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第46話 確認しておきたい

 「いや別に、外蘭のように君が霊異者だとは思っていないよ。さっきも言ったけれど、君は人間だ。一般人の誰しもが君を視認でき、肌と肌の接触ができる。君は死んでいる訳でもないし、憑依している訳でもない。ちゃんとした人間だ」


 「だったらどうして……」


 どうしてあいつ、外蘭の言いたいことも分かるんだよ。


 俺は歯を喰い縛り、堪えるように拳を強く握る。俺を人間だって言ったじゃないか。俺を人間だって思っているなら、外蘭の言いたいことも分かるだなんておかしい。


 不安と不満を顔に出す俺に、祭持さんは落ち着いた声で淡々と話し出す。


 「……奥崎君。私が、その存在が霊異者なのか、そうじゃないかをどうやって判別しているのかと言うとね……」


 祭持さんが右目に人差し指を添える。その目に、微かにオーラのようなものが現れた。


 「目に微力の霊力を纏わせ、相手に『霊気』があるか、ないかを判断しているんだ」


 「……霊気?」


 俺は、新しく出てきた単語に首を傾げる。


 「そう、霊気。霊気というのはね、霊異者が持つ特有の気。それは霊異者以外が発することはないものだ。霊異者以外の何者も持っていないもの……」


 祭持さんは俺の元まで戻って来て、今度は俺の胸元……心臓の辺りに人差し指を添えて、言った。


 「奥崎君、君はね、その霊異者特有の霊気を纏っているのだよ」


 「な、何だって!?」


 それはつまり、俺は人間であって、霊異者でもあるってことなのか?いや、でも肉体はあるんだから、人間だ……祭持さんが、「君は人間だけど、外蘭の言いたいことも分かる」って言うのはそういうことなのか。


 「いやあ、不思議だよね。君は人間。それに間違いはないんだ。だけども、君は霊異者しか持ち得ぬ『気』を持っている。人間のくせして霊異者の特徴を持っちゃっているんだよ」


 「俺が……霊気を持っている?」


 「そうだよ……そして外蘭は私と違って、目ではなく匂いで霊異者かどうかを判断している。私もだけど、外蘭も今までその判別が間違ったことなんてなかったんだ……間違いがないと言うことは疑う余地も無いということ。君が例外だということを知らない外蘭からすれば、霊異者の匂いがする君は、霊異者にしか見えない」


 ……そういうことだったのか。だから、外蘭は問答無用で俺に飛びかかってきたのか。祭持さんの話を聞いて、今日起こった出来事、主に外蘭の行動の疑問が解けていく。


 「じゃあ、佳奈島も……」


 「あの子は外蘭の弟子だ。当然、佳奈島君も君を霊異者だと思っているだろうね」


 「……だから、あんな態度だったのか」


 今日、学校では何やら警戒しているように見えた。あれは気のせいではなかったということか。


 それにしても……俺、よく学校で殺されなかったな。


 さっき会った時、俺を睨んできていた。いつも感情が表情に表れることがほぼ無い佳奈島の表情が歪んでいたんだ。学校で俺と会った瞬間から、俺を霊異者だと思っていたはずだ。そうなると、俺はいつ殺されてもおかしくなったはず……おそらく、学校には人目が多いから襲ってこなかっただけか。


 ん?と言うことは、突然、俺を部室に来いって言ったのは、俺を殺す為だったのか?……分からないな。確証はないが、恐らく改が来てくれなかったら、俺は襲われていたのかも……知れない。

 

 「さて……これで君の疑問は晴れたかい?」


 一人、考えに浸っている俺に祭持さんが声を掛ける。その声で我に返った俺はハッと顔を上げ、頷いた。


 「あ、ああ。祭持さん、ありがとう。祭持さんのおかげで、不安は無くなってはいないけど……すごく、軽くなった」

 

 「そうか。それは良かったよ」


 そう、祭持さんのおかげで確信が持てた。


 俺は霊異者じゃない、人だ。


 霊異の世界が見えて、他の人より再生力が早いってだけの人間……ん?あれ?それって人と呼べるのか?……まあ、祭持さんは俺を人だと言っていたから人なんだろう。うん、ちょっと特殊な人間ってだけだ。


 少なくとも霊異者じゃない。それが分かれば良いんだ。


 俺が一人、納得そうに頷いていると、祭持さんが話は終わりと言わんばかりに笑った。


 「じゃあ、今日の続きは明後日だね」


 「ああ、そうだな……って、明後日?」


 続きって何だよ。まさか、明後日も外蘭と佳奈島達に会って、会議をやろうと言うのか?しかも俺を含めて?

 

 当たり前のように明後日に外蘭と会議をしに、あまつさえ、俺を連れて行く気でいる祭持さんに俺は唖然としてしまう。


 「ん?なんだい?明後日は日曜日だけど、もしかして学校があるのかい?」


 「いや、そうじゃなくて……」


 「うん?何か予定があるのか?もし、そうなら、奥崎君、君の予定に合わせて外蘭の元へと行くようにするよ」


 「そういうことでもなくて……」


 祭持さんは、不思議そうに首を傾ける。他には何があるんだ?と思案し始める祭持さんに、俺は言うのだった。


 「な、なあ、祭持さん。今回の俺の仕事は、『付き添い』だった筈だろ。それも、外蘭が弟子を連れてくるから、それに対抗して、助手の俺が付いていく……」


 「決して、対抗心で君を連れてきた訳ではないが、まあ、そうだね」


 そこは認めたくないのか。


 「だ、だったら、今日の会議……いや、顔合わせで、それは達成しただろ?だから、明後日の会議は俺が行かなきゃ駄目なのか? ……祭持さんは、俺を人間だと言ってくれたけど、外蘭は俺を霊異者だと思っている。もし、俺が行ったら、今度こそ殺されるんじゃないか?」


 そう、外蘭は、「次こそ、殺す」的なことを言っていた。明後日、俺が祭持さんについて行き会議に参加したらまた殺しに掛かってくるだろう。正直、今日出てきた霊異者も怖いがそれと同じくらいに外蘭も怖い。この感情は当然だろう。初対面で大したことも話さずに問答無用で殺されかけたんだ。俺は外蘭が結構なトラウマになっている。


 「へえ……奥崎君、君は、外蘭が恐いのかい?」


 そんな俺に、からかうように聞いてきた祭持さんに、思わず強い口調で言い返してしまう。


 「こ、恐いさ!誰だって初対面であんなことされたら恐いだろ!大して話、いや、挨拶すらしていないのに、殺気立って殺しにかかってきたんだ。俺は何もしていないのに、俺を見ただけで蹴りを喰らわしてきて、その後も、俺が何を言っても聞く耳を持たずに何度も何度も殴ってきた!そんなの……恐くならない訳が無いだろ」


 「心配するな、奥崎君。外蘭のことは私が何とかする。誤解は私が解くよ」


 つい、感情的になってしまった俺を宥めるように祭持さんが言う。その言葉に、俺はぎこちなく頷いた。


 「あ、ありがとう」


 「だけど、幼……佳奈島君のことは自分で解決してくれよ?大人は大人同士で話をつけてくるんだ。学生は学生同士で解決してくれ。まあ、十中八九、佳奈島君は、君のことを殺しにかかってくるだろうけどね」


 ……そうだろうな。あの表情を見るに殺しにかかってくるのは俺も分かっている。だけど、俺に外蘭の弟子だと言う佳奈島をどうにか出来るものなのか?


 「……俺が佳奈島を止めれるのか?」


 俺の問いに、祭持さんは間髪入れずに答えた。


 「無理だね。一瞬で殺される」


 「マジかよ、一瞬なのかよ」


 無理だとは、まあ思ってはいたが、一瞬で殺されるとは思ってなかった。


 「当たり前だろう?相手は外蘭の弟子。まだまだ未熟な少女だが、曲がりなりにも除霊師だ。戦闘面で言ったら一般人かそれ以下の君が、万が一にも勝てる訳がないじゃないか」


 「じゃあ、どうすればいいんだよ」


 今の俺じゃあ、佳奈島を説得する為に話を持ちかける前に殺されるだけじゃないか。それなのに俺が佳奈島を何とか出来る訳がない。


 拳を握り、苦い顔を浮かべている俺を見て、祭持さんは一度フッと笑うと、ニヤリと口角を上げた。


 「簡単なことさ。君が強くなればいい」

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