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第45話 作戦会議は中止に終わる

 「懐かしいな……たかが全身打撲を負っただけなのに外蘭、涎を垂らして気絶しちゃって……」


 全身打撲って、たかがじゃなくないか?俺の常識が間違っているのだろうか?霊異の世界では全身打撲って、たかがで済ませれる怪我なのか?


 祭持さんの言った言葉に頭にハテナを浮かべていると、今まで黙って聞いていた外蘭が祭持さんを睨んだ。


 「うるせぇ、黙れ」


 流石に腹が立ったみたいだ。昔のことを掘り返されてムカついた外蘭は舌打ちをした。そんな外蘭に三輪さんが尋ねる。


 「外蘭様、ちなみに不意打ちをしてきた霊異者は……」


 「逃がしちまった」


 「……そう、ですか」


 外蘭の返事が意外だったのか、三輪さんは驚きの表情を見せる。その顔は信じられないと言いたげだ。


 なんだ?外蘭が霊異者を逃したのがそんなに意外だったのか?


 ……もしや、外蘭は出会う霊異者全員を殺しにかかっているのではないのだろうか……俺にも問答無用で殺しにかかったくらいだ。全然、あり得るだろう。外蘭には、何か霊異者に対して強い執着心でもあるのかも知れない。


 そんな疑問が浮かんだ俺は、横で二人のやり取りを見ている祭持さんに聞いてみる。


 「なあ、祭持さん。外蘭が霊異者を逃すのって、珍しいことなのか?」


 「まあ、外蘭は強いからね。性格も相まって、並大抵の霊異者は出会ったら滅せられるんだよ。少なくとも、私が風の噂で外蘭が霊異者を仕留め損ねたという話は今まで聞いたことがないね」


 外蘭が仕留め損ねたなんて聞いたことがない。祭持さんのその言葉を聞いて、俺は、自分がどれだけ運が良かったのか実感する。


 俺は祭持さんがいたから今こうして死なずに済んでいる。祭持さんが俺の傍にいるから、分が悪いと判断されたから、こうして攻撃してこない。本当に祭持さんがいて助かった。


 そんなことを話していると、三輪さんと会話していた外蘭が唐突にソファへと向かいだす。


 ズカズカとソファまで行き、佳奈島の顔の前でしゃがみ込む。そして、手を上げたと思うと、寝ている佳奈島の頬をペチペチ叩き始めた。


 「おい、清! 起きろぉ! 帰るぞぉ!」


 「…………は……!?……通しません」


 頬を叩かれた佳奈島は鬱陶しそうに眉を顰めるだけで目を開けない。しばらくして目を開けたが、寝ぼけているのか意味の分からないことを言いながらソファの上で手を広げ、足をジタバタし始める。そんな佳奈島を見て、外蘭は怪訝そうに首を傾げる。


 「あ?何やってんだぁ?」


 「……ぇ?」


 外蘭の言葉で目が覚めたのか、佳奈島はハッとした表情を見せ、その後、一瞬固まる。ゆっくりと辺りを見渡した後、外蘭に真顔で言葉を返した。


 「…………なんでも、ない」


 「んぁ? まあ、いい」


 佳奈島がソファから上体を起こしたのを確認した外蘭は、立ち上がり、俺と祭持さんの方を振り返る。


 「それじゃあ、俺らは帰らせてもらう……が、お前、忘れんなよぉ。お前は俺の殺しの対象だぁ……よく覚えとけよ」


 俺に人差し指を向け、そう言い放つと階段の方へと一人、去っていく外蘭。そんな外蘭に、佳奈島は驚きの表情で目をパチパチさせて声を掛ける。


 「師匠、作戦会議……」


 「知らねえよ」


 外蘭は、振り返らずにそう言いながら階段を降りていく。その外蘭に遅れないように、佳奈島はソファから起き上がると、急ぎ足で追う。その後に三輪さんが続いて行くのだった。


 「それでは失礼します」

 「・・・・」


 三輪さんは、一度、俺たちにお辞儀をしてから外蘭の後を追うが、佳奈島は何も言わずに行ってしまった。俺は、唐突すぎて何も声を掛けれないまま、去って行く三人の背中を見続けるのだった。




 「……予定通り進まず、滞るだろうとは思っていたけれど、まさか会議すら出来ないとはね」


 三人が去って行き、完成に足音も聞こえなくなった後、祭持さんは深いため息をついた。


 「すまないね、奥崎君。君には来てもらったのに無駄足になってしまった」


 「あ、ああ……いや……」

 

 会議自体できていない為、無駄足ではないと否定できない俺は、歯切りの悪い返事をしてしまう。


 今日のこのビルの廃墟内での出来事といえば、出会って早々、俺が外蘭にボコボコにされ、その後、外蘭と霊異者が一戦を交えたってところか。


 ……え、何しに来たんだろ。


 祭持さんも同じことを思っているのだろう。「ははは……」と乾いた笑いをこぼしている。


 「はあ、私達も帰り始めるとしようか」


 祭持さんは腰に手を当て、ため息混じりにそう言う。そして帰る為に階段の方へと歩き始めた。

 



 だけど、俺はまだその場で立ち止まったまま。




 「・・・・」


 階段へと向かっている祭持さん。その背中を見つめながら俺は、下唇を強く噛んだ。


 まだ……まだ俺は帰れない、帰りたくない。俺は……祭持さんに聞きたいことがあるんだ。


 それの答えを聞いてからじゃないと俺は、帰りたくない。


 あいつ、外蘭は言っていた。「お前は霊異者だ」って。俺が人間ではなく、あのカラスの化け物や、競斗さんに取り憑いていた少女。そして、さっきの奴と同じ霊異者だと。


 だが、違う。俺は霊異者じゃない、人間だ。改や姉ちゃん、普通の人には視認されているし肉体だって見ての通り、あるんだ。

 

 でも……自分は霊異者かも知れないと思ってしまっている自分がいるのは間違いない。だって、傷を受けてもすぐ再生するんだ。骨が折れても、どこかの内臓が負傷してもすぐに治る。そんなの、あまりにも人間離れしているじゃないか。俺は……人間とは言えないんじゃ……ないか?


 外蘭の言う通り、俺は……霊異者、なの……か?


 その疑問の答えを祭持さんに答えて欲しいけど、俺はその答えを聞きたくない。もし聞いて、祭持さんが「君は霊異者だ」って言われたら、俺は……俺は、今の自分ではいられなくなってしまう。


 そんな自分でもよく分からないぐちゃぐちゃとした不明瞭な不安が俺の中を駆け巡る。


 聞きたくないけど聞かないと、この不安は解消されない。聞かなければならない。このまま曖昧なままにしておくことなんてしたくない。


 俺は、聞かなければならない。


 そう結論付いた俺は一度、大きく息を吸い、自分を落ち着かせた。そして、震える拳を握り締め、そのまま帰ろうとする祭持さんに声を掛けた。


 「……な、なあ!祭持さん!」


 「なんだい?」


 俺の声かけに祭持さんは足を止め、顔だけをこちらに向ける。


 怖い。聞くのが怖い。答えを知るのが怖い。

そんな思いから、声が震えてしまう。


 「お、俺は……俺はっ!霊異者……なのか?」


 「・・・・」


 俺の問いを聞くも、祭持さんは口を閉ざす。俺は顔を上げ、祭持さんを見るが、目を見ても何を考えているのかは分からない。


 数秒の静寂が流れる。その時間が俺にはとても長く感じる。

 

 「「・・・・」」


 そしてようやく、祭持さんの唇が動いた。


 「…………奥崎君……少なくとも私は、君を人間だと思っているよ」


 「そ、そうか……」


 良かった……俺は霊異者ではない。人間のままだった。


 安堵のあまり、ため息が出る。だが、そんな俺の気持ちは次の祭持さんの言葉で一変するのだった。


 「だけど、外蘭の言いたいことも分かる」


 「……え?」

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