第40話 お守り
「はっはぁー!おら、おら、おらぁぁぁ!」
楽しそうに、笑いながら俺に股がり、拳を振り続ける。主に顔、時には胸や腹に拳を振るう。外蘭は、手を止めることなく俺を殴り続け、俺の体は、傷ができては治り、また傷ができては治るを繰り返していた。
「おいおいおいおいぃ!弱ぇなぁ!弱過ぎるなぁぁ!ちょっとは対抗してみろよぉ!」
外蘭の強烈なパンチに意識が朦朧とし、何度か意識が飛びそうになるも、回復能力のせいか、完全に意識が落ちることはない。外蘭は躊躇することなく拳を振り続けてくる。
そのまましばらく殴り続けていた外蘭だが、突然、その手をピタリと止めた。そして、楽しそうにしていた表情は、酷く冷めた表情へと変わったのだった。
「なんだよぉ、不死じゃなくてただの超再生能力かよ……つまんねえ奴だな」
外蘭は俺の上から離れると、殴られすぎて意識が朦朧としている俺の腹に蹴りを入れる。俺はそのまま壁にぶつかり、地面に仰向けの状態で倒れるのだった。
「……ぅぅ……ぅ」
く……そ……。
再生が遅い。さっきまでなら数秒で治る傷が今は全然治らない。このスピードなら治るのは三分と言ったところだろう。
何故、俺が昨日手に入れた能力、再生能力の再生力を把握しているのか。それは、外蘭に殴られすぎたせいだ。最初は分からなかったが、殴られ、傷が癒えるを何度も繰り返したことで、どれくらいの傷がどの速度で治るのかが大体分かった。
それにしても、外蘭のやつ……力、強すぎるだろ。跨られていた時、何とかしようと外蘭を退けようと試みたりしたが、抵抗なんて一切出来なかった。と言うか、外蘭の奴の足の指一本すら動かすことが出来なかった。
そんな人外じみた理不尽な力の強さに、「お前こそ人間じゃねえよ」って言ってやりたいが、今のボロボロな状態では喋ることすら難しい。俺は惨めに仰向けで天井を眺めるだけで精一杯なのだった。
そんな動くことのない俺を見て、これ以上は時間の無駄だと判断したのだろう。外蘭は「もう、死ね」と言う言葉を吐くと、俺の前に向かってくる。
「……ぅぐっ!……ぅぁ」
あと、二分。いや、あと一分もあれば、動けるくらいには回復するのに……くそっ、時間が足りない!
横たわる俺のところまで歩いてくる外蘭を恨めしそうに睨む。そんな俺の表情なんか気にすることなく、俺の目の前に立ち、見下ろす。
「じゃあ、これで……」
外蘭の足に緑色のオーラがどんどん込もっていく。徐々にそのオーラは大きくなり、緑色から深い緑色へと変色した。
その足で蹴られると俺は死んでしまう。そう本能的に理解した。何としてでも逃げようと、足に力を入れるも体は言うことを聞いてくれない。
いやだ、いやだ、いやだ!
そんな俺の思いは虚しく、外蘭は口を歪ました。
「お別れだぁ」
外蘭は、オーラを込めた足で俺の顔面、目掛けて、蹴り上げるのだった。
「ッッ!!!!…………?」
死んだ。俺の顔目掛けて向かってくる足に、思わず目を閉じてそう思った俺だったが、しばらく待っていても俺の顔に衝撃も痛みもやってこない。代わりに、外蘭の間抜けな声が聞こえてきた。
「……ぁ?」
な、なんだ?
恐る恐る目を開けると、外蘭の足は俺の顔面スレスレで止まっていた。何故止めたのだろう?と疑問に思ったが、その足が小刻みに震えているのを見て、外蘭が止めたくて止めたのではなく、こちらまで届かせることができないのだとすぐに分かった。
目と鼻の先にある靴を見つめていた俺だったが、ふと、腰の辺りから眩い光が放っているのに気がついた。俺は視線を自分のズボンの方へと向けると、俺のズボンのポケットが光っていた。
何で、俺のポケットが光っているんだ?
そう思い、そのポケットに手を入れる。中に一つだけ何かがあるのを見つけ、取り出すと、それは一枚の紙だった。
これは……確か、祭持さんに貰ったお守りだったような。
この紙は、祭持さんと出会ったあの日、祭持さんの家、迷いの館を出る時に「肌身離さず持っているように」と言われて、毎日、ズボンのポケットに忍び込ませていた物だ。
競斗さんの件の時に効果が無かったものだから、お気持ち程度のお守りだと思っていたが、どうやらちゃんと効果はあったみたいだ。
その紙、正確には紙に描かれている謎の模様が発光している。その紙を見た外蘭は、恨めしそうに歯を食いしばった。
「あんの祭持の野郎ぉ……」
外蘭は、足に更に力を入れ、お守りの防御を無理矢理突破しようとする……だが、突破することは叶わず、お守りの光は更に増す。
「こんのクソがぁ!」
もう一度、更に一際、眩く輝く。そしてその光は急激に膨れ上がり、外蘭は勢いよく吹き飛ばされるのだった。
「があっ!」
吹き飛ばされた外蘭はそのまま壁に衝突し、埋まった。壁に衝突した衝撃で意識が落ちたのか、そのまま動かない。
え?……助かったのか?
ピクリとも動かなくなった外蘭を見て、安堵の気持ちが溢れてくる。そして、立ち上がることはまだ出来ないが、上体を起こせるくらいに回復した為、俺は上体を起こし、地面に手をついた。
「あ、危なかったな……危うく死ぬとこだった」
初日に祭持さんから貰ったこのお守りが無ければ、俺は死んでいただろう……祭持さん、マジでありがとう。このお守りは一生大事にするよ。
そんなことを思い、手に持っているお守りに目線を落とす。見ると、お守りの光がだんだんと失っていくことに気がついた。さっきまでの輝きは既に無く、今も、どんどん光を失っている。そのまま、光は失い続け、最後には跡形もなく消えていったのだった。
どうやら、一度きりのお守りだったみたいだな。
俺の手から消えてなくなったお守りを名残り惜しみながら見た後、俺は拳を強く握る。
もう少し回復したら、祭持さんのところへ戻ろう。
そう思い、強張っていた全身の力を抜いた。仰向けに転がろうとした時、外蘭の声が聞こえたのだった。
「……やってくれたなぁ、おいぃ」




