第43話 まさかの事実
さらっととんでもないことを言った祭持さんに、俺は驚いて声を上げてしまう。祭持さんは、目を見開いて驚愕している俺を見ることなく、外蘭と霊異者の戦いから目を離さずに言葉を続ける。
「殺された女性は戦闘に関しては外蘭には少し劣ってはいたが、それでも決して弱くはない人物だった」
「……でも、外蘭の方が強いんだろ?」
今、外蘭が優勢だ。その女性は霊異者に負けてしまったみたいだが、その女性より強い霊異者を外蘭が押しているのだから何も問題は無いと思うのだが。
その言葉を聞いた祭持さんは、何か違和感を感じているのか、眉を顰め、霊異者を目を細めて見つめる。
「……それはそうなのだけれども、私の記憶が正しければね、今、外蘭が戦っている霊異者には勝てるくらいの実力を、彼女は十分に持っていたんだよ……実際、今の霊異者はそこまで強くない。素手の私でも勝てる。そんな霊異者に彼女は殺された」
「……と言うことは」
「ああ。あの霊異者は、まだ何かを隠している」
そう言われ、俺は戦っている二人の方へと顔を戻す。ちょうど、外蘭が霊異者の腹に拳をめり込ませところで、その勢いのまま霊異者を吹き飛ばした。
「おらぁ!」
壁に背中を強打し、ズルズルと床に落ちる霊異者。パラパラと、崩れた細やかな壁の破片が頭に降り掛かっている霊異者が、一瞬、笑った様に見えたのは俺の気のせいだろうか。
「……邪魔……するナ」
その後も戦い続ける二人。相変わらず、霊異者の攻撃は外蘭に当たらず、外蘭の攻撃は霊異者に当たる。霊異者はダメージを受け過ぎたからか、さっきよりも動きが鈍っており、外蘭の攻撃を受ける頻度が増えている。
少しずつだが、着々と霊異者を追い込んでいる外蘭。そして、ついに外蘭の拳が霊異者の顔面に勢いよくめり込み、霊異者はふらついた。その隙を逃さず、外蘭は怒涛の連撃を繰り出すのだった。
「おおぉぉぉぉ!」
何発も何発も殴打する。左拳と右拳を交互に繰り出し、霊異者の顔やら肩やら腹などを凹ませる。そんな怒涛の連撃で、霊異者の体にパキパキとヒビが入っていく。
「おおぉぉぉ! いい加減、死ねぇぇぇぇ!」
外蘭は終いだと言わんばかりに、何度も何度も殴られ、思うように動くことのできなくなった霊異者のみぞおち目掛けて、オーラを込めた渾身の蹴りを入れた。
「……ガッ!」
吹き飛んでいく霊異者。何度か地面にぶつかり、飛び跳ねていった後、霊異者が最初に現れた場所、壁の穴の前まで吹き飛んでいった。
「……ッ…ッッ!」
外蘭の蹴りが相当効いたみたいで、霊異者は起きあがろうとするも中々起き上がれずにいる。そんな霊異者に止めを刺そうと、外蘭は霊異者のところまで駆け抜けていく。
拳にオーラを込めながら近づく外蘭。その拳に緑色のオーラが集まっていき、集まった傍から凝縮されていく。その拳は、俺に喰らわせようとしていた拳と同じ色の、黒寄りの深い緑色になった。
そして、駆け抜ける外蘭と霊異者の距離が十メートルを切る。外蘭は霊異者を殴る為に、拳を構え始める。拳の力を入れ、勢いをつける為に腕を引いたその時、霊異者の後ろ……正確には壁に空いた穴の横から、誰かが顔を出した。
「……は?」
遠巻きから祭持さんと共に外蘭と霊異者の対決を見ていた俺は、突然、現れた顔を見て、思わず呆けた顔をしてしまう。
だって、おかしいじゃないか。その顔は、倒れている霊異者と瓜二つ。いや、違う。全く同じ顔をしていたんだ。
外蘭と戦っている霊異者と、完全に同じ顔をした存在が、壁の穴から俺たちを覗き込んでいる。そいつは、一度、ギョロギョロと目を泳がせると、向かってきている外蘭に焦点を合わせた。そして、何を思ったのか、大きく裂けた口を吊り上げ、ニヤリと笑ったのだった。
「……っ!? ちっ!」
その顔を見て、駆け抜けていた外蘭が足を止め、距離を取る。拳に溜めていたオーラは故意的に霧散させ、消えていく。そのまま、外蘭は新しく現れた霊異者を警戒するように睨み続けた。
「・・・・」
しばらく、顔だけを覗かせていた霊異者。しかし、外蘭が向かってこないと判断したのか、ゆっくりと全身を現した。ボロボロのマントに青白い肌。その霊異者は、顔だけでなく何から何まで全く持って同じ姿をしていた。
突如、現れた二体目の登場に、外蘭は面倒くさそうに眉を顰め、祭持さんは興味深そうに笑う。そして俺は、同じ姿、顔をした霊異者が二人いることに驚きを隠せず、大きく目を見開いた。
「二体……目!?」
出した声が俺が思っている以上に大きかったのか、霊異者が俺の反応し、前のめりになって首を90度曲げた。そんな人間には出来ない動きに、俺は恐怖を感じて、つい一歩下がってしまう。
俺を見ていた霊異者だが、怯えている俺から目を離し、次は俺の隣にいる祭持さんへと視線を変えた。二秒ほど祭持さんを見ていたが、すぐさま外蘭の方へと視線を移す。
「……じゃ……するナ」
霊異者は、手にオーラを込め始めた。その色は、外蘭の緑色とは違い、血のように真っ赤な色をしている。見るからに凶々しく、気色が悪い。
その真っ赤なオーラで染まった手で、俺達をこ攻撃してくるのかと思いきや、その手を、倒れて起き上がれないでいるもう一体の霊異者の方へと向けたのだった。
その手から、オーラが放たれる。垂れるように、ドロドロと流れるようにして、倒れている霊異者に落ちると、オーラを放たれた霊異者が体を震わせ始める。
バキバキッ!ゴシャッ!グキャッ!
手足があらぬ方向へと曲がる。左に、右に。半回転しては、元の位置へと戻っていく。まるで無理矢理に体を直している様な音が響き、気付いた時には霊異者は起き上がっており、外蘭の攻撃で出来ていたヒビも治っていた。
完治……したのか?
さっきまで動けずにいたのに、今は何事も無かったかのように佇んでいる。二人の霊異者は、気怠そうにしながらも、その口を開いた。
「「邪魔を……するナ」」
その声は違和感を覚える程、やけにトーンが同じだった。
「……なるほど、二人いたのか。二人なら、彼女がやられてしまったのも頷けるね」
祭持さんは一人、何度も頷く。自身が抱いていた疑問が晴れたからか、どこかスッキリした表情を浮かべている。
「見た感じ、霊気の量も全く同じ。全くの同一的存在と言うことなのかな?」
そう言いながら、霊異者の方へと手をかざす。そして一言、声を発した。
「動かないで」
祭持さんが喋り出す瞬間、後から来た霊異者が、傷が癒えた方の霊異者の背後へと回った。その為か祭持さんの声で、傷が癒えた方の霊異者は動けないでいたが、その背後へと回った霊異者は停止していない。
好機と見たのか、外蘭が二人の霊異者の方へと向かって走り始める。が、それと同時に、動ける霊異者も間髪入れずに動き出した。背後に回っていた霊異者が、動けずに硬直している霊異者の襟を掴むと、そのまま壁に空いた穴の奥へと引きずり込んでいってしまった。
外蘭は、遅れて穴までたどり着き、逃げていった霊異者達を追いかけようと穴の先を覗くも、既に壁の穴には霊異者達の姿はなく、ただ暗闇だけがその場に留まっていた。




