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第32話 暇だからといってブラつくのは良くないかもしれない。

 どうやら先生の話によると、競斗さんは家の都合で今日から四日間、学校を休むらしい。何やら遠くに住んでいる祖父の家に行くやらなんやら。


 何であれ、先生の話的には霊異者関連ではないとは思うが、絶対にそうではないと言い切れない為に不安は拭いきれない。


 その後授業が始まり、いつも通り午前の授業を全て終えた後、昼休みに改と一緒に弁当を食べた。無事、朝の失言である『夜遊び』の弁解することができ、その後は時間ギリギリまで談笑した。


 改が戻って来たことと、霊異者に怯えずに過ごす学校生活が一週間ぶりに楽しい。そう思えた昼休みだった。


 そして午後の授業もそつなくこなし、放課後がやってくる。放課後、ロングホームルームが終わるとすぐに改が俺の机へとやってきた。


 「いやぁー、やっぱ家にずっといるより、学校で授業を受けてる方がいいな!」


 改は両手を上にあげ、伸びながらそんなことを言い始める。元気一杯な改には家の中でずっと過ごすのは窮屈に思えるのだろう。


 「マジかよ。俺は逆にずっと家にいる方がいいと思うけどな」


 俺としては学校ほど居ずらい空間は無い。俺が変わり者だからかも知れないが、学校にいるより家に籠っていた方が何倍も楽しい。三日三晩、ゲーム三昧。想像するだけで口元が弛んでしまう。


 「ははっ、奥崎ならそうかもな」


 妄想で幸せそうな表情を浮かべる俺を見て、改は苦笑いをする。そんな改に気付き、表情を引き締めた俺は改に聞くのだった。


 「なあ、今日は一緒に帰れるのか?」

 

 改とは話すようになった一年生の最初期の頃から数ヶ月経った今日までずっと、どちらかに何かしらの用事がない時は一緒に帰っている。二人の家の方向がある程度同じというものもあるが、何より互いに一番仲が良い友達だからだ。

 

 「あー、なんか俺、この後、先生に「帰りの会が終わったら職員室に来い」って言われてるんだよな。多分すぐ終わるだろうから、それが終わるまで待っていてくれるか?」


 即答すると思っていたが、何やら用事があるらしい。歯切れが悪そうにそう答える改に、俺は頷いた。


 「ああ。待ってるよ」


 すぐ終わる用事なら全然待てる。せいぜい数分くらいだろう。俺はこの自分の席で座って待っていることに決める。


 「じゃあ、行ってくるわ。ちゃちゃっと終わらせてくるから」


 俺の頷きを見た改は、俺に軽く手を振ると、駆け足で教室を出ていく。そんな改を見送った後、俺は窓から見える景色を見つめるのだった。


 たったの数分、待つくらい何てことは無いさ。



 五分後。



 ……改、遅いな。もう二十分くらい経っているんじゃないか?

 

 そう思い、時計を見るもまだ五分しか経っていない。


 ……おかしい。なんでこんなにも時間の進む速さが遅いんだ。


 貧乏揺すりをしながら再度、視点を窓へとやる。だが、十秒も経たずして目を逸らす。


 暇だ。暇すぎて辛い。


 何かしようにもすることがない俺は、とうとうじっとしていられなくなり、勢いよく立ち上がるのだった。


 「廊下でもぶらつくか」





 一人で教室で待っているのに耐えられなくなった俺は教室を出ると意味もなく廊下を歩き始めた。廊下には、部活動へと向かう者が入れば、帰ろうとする者、友達と談笑している者で賑やかになっている。


 そんな廊下を前から来る人にぶつからないように上手く避けながらしばらく歩き続ける。皆、誰かしらと一緒に歩いたり話したりしているのに俺は一人。


 そんな状況になんだか虚しい気持ちが込み上げてくるが、それは気のせいだろう。

 

 自分の友達の少なさに目に涙が浮かびそうになっていると、前から見知った顔の女子が歩いてきていることに気が付いた。


 「あれは……」


 周りにいる女子よりも一回り小さい女子。お尻まで伸びた、少し癖のある紫色の髪に、無表情の顔。大事そうに一冊の本を両手で抱えている女子は紛れもなく、俺が接点を持っている女子の二人の内の一人である、佳奈島 清『かなしま きよ』だった。あ、もう一人はもちろん競斗さんだ。ちなみに佳奈島は、俺が知る限り、同い年で一番背の低い子だったりする。


 「佳奈島じゃないか」


 前から歩いてきた佳奈島に俺は声を掛ける。

 

 「……?」


 俺の声に少し遅れて反応した佳奈島は顔を上げて足を止めた。そして俺を見るや否や何故か驚いた顔をするも、それも一瞬。いつも通り、いや、いつもの表情より少し険しめな顔でこちらを見てくる。


 なんだ? 俺を警戒してるのか?


 「奥崎……蓮」


 ただその場で立ち尽くしているだけの佳奈島だが、その小さい体から感じる雰囲気は俺にこれ以上近づくなと言っているように見えてしまい、思わず俺も足を止めてしまう。


 数秒。声を出さずに互いに見つめていると、佳奈島が口を開いた。


 「ねえ……」


 その目は何を考えているのかが全く読めない。いや、いつも読めないのだが、今は更に読めない瞳をしている。


 そんな瞳に何故か恐怖を感じた俺だったが、それは気のせいだと自分に言い聞かせ、返事をするのだった。


 「……なんだ?」


 佳奈島が口を開く。吸い込まれるような瞳で俺の目を見つめながら一言、俺に言う。


 「私が貸してた本は?」


 「・・・・」


 あ、本?


 貸してた本。そう言われて俺はここ数日の記憶を辿っていく。そうして記憶を辿っていると、俺は祭持さんと初めて会った時に読んでいた本を思い出した。佳奈島から、「これ、おすすめ」と言われ、渡された本。

 

 ……ここ数日の出来事が濃すぎて、本を借りていたことをすっかり忘れていた。最近の俺は霊異者のせいで心に余裕が無かったからな。


 あの本は確か……幽霊、都市伝説やらのオカルト系のことが書かれていた本だった。あれは……今は家の机に起きっぱなしにしていた気がする。


 記憶を辿り、本の所在を思い出した俺は頭の後ろを掻きながら返事をする。


 「あー、今、家にあるんだ。今度必ず返すよ」


 すぐに返してもいいが、俺はまだ最後まで読み切っていない。霊異者関連に巻き込まれる前、祭持さんと出会って以降、読んでいない。だからまだ途中までしか読めていないのだ。


 「……そう」


 今日返して欲しかったのだろうか、俺の返事を聞いて残念そうに肩を落とし、項垂れる。


 ……何か悪いことをした気分だな。なるべく早めに返そう。うん、そうだな。今日はどうせ帰ってもゲームができずに暇だ。家に帰ったら残りのページを読んで、明日でも本を返すか。


 今日の夜、本を読むことを心に決めた俺に、項垂れている佳奈島がもう一度声を掛けてくる。


 「ねえ……」


 佳奈島は項垂れていた姿勢を直すと、再度、じっと俺を見つめてきた。その目は大きく見開いており、俺に何か言いたげなのは確か。


 ……まだ他に何かあったけ?


 素早く頭を回転させて考えてもみるも、俺には思い当たることは一切無い。もしかしたら俺が覚えていない何かがあるのかも知れない。


 「なんだよ」


 「今から、部室に来て」


 部室?


 「部室って、読書部の部室か?」


 佳奈島は読書部と言う部活に所属している。


 たった二人しか所属していない部活で、活動内容はと言うと、先人、現人らの知識の結晶である書籍からその片鱗を得て、それを生活、将来に活かそうとか何とか。要するに放課後、ゆっくり本を読もう。と言うことである。


 頷く佳奈島に、俺は尋ねた。


 「何でだ?」


 「……今、暇でしょ?」


 当然と言わんばかりに首を傾げる佳奈島。その表情が少しばかり気に食わない。言い返してやりたいが……まあ、否定は出来ない。今、俺が廊下を意味もなく歩いているのは、改の用事が終わるまでの時間潰しだからな。


 「……少しだけならいいぞ」


 少しばかり癪だが暇なのは事実。俺は佳奈島の提案に乗る。


 改の用事があとどれくらいで終わるかは分からないから、それまで読書部の部室で本を読むのも悪くない。うん、そうだな。


 「じゃあ、いこ」


 「あ、ああ」


 俺の返事を聞いた佳奈島は、踵を返して歩き出す。長い髪の毛を左右に揺らして歩く小さな背を追うようにして俺は歩くのだった。

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