第37話 同業者との待ち合わせ
あの後、俺は祭持さんの後に続いて、会議を行う場所へと向かった。迷いの館を出て、迷いの道を抜ける。そして、住宅街を歩き、その奥、街の外れを歩き続ける。
街の外れへと出た時には既に日が落ちてきていて、次第に辺りがオレンジ色へと変わっていった。
迷いの館を出てから約二十分程だろうか。その距離を歩き続けて、ようやく目的地に着いた。
そうして辿り着いたのは、四階建ての横に広いビルの廃墟だった。そのビルの廃墟の敷地内へと足を踏み入れた祭持さんは、腰に手を当て、ビルを見上げる。
「着いたよ、奥崎君」
目の前に佇む見覚えのあるビルの廃墟。祭持さんに続いて、ビルを見上げた俺は言葉を溢した。
「……ここなのか」
俺はこのビルの廃墟をよく知っている。正確には廃墟になる前の、使われていた時のこの建物を知ってる。
このビルは、俺がまだ小学生だった頃に、どこかの会社のビルとして使われていた場所だった。当時は小学生だった為、どんな会社かは分からないが、それなりに大きな企業の持つ会社のビルだったと思う。
そんな会社のビルは、当時は綺麗なビルだったのだが、今はもう整備すらもされていないのか、あちらこちらの塗装が剥がれ、その下のコンクリートが剥き出しになっている。その他にも色々な箇所が欠けており、その当時の姿はもう見る目もない。
祭持さんはひび割れたタイルを踏みながら、ビルの廃墟の中へと入っていく。俺もそれに続いて入っていくのだった。
中に入ると、そこには大きな空間が広がっていた。所々にテーブルと椅子が乱雑に置かれており、中央には、置物の数々が置かれている。そして、場所によっては大きなビニール袋なんかも置かれており、それに加えて、全体的に埃っぽく、目を凝らすと色々なところに蜘蛛の巣が引っかかっていた。
俺が小学生の頃以降、使われずに放置されていたことがよく分かる。
祭持さんは、一階には用が無いらしく、特に何かをする素振りをせず、案内看板の指示に沿って、階段へと真っ直ぐに向かう。キョロキョロしながらも、俺は祭持さんの後をついて行く。
ロビーから離れ、案内看板の指示通りに通路を歩いていると、二階に繋がり階段を見つけた。その階段は、通れるには通れるが、両端にはロッカーやらテーブルやらが雑に積まれていた。
「うっ……すごいことになってるな」
あまりの惨状に、俺は思わず苦虫を潰したような顔をして足を止めてしまうが、祭持さんは特に気になった様子もなく、スタスタと階段を登り始める。
そんな祭持さんに置いていかれないように、俺も階段を登るのだった。
「なあ、奥崎君」
祭持さんに遅れて階段を登り、後ろへと追いついた俺に、祭持さんは振り返らずに話しかけてきた。
「なんだ?」
「これから会う同乗者の男は、少々荒っぽい性格の持ち主なんだ。だから、あまり相手を挑発するような言葉は使わないでくれよ? あいつは怒ったら周りが見えなくなるからね」
何を言ってくるのかと思えば、どうやら、これから会う人は、性格に難があるらしい。会ったことがない俺には、どれだけ怒りやすい性格の持ち主かは分からないが、祭持さんの声色からして、相当怒りっぽいのではないのだろうか。
……今の話を聞いたら、行きたくなってきたな。まあ、言葉を慎重に選んで話せば、問題は無いだろう。そう思った俺は、頷いた。
「ああ、分かった」
そんな短いやり取りが終わったと同時に、祭持さんと俺は階段を登り切り、二階へと辿り着くのだった。
階段を登り切るとそこは、一階のロビーと似たような空間が広がっていた。一階のロビーと同等の広さで、あちらこちらにテーブルと椅子が置いてある。
だが、一階のロビーの中央にあったであろう置物の数々が端に寄せてあり、代わりに大きなソファが置かれていた。
そして、そのソファに座り、偉そうな態度で天を仰いで座っている男が一人。その両端には背の低い女性と姿勢正しく佇む大人びた女性が居たのだった。
俺達が階段を登って、ここに来るのを待っていたのだろう。両端の二人が俺と祭持さんに顔を向けていた。
一人は、短めの黒髪を後ろに纏めている女性。真っ黒なスーツ姿に身を包み、俺と祭持さんのことを目を細めて見ている。
年齢で言ったら、俺の姉ちゃんと同じか、それ以上くらいの年齢に見える。こっちの女性は見たことない人だったが、もう一人の女性……背の低い女性は、俺の知る人物だった。
「な!? 佳奈島!?」
そう、あの読書部に所属している学校内一背の小さく、口数の少ない佳奈島清がそこにいたのだ。
「……奥崎、蓮」
いつもは感情が顔に出ず、喜んでいるのか、悲しんでいるのかが全く分からない佳奈島なのだが、今は俺を恨むかのように睨んでくる。その目は怒っているようにも見えるし、警戒しているようにも見える。
そんないつもと態度が違いすぎる佳奈島に驚いて固まっていると、佳奈島の反対側に立っている女性が、祭持さんに向かって深く頭を下げた。
「お久しぶりです、祭持営さん。七年振りですね」
「ああ、久しぶりだね、斎藤君」
九年振り……結構前からの知り合いなのか。
久しぶりの再会だからか、顔見知りらしい祭持さんと礼儀正しい女性、斎藤さんは互いに懐かしむように微笑んでいる。
祭持さんは、その場で女性、斎藤さんの頭のてっぺん辺りに添えるように手をやると、大きくなったな」だなんて言い、その言葉に、斎藤さんは「もう大人ですから」と返す。
それを聞いた祭持さんは、それは予想外だったと言わんばかりに目を見開いたが、すぐに柔らかい表情を見せる。
「へえ、もう君は大人か」
「はい、あれからもう七年経ってますからね」
斎藤さんは遠い目をしながら、そう言う。そして二人は、しばらくの間、黙り込んだ。
過去の記憶、過去の出来事に浸っているのか、そんな二人の表情には喜びと寂しさ、後悔が浮かんでいるような気がする。
七年前、何があったのだろうか。聞いてみたいが、部外者の俺が聞くのは無粋だろうな。
大人しく俺も黙り込んでいると、祭持さんはゆっくりと目を閉じた後、いつも俺に見せているような表情へと戻った。
「いやあ、あの時はあの時で可愛らしかったけど、今は今で、大人びて綺麗になったね」
「あ、ありがとうございます」
突然褒められたからか、あるいは、褒められ慣れていないのか、祭持さんに綺麗と言われ、斎藤さんはモジモジとし始める。が、俺と佳奈島に見られていることにハッとしたのか、すぐに姿勢を正し、表情を引き締めた。そして、俺をチラリと見た後、斎藤さんは祭持さんに尋ねる。




