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第41話 間一髪

 外蘭は気絶したと思っていたが、どうやら気絶していなかったらしい。俺は顔を上げて、外蘭を見た。外蘭はこめかみに青筋を立てながら、俺を凄い形相で睨んできていて、怒っているのがよく分かる。


 怒り。


 お守りで邪魔をした祭持に対しての怒りか、外蘭からすれば苦戦することない程に弱者の俺に吹き飛ばされたことか、あるいは両方か。


 そんなとてつもない怒りからか、外蘭は体を震わしている。そして、壁から抜け出すと、後方にある壁に拳を勢いよくぶつけた。


 「あぁ……もういいぜぇ、もういい……お前は破片一つ残らず滅してやるぅ!」


 そう言うが否や、外蘭は拳に力を込め始める。その拳に緑色のオーラが集まっていき、次第にそのオーラは膨れ上がり、凝縮する。出来上がったそのオーラは、緑色だが、ほぼ黒に近く、禍々しさを放っている。


 おいおい……なんだよ、それ……そんなのありかよ。


 漫画でしか見たことないような、あり得ない光景に、俺は頬を引きつかせてしまう。


 もう祭持さんがくれたお守りは無い。さっきの蹴りよりも明らかに威力が強そうなあの拳を受ければ、俺は死んでしまう。だが、今の俺には、あの拳を止めれる打開策など存在しない。

 

 「……死ねぇ!」


 外蘭は俺を殺す為、滅する為に、勢いよく地面を踏み、飛んでくる。だが、外蘭が俺のところまでやってくる前に、誰かの声が聞こえてきたのだった。


 「はい、止まって」


 その声で、こちらに向かってきていた外蘭の体が、物理法則を無視したような動きで急停止した。あまりに不自然な止まり方をした外蘭は不愉快そうに表情を歪ませ、目だけを横へと向けた。


 「……クソ、もう追いついた、のかよ」


 外蘭が見ている方を向くと、俺が外蘭に吹き飛ばされて空いた壁の穴に、祭持さんが立っていた。そんな祭持さんの、いつも通りの余裕のある佇まいに安堵し、俺は心の底から言葉を溢した。


 「た、助かったぁぁ」


 あぁ、祭持さんが凄く頼もしく感じる。いや、いつも頼もしいのだが、殺されかけていたこの瞬間は、俺が今まで出会った誰よりも、そのシーンよりも頼もしく感じた。


 祭持さんが来てくれたんだ。とりあえず、もう安全だろう。


 そう思うと、今まで張り詰めていた緊張感が解け、頬が緩む。祭持さんは、落ち着いた足取りで俺の方へと向かってきながら、外蘭に不敵な笑みを見せた。その顔は、してやったりと言わんばかりに悪い笑顔だ。


 「おや、なんだい?もう少し遅れて登場した方が良かったかな?」


 「あぁ。あと、三秒もあれば確実にソイツをぶち殺せたのによぉ」


 「へえ、それは残念だね」


 そう言うと、俺の元までやってきた祭持さんは、前屈みになり、俺に手を伸ばした。


 「奥崎君、立てるかい?」


 「あ、ああ」


 まだ、全身のあちらこちらが痛いが、立てない訳ではない。俺は、差し伸べられた祭持さんの手を借りて立ち上がった。そして、俺は祭持さんに心の底から礼をする。


 「祭持さん、助かったよ、ありがとう」


 「いいよ。それにしても、見事にコテンパンにされたんだね。服がボロボロじゃないか」


 あちらこちらが破け、上着に関してはほぼ無くなっている状態の俺を見て、祭持さんは、軽い感じで笑うのだった。


 俺の現状を軽んじている祭持さんに思わず苦笑いがこぼれてしまう。


 「いや……祭持さん、笑ってるけど、俺、死にかけたんだからな」


 「そんなこと見たら分かるよ」


 「そんなことって……」


 祭持さんの言い方に納得しない俺は顰めっ面になる。その時、体を動かせない外蘭が、突然、大声を上げた。


 「おい、祭持ぃ! 清はどうしたんだよ、まさか殺したんじゃねえだろうなぁ!」


 急に近くで大声を上げられるとは思ってもいなかった俺は、急な大声に、思わず耳を塞いでしまう。祭持さんは不快そうに顔を歪まし、外蘭の方へと振り返ると、呆れたように腰に手を当てた。


 「物騒なこと言うなよ、外蘭。私は君とは違って、人様の連れを殺そうとなんかしないよ。彼女は意識を削がしてもらっただけで、怪我の一つもさせていない。まあ、今頃は夢の中だろうね」


 「チッ、清は足止めすらできねえのかよ」 


 「私があんな子供に足止めされるとでも?」


 「……ちっ!」


 言い合いは得意ではないみたいだ。外蘭は言い返す言葉が思いつかないのか、バツが悪そうに顔を逸らした。


 「もういいだろ、祭持。早く解けよ」

 

 「嫌だよ。解いたら私の助手を殺そうとするじゃないか」


 「はっ、お前がいるってのに、俺の拳がそいつに当たる訳ねえだろ」


 さっき、足は当たったんだがな。


 外蘭と祭持さんが互いに牽制し合うように見つめる。その後、祭持さんはフッと僅かに口角を上げ、笑った。


 「……よく分かっているじゃないか」


 いや、だから、さっき祭持さんの真横で蹴り喰らったって。


 祭持さんが言葉を言い終わると同時に、外蘭は動けるようになったらしく、突然動くことで出来るようになった外蘭は、よろけそうになるがすぐに体勢を整えた。


 「はあ……現状、俺には勝ち目がねぇし、しょうがねえから今日は見逃してやるよ」


 ひとまず今日は諦めてくれたみたいだ。外蘭は後頭部を掻きながらそう言うと、俺たちがやってきた穴の方へと歩き出した。そして、穴のところまで足を運んだ外蘭は、振り返り、俺を睨むのだった。


 「だけどなぁ、俺は霊異者の存在自体、何人たりとも許せねえ。必ずお前を滅するからなぁ。まあ、ひとまず今日はお預けってだけだぁ」


 「いや、俺は霊異者じゃ……っ!?」


 俺は霊異者じゃない。そう言おうとした俺だったが、突然起こった不可解な現象に驚き、最後まで言葉を口に出すことはできなかった。


 不可解な現象。それは、外蘭の腹から一本の腕が生えてきたのだ。一瞬の内に生えてきたように現れた白い腕。外蘭は、自らの腹から生えてきた腕を見て、首を傾げた。


 「…………あ?」

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