草もなく石もない。ただサラサラの土が広がっている空き地は、まるで学校のグラウンドを連想させる。
そんな空き地の中央で、俺と祭持さんは向かい合うのだった。
「・・・・」
「・・・・ふむ」
これから俺の特訓が始まる。そう思い、心の中で密かに決意し、祭持さんの次のアクションを待つ。
「・・・・」
「・・・・」
待つ……
「「・・・・」」
だがいくら待っても、祭持さんは一向に動くことはない。
いつまで経っても突っ立ったままの祭持さんに痺れを切らした俺は、
「……あの、祭持さん?特訓をするんじゃ……ないのか?」
と聞く。そんな俺の問いに、
「ん? もちろんするよ。でもね、その前にちょっと……ね」
と目を細める祭持さん。その数秒後、ようやく特訓を始める気になったのか、軽く背伸びをした後、俺の瞳を見つめてくるのだった。
「ふぅ、さて……じゃあ今から、君の特訓を始めようと思うんだけど……その前に少し、君に何個か聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
特訓に取り掛かるとばかり思っていた俺は、質問があると言われて首を傾げてしまう。
「そうだ。聞きたいことだ」
祭持さんは軽く笑いながら頷いており、その様子から、今から聞かれる質問は大したことではない。だなんて勝手に解釈した俺は、ため息をついた。
「それって、今じゃないと駄目なのか?特訓の後でも良いなら、そうしてくれると嬉しいんだが。こっちはもう、特訓する気満々なんだ」
俺は既に、特訓するぞと息巻いている。正直、今、大したことじゃない質問をされると気持ちが削がれてしまう。後でも良い質問なら特訓が終わった後にして欲しいのだが。
俺の言葉を聞いて、祭持さんは軽い感じで笑うが、
「ははは、はは………………関係あるよ?」
「っっ!?」
それは少しだけのことでその後、一瞬で表情が一変し、雰囲気が変わる。俺を見る祭持さんの目は据わっており、酷く冷たい。
「奥崎君。君、私に何か隠していることがあるだろう?例えば、そうだな……異常なまでの再生能力とかね?」
ザクッ。
「…………え?」
突如、俺の横腹に何かが食い込む感触を感じる。それと同時に、ただ突っ立っていただけの祭持さんの姿勢が変わっており、懺悔薄刀を持つ腕が俺の方へと向いていた。もちろん、懺悔薄刀は握ったままだ。
下を見ると、懺悔薄刀の刃先は俺の横腹へと食い込んでいた。
そう、刺されたのだ。
「が、があぁぁ!」
遅れてやってきた痛みに悶えてしまう。そんな俺のことなど気にも止めず、祭持さんは刺した刀を引き抜く。
服に血が滲み、ポタポタと血が地面に滴る。
普通の人なら、滴る血は止まることなく流れ続けるだろう。だが、俺には再生能力がある。数滴は流れ落ちるが、それっきりで、血が止まり傷が治る。俺の横腹にできた刺し傷はあっという間に完治した。
「へえ……やっぱりね」
血が止まったことを確認した祭持さんは目を細める。
「ぐっ!っ……何でっ……急、にっ!」
何故、俺は刺されたのか?何故、祭持さんは俺を刺したのか?訳が分からず、その疑問が俺の頭の中を駆け巡る。
混乱している俺の前で、祭持さんは喋り始めた。
「……二日前。競斗芽井が霊異者に取り憑かれ、君が、取り憑かれた競斗芽井と対峙したあの時。私が駆けつけたのは五分ほど後だった。お守りを持っていたとしても、あれの効果は一度きりだ。一般人が霊異者相手に五分も生き残るなど不可能。まあ、相手が遊んでいれば別だけどね。と言うか、お守りは発動自体していなかったけど。それにも関わらず、君には大した怪我が無かった。欠損部位も、何も無い。その時から私はおかしいと思っていたんだ」
……祭持さんが話しているのは、ちょうど俺がこの再生能力を得た時。確か、祭持さんに再生能力を得たということを言おうとしたが、言葉を濁してしまった。そんな記憶がある。
祭持さんは再度俺に懺悔薄刀を向け、その刃先を首筋に当ててくる。
「っ!!」
「それに昨日、君は外蘭に殺されかけたが、その時も服が破れているだけで、君には傷が無かった。正確には服に血は付いていたのに、君の肌はかすり傷一つ付いていなかった」
それはそうだ。できた傷は祭持さんが遅れて到着する前に完治してしまったからな。
「怪我をして血を流したのに傷が全く見当たらない。しかも、あの血の量は致死量を遥かに超えていた。流石の私でも分かったよ……君が再生能力を持っていることがね」
俺は……祭持さんに再生能力のことを言っていなかった。つまり、俺が祭持さんに隠していたと、秘密にしていたと、そう祭持さんは思っているのだろう。
首筋に向けれている刀がほんの少し押され、薄皮一枚剥がれて、一筋の血が流れる。俺はつい、唾を呑んでしまう。
「まあ、別に隠し事をしているのが悪い訳ではないよ。私だって君には言っていないことは沢山ある。隠していることもあれば、別に言わなくても良いと思っていることだったり、理由は様々だけれどね」




