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第38話 短気すぎるよマジで

 「……ところでそちらの少年は誰なのですか?」


 「ああ、紹介していなかったね。彼は奥崎君だ。私の助手だよ」


 祭持さんは俺に手を向け、紹介をしてくれる。それを聞いた斎藤さんは、俺に軽く頭を下げる。


 「そうですか。奥崎さん、私は斎藤三輪 『さいとう みわ』と言います。短い間ですけど、よろしくお願いしますね」


 年上の女性から、礼儀正しくお辞儀をされると言う慣れないシチュエーション。それに戸惑いつつも、俺も頭を下げた。


 「あ……はい、よろしくお願いします。斎藤さん」


 吃りながらも挨拶を言い終え、頭を上げた俺だったが、斎藤さんは何が気に入らなかったのか、顔を上げた俺の視界に、不満気に頬を膨らませた斎藤さんがこっちを細い目で見てきていた。


 ……なんだ? 俺は、何か、斎藤さんを怒らせるようなことをしてしまったのか?


 何故、斎藤さんが膨れた表情をしているのかが全く分からず、俺は思わず、目をパチパチしてしまう。そんな俺に斎藤さんは、


 「……三輪です」


 と、小さく呟いた。


 「……え?」


 「私のことは、斎藤さんではなく、三輪さんと呼んでください」


 私は怒っていますと言わんばかりに眉を顰め、ムッとする斎藤さん。数分前のお淑やかで落ち着きもある斎藤さんとは違う印象に、俺は驚いてしまう。


 なんだ?呼び方が気に入らなかったのか?


 「え? でも祭持さんは斎藤君って」


 「三輪です」


 目を細めながら前のめりでそう言う斎藤さん。俺には、何故、斎藤さんと呼ばれるのが嫌なのかは分からないが、本人が嫌だと言うのなら、言わないに越したことはない。別に、少し怒っている斎藤さん……あ、いや、三輪さんの可愛らしい圧に負けたとかでは決してない。俺は、ほっぺをプクプク膨らませている三輪さんに返事をするのだった。


 「……あ、はい。三輪さん」

 

 「ところでそっちの幼女は誰なんだい?どうやら私の助手君は知っているようだけれども、私は初対面なんだが」


 祭持さんは、会話に混ざらず、大人しくしていた佳奈島のことを指差した。


 指を指された佳奈島は、何かが気に食わなかったらしい。祭持さんをムッとした顔で睨むのだった。


 「……幼女じゃない、佳奈島清」


 佳奈島は、「幼女」と言われたことが余程堪えたらしい。怒りからか、その小さい体がプルプルと震えている。


 「そうか、佳奈島清か。よろしく」


 そんな状態の佳奈島のことを気にすることなく、祭持さんは笑顔を向けるのだった。


 怒ってる。あれは絶対怒っているだろ。


 今は睨むのを止め、いつもと変わらない無表情でいるが、体の震えは止まっていない。そんな佳奈島のご機嫌を取る為に、俺は佳奈島へと話しかけた。


 「そ、それにしても、まさか、佳奈島が居るだなんて思ってもいなかったな。都市伝説系が好きなことは知っていたけど、霊異に関わっているとは思ってなかったよ」


 「・・・・」

 

 ここにやって来た時の、あの佳奈島の表情もあるため、俺は普段の接し方より優しい態度で佳奈島へと話しかけるが、佳奈島は答えないどころかこっちを見ることすらない。俺が何かしてしまったのか?と思い、心当たりを探すも、思い当たることは何もない。


 俺…‥佳奈島に何かしただろうか。


 俺は無視されたことに軽くショックを受け、項垂れてしまう。その横で、祭持さんがため息をついた。


 「……ところでアイツは微動だにしないけど、まさか寝ているのかい」


 「……ん?」


 俺が顔を上げて祭持さんを見ると、祭持さんは誰かを見て、呆れた目をしていた。


 誰に言ってるんだ?と思い、祭持さんの視線を辿ると、その視線は、ソファで天井に顔を向けて座っている男に向けられていた。


 確かにあの男は、俺達が来ても何の反応も示さず、未だずっと天井を見上げて座ったままだ。まさか、祭持さんの言う通り眠っているのか?


 三輪さんは、祭持さんの言葉に困った顔で頷くのだった。


 「はい。私達は、十分程前にこちらに到着したのですけれど、外蘭『がいらん』様はソファに腰掛けると同時に寝てしまいました。今起こしますので」


 そう言うと女性は、男、外蘭の頭の上にそっと手を置いた。そして大きく振りかざしたかと思うと、男の頭を勢いよく平手打ちしたのだった。


 バシンッ!


 ロビー内に音が響く。平手打ちとは思えない爆音に、俺は驚きのあまり開いた口が塞がらない。俺が呆気に取られている中、叩かれた男、外蘭はゆっくりと目を開けるのだった。


 「……んぁ、なんだぁ?」


 金髪にところどころ黒が混じった短髪。ボサボサとした手入れのされていない無造作な髪が特徴的だが、それよりも紅色の瞳の圧のあるつり目の方が印象深い。動物で例えるなら虎。今にも暴れ出しそうなイメージが、男全体から醸し出されている。


 外蘭は、眠そうにあくびをしながら背伸びをし始める。その背後に立っている三輪さんが、外蘭に声を掛けた。


 「外蘭様。祭持さんとそのお連れ様が来ました」


 「おお、そうか」


 再度大きな欠伸をした後、外蘭は仰いていた顔を下げると、こちらへと顔を向け、ニヤリと笑うのだった。


 「よお、久しぶり……って、おいおい、祭持。これは一体どういうことだぁ?」


 起きて早々、笑みを浮かべたかと思えば、次は怪訝そうな表情で俺と祭持さんを見てきた。いや、正確には、俺のことを見て怪訝そうな表情を見せた。そんな外蘭の問いに、極めて冷静に祭持さんは言葉を返すのだった。


 「……どういうこと、とは一体どういう意味だい?」


 「おいぃ、分かってんだろ?しらばっくれんなよ、祭持」


 外蘭がその鋭い眼光で祭持さんを射抜くも、祭持さんは変わらず無表情。


 「……何がだい?」


 表情は変えずに低い声で言い返す。そんな祭持さんに、外蘭は舌打ちをすると、ゆっくりと腕を上げ、俺を指差した。


 「そいつだよ、そいつ。俺は、なんで会議に『滅する対象を連れてきてるんだ』って言ってんだよぉ!」


 外蘭が怒りのままにソファを叩く。その叩いた衝撃だろうか、突風が俺の方まで飛んできた。


 「っ!?」


 何で、ソファを叩いたら、突風が起こるんだよ!?


 あまりに人間離れした力を目の当たりにした俺は、つい唾を飲み込んでしまう。


 「滅する対象?それは違うな外蘭。この子は私の助手だよ」

 

 滅する対象とは何のことを指すのか。それがよく分からない俺だったが、滅するというくらいだ。良いものではないだろう。と言うか、滅すると言っているのだから、そのまま訳すと殺す……つまり殺しの対象ってことか?


 祭持さんは俺を庇うように言ってくれるが、外蘭は聞く耳を持たない。それどころか、祭持さんの言葉を聞いて更に声を荒げる。


 「は? 助手ぅ? 殺しの対象の間違いだろぉ!」


 やはり俺の予想通りだったらしい。と言うか、俺、何も言っていないのに怒りを向けられるなんて理不尽過ぎるだろ。


 外蘭はそう言うと、ソファから立ち上がった。さっきまで力任せに叩いていた外蘭だが、起き上がった外蘭は、だらりと脱力した状態で立つ。かすかに横揺れしながらこっちを睨んできている。じっと俺を睨み続ける外蘭に、異様な雰囲気を感じながらも、俺も外蘭から目を離さない。


 そんな状況が数秒続くが、俺が一瞬だけ瞬きをしたことによって、状況は動いたのだった。


 瞬き。秒数で言えば0.2秒程だろうか。その一瞬だけ瞬きをした俺だったが、次に目を開けると外蘭の姿は視界から消えていた。


 「え……」


 どこに行ったんだ?そう口にしようとした俺だったが、その言葉を言おうとする前に、俺の視界が突然ブレたのだった。

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