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第44話 とりあえず和解?

 少しの静寂の後、逃したことに苛立ったのか、外蘭はその場で地団駄を踏み始める。


 「クソッ! 逃しちまったぁ!」


 何度も床を踏みつける外蘭。一見すれば子供の様にも見える立ち振る舞いを見て、祭持さんは頭を抱えてため息をついた。

 

 「全く……いつになったら年相応の振る舞いをするのやら」


 まあ、俺から見ても、外蘭の行動は少し子供じみていると思うな……うん。踏みつける度に床のコンクリートが飛び散らなければ、小学生の悪ガキに見えるな。


 「あいつの素行の悪さは昔からだ。私は、あいつが年を重ねる毎に大人しくなると思っていたんだが……はあ、今も昔も全く変わらない」


 昔と言うのはどのくらい前のことかは分からないが、少なくとも七年以上前。その頃からずっと変わらないのはどうかと思うな。


 「ああん!?」


 祭持さんの言葉が外蘭の耳には聞こえていたらしい。祭持さんの言葉を聞いて、納得がいかないような顔で怒鳴ってくる。


 「うるせぇよ祭持! そう言うお前も学生の頃から大して変わってねえじゃねえかっ!」


 「そうかい?ありがとう。それは私にとって褒め言葉だね」


 「黙れ、ババア!」


 言葉の返しが小学生なんだよな。


 外蘭が祭持さんに言い返すも、祭持さんは涼しい顔でスルーする。悪ガキと、その悪ガキを嗜めるお姉さんの様な光景に俺は思わず苦笑いをこぼしたのだった。


 「とりあえず、最初の場所に戻ろうじゃないか」

 

 その祭持さんの提案で俺達三人は、一度、元いた場所、二階のロビーへと向かった。


 霊異者が去っていった後、俺と祭持さん、そして外蘭は、二階のロビーへと戻った。ロビーに着くと、寝息を立ててソファに寝ている佳奈島とその横で姿勢正しく佇んでいる三輪さんが待っていた。佳奈島は悪夢でも見ているのか、何やら苦しげな顔でうなされている。


 祭持さんが佳奈島を気絶させたのかと思っていたが、寝息を立てているからして眠らせたのか?いや、でも気絶していても寝息は立てるのだろうか?……気絶している人を見たことが無いから分からないな。


 佳奈島は気絶しているのか、寝ているだけなのか。果たしてどっちなのだろうかと一人、頭の中でどっちなのかを考えていると、ソファの横で立っていた三輪さんがこちらに気付き、頭を下げた。


 「お疲れ様です、外蘭様」


 「おうよ」


 外蘭は、腕をぐるぐると回し首を鳴らしながら気怠そうに答えた。そんな外蘭の腹部が破れていることに気が付いたのか、三輪さんは一瞬、目を細めた後、俺と祭持さんの方を向いた。


 「外蘭さまのお腹に穴を開けたのは、祭持さんですか?それとも……奥崎さん、君ですか?」

 

 「「・・・・」」


 ひどく冷たい口調で尋ねてくる三輪さんの口角は上がっており、表情は笑顔だが、その目は怒りに満ちている。そんな目で見られた俺の額に冷や汗が浮かんだ。


 三輪さんの怒りは当然のことだろう。自分の主人が殺されかけたのだ。いくら身代わ木……だったか?傷を代わりに受け負ってくれる道具があったとしても、主人に傷を付ける、腹に穴を開けられたとなると怒るのも分かる。だが、外蘭の腹に穴を開けた人物は、俺でも祭持さんでもない。


 俺と祭持さんが誤解を解く為に口を開く前に、外蘭が三輪さんの問いに答えた。


 「ちげぇよ。霊異者に不意打ちを喰らっただけだ。祭持はともかく、こんなガキに攻撃なんて喰らうわけねえだろ」


 ごもっともだ。人並み外れた動きが出来る外蘭に、俺が攻撃を加えられるはずがない。さっきも、何もできずにただ一方的にボコられ続けただけだ。強いて言えば、跨っている外蘭を離そうと足を引っ張るくらいしかしてない。だが、こうも言い切られると何だろう……悔しい。


 言い返したいが、何も言い返せない俺はもどかしくなり、唇を噛む。そんな中、外蘭が三輪さんに誤解を解いてくれたおかげで俺と祭持さんに向けられていた刺さるような視線が止まった。それに気付いた俺は一人、安堵から誰にも気付かれないくらいの小さなため息を吐いた。


 そんな俺と祭持さんに、三輪さんがすぐさま申し訳なさそうに深く頭を下げてくる。


 「祭持さんと奥崎さん、すみません!疑ってしまって!」


 いや、まあ、さっきの状況だと間違うのも無理はない。外蘭が俺に蹴りを入れてどこかに行き、それを追うために祭持さんが佳奈島を眠らせて向かった。そのしばらく後に、無傷の祭持さんと、服がボロボロだがどこにも怪我が無い俺、そして服の腹の箇所にだけ穴が空いている外蘭が戻ってきたら、誰でも俺と祭持のどちらかがやったと思うだろう。


 間違うのも仕方がない。そう思った俺は、慌てて手を振る。


 「い、いえ。気にしないで下さい」


 初対面で、尚且つ、自分より年上の女性に頭を下げられるのは慣れていないからか、何かこっちが申し訳なく思ってしまう。そんなことを思いながらも俺はチラリと横を見ると、隣にいる祭持さんが意地悪な笑みを浮かべていた。祭持さんは頭を下げる三輪さんに、ニヤけ顔で答える。


 「そうだよ、斎藤君。私はそんなことをするような人じゃないよ。外蘭に打撲を負わせることがあっても、腹に穴を開けたりするわけないじゃないか」


 いや、打撲は負わせるのかよ。


 そんな祭持さんの煽るような言葉に三輪さんは怒るのかと俺は思ったが、意外にも三輪さんは微笑んだ。


 「打撲……ふふっ、そう言えばそうでしたね」


 三輪さんはそう言うと、昔を思い出し懐かしむように笑い、それに続いて祭持さんも同じ表情をする。


 なんだ?前にそういうことがあったのか?さっき、九年振りの再会だと言っていたが、七年前にそういう出来事があったのだろうか……昔の祭持さんは意外にもやんちゃだったりしたのかも知れないな。

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