第47話 新しい肩書き
「簡単なことさ。君が強くなればいい」
「……は?」
「佳奈島君に殺されないくらいに強くなれば、話も聞いてもらえて万事解決……そうだろう?」
何を言うと思えば、俺が佳奈島に殺されないくらいに強くなればいいだって?
「まあ、確かにそうだけど……」
俺は……俺は霊異者が見えて、再生能力を持ってはいるけど戦える訳じゃない。喧嘩なんか口喧嘩くらいしかことない。自分で言っていて辛いが、そこら辺の人にも俺は肉弾戦で勝てないだろう。そんな俺が除霊師の弟子である佳奈島と戦える程強くなればいいだって?どうすればいいんだよ。
あれか?武術を習うのか?空手、柔道とか何かを習って、佳奈島と戦う術を身につけるのか?
そんなことしたところで、除霊師に対抗できるのか?
そんなことを考え、一人、頭を抱えていると、祭持さんが呟いた。
「……教えるよ」
「……え?」
「私が君……奥崎君に、この世界、霊異の世界の戦い方を教えるよ?君が佳奈島君と対話ができるくらいには強くなれるよう、私が君に叩き込もうじゃないか」
「祭持さんが……俺に?」
「何だい?嫌なのかい?」
「い、いや!嫌って訳じゃないよ。むしろ、ありがたいと言うか、してほしいと言うか……そ、その」
考えても見なかった祭持さんの提案に、つい言葉が詰まってしまう。確かに、俺が考えていたことよりも霊媒師である祭持さんに戦い方を教えてもらった方が良い。
だけど、こう……俺が教えてもらうのに、俺が教わる側なのに今のこんな感じで決まってしまっていいのか?
いや、駄目だろ。人に教わるならちゃんと自分から頼まないと。俺から言わないと。
そう考え至った俺は姿勢を正す。祭持さんの方を向き、頭を下げた。
「……教えて下さい、俺に。佳奈島と面を向かって話ができるくらいには強くなれるよう、俺を鍛えて下さい」
「……分かった。佳奈島君を説得できるくらいの力を、君が、身に付けるようになることを約束しようじゃないか」
頭を下げたままの視界に、祭持さんの灰色の手袋が写る。
「ああ、頼む」
俺はその差し出された手を握ると、顔を上げ、真剣な表情で頷いた。
互いに真剣な表情で見つめる。
しばらくそうしていたが、祭持さんが真剣な表情を崩し、笑顔を見せた。
「じゃあそういうことで、これからは奥崎君、君は私の助手兼、弟子だ」
突然増えた俺の肩書きに、思わず目を何度も瞬きしてしまう。
……ん?弟子?
「弟子?……俺がか?」
俺の聞き間違いか何かかだよな?俺が弟子になるって、今の話のどこから出て来たんだ?
聞き間違いであって欲しい。そう願う俺に、祭持さんは何を言っているんだとばかりに首を傾げる。
「そうだよ?君以外、ここには誰も居ないじゃないか」
「……ええぇぇ!?弟子!?い、いや、祭持さん。俺はただ、佳奈島と話が出来るくらいに鍛えて欲しいってだけで弟子にしてくれって訳じゃーー」
俺としては今回限りで教えて欲しいってだけで頼んだつもりだったんだが、どうやら祭持さんは、弟子にさせるつもりで言ったらしい。俺は一時的な助手はともかく、別に祭持さんの弟子としてこれからもずっと本格的に霊異関係に首を突っ込むつもりなんてない。
弟子にはなりたくない。そう答えようとするも、その前に祭持さんが喋り出す。
「おいおい、私が鍛えるのは私の弟子になった人だけだ。弟子以外には教えない。それとも何だい?戦う術を身に付けずに佳奈島のところへ殺されに行くのかい?」
は?弟子にならなかったら、そのまま殺されてこいってことか?
……おい、これ脅迫だろ。
「ぐぐ…………わ……分かった。なるよ、なればいいんだろ。祭持さんの弟子に」
「決まりだね」
なんか上手く誘導された気がするのは俺の気のせいだろうか?
は!? まさか、この展開に持っていく為に俺を連れて来た訳じゃ……ないよな?
いや、それは俺の考え過ぎか。
項垂れる俺の肩に手を置き、俺とは正反対の明るい表情で、祭持さんは親指を立てた。
「じゃあ、明日、朝から私の家に来てくれ。来なくても私は構わないけど、君もまだ死にたくはないだろう?佳奈島君に対抗する為、これからの為に、君の特訓をしようじゃないか」
「……あ、ああ。分かった」
「いいかい?九時に私の家に来てくれ。くれぐれも遅れないようにね……それじゃあ、ここから出ようか……っと、その前に奥崎君。これを持っていってくれ」
まだ何かあるのか……そう思う俺に、祭持さんは一枚の紙を手渡してくる。
「ん?」
その紙には見たことのある謎の模様。
「私が渡したお守りは壊れてしまっただろ?」
その紙は、前に祭持さんから貰った紙、お守りと同じ物だった。
「おお!助かるよ、祭持さん」
さっき、俺の命を救ってくれた代物。もう一つの命と言っても過言ではない物だ。
俺はその紙をズボンのポケットへと入れた。
間違えて洗濯しないように気を付けよう。俺の命を一回救ってくれる大事なお守りだ。絶対に常時持っておこう。
俺がズボンにお守りを入れたことを確認した祭持さんは、改めて階段へと歩き出した。
「それじゃあ、奥崎君。帰ろうか」
「ああ」
俺は頷く。
階段へと向かう祭持さんの背を追い、俺と祭持さんはビルの廃墟から出たのだった。




