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第30話 寝てると思ったのに

 私は見えなくなるまで手を振り、奥崎蓮が見えなくなったと同時に、一人きりの部屋で言葉を溢した。細く、疑い深い目で。


 「それにしても君はますます人間から離れていってるね」


 もう少しで、君は人とは呼べなくなってしまうのかもしれない……あるいは既に。

 



 皆が寝静まり、車一つ通っていない暗い道を歩いて家に帰ってきた俺は、できる限り音を立てずに玄関の扉の鍵を開けた。


 ほんの少しだけドアを開け、廊下に誰もいないことと電気がついていないことを確認した後、中へと入っていく。


 何故、我が家なのにこんな音も立てずに入るのか。それには理由がある。それは、俺の実の姉、奥崎真衣にこの時間に帰ってきたことがバレないようにする為だ。

 

 ちなみに以前、俺が夜更け頃に帰ってきた時には、奇声と共にドロップキックを喰らわされた。まあ、その時は姉ちゃんが中学生で思春期だったってこともあり、つい、足が出てしまったのだと思う。 


 今、姉は大学生だから流石に蹴られることは無いだろうが、怒られるのは目に見えている。


 俺は音が出さないようにゆっくりと扉を閉じると、静かに鍵を閉めた。


 「ふう、後は自分の部屋に戻るだけだ」

 

 一番の難関。自分の家の中に入ることを無事達成した俺は安心から一息ついた。だがその瞬間、突然、廊下の明かりがついたのだった。


 「……おい」


 俺の背後、廊下の方から声が聞こえる。低くドスの聞いた声。と言うか、そもそもこの家に住んでいるのは俺以外に一人しかいない。


 俺は冷や汗を掻きながらも恐る恐る振り返ると、そこには両腕を組んで仁王立ちしている姉ちゃんがいた。その顔は怒りに染まっており、鬼というのが相応しい形相をしているのだった。


 「っ!?ま、まだ起きてたのかよ」


 動揺を誤魔化しきれない俺は、吃りながらも言葉を出す。そんな俺に、姉ちゃんは片眉を上げて睨みを利かせてくる。


 「あ?お前が帰ってこねえんだ。寝る訳ねえだろ」


 それはなんとも家族想いなことで。


 俺のことを大事に思っていることはものすごく嬉しいことだが、今この状況に置いては余計なことでしかない。


 「は、ははっ。そ、それは申し訳ない、な」


 複雑な思いから、俺は乾いた笑いしか出ず、思わず頭を掻いた。そんな俺の動きが癪に触ってしまったのだろうか。一瞬、肩を小刻みに震わすと喋り出す。


 「クソ弟、こんな時間に帰るとはいい度胸じゃねえか……一体、今までどこをぶらついていたんだ?ああん!?」


 あ、不味い。相当ご立腹じゃないか。


 こめかみに青筋を浮かべてこちらを睨む姉ちゃんの気を、どうすれば鎮められるのだろうかと必死に頭を回転させるも思いつかず、ただただ目を泳がせることしかできない。


 「あー、いや、そのぉー」


 そんな動きが決定打になってしまったのだろう。姉ちゃんの堪忍袋の緒が切れ、近所にも聞こえてしまうのではないかと思うほど大きな声で叫ぶのだった。


 「言い訳は聞きたくねえぇぇぇ!蓮、お前は当分、ゲーム禁止だボケェェェェ!」


 「はぁ!?ちょっ!?何言って……」


 それは流石に無いって!


 「文句は受け付けねえ!ゲーム機は既に没収してんだよぉ!」


 「そ、そんな……い、嫌だぁぁぁぁ!」


 それだけはマジで勘弁してくれよぉぉ!


 こうして、競斗さんとその周辺の人達の危険は無事に去り、俺も命を脅かされることはなくなったが、俺の第二の命とも言えるゲームは没収となってしまったのだった。


 「……なあ、姉ちゃん」


 「あ?なんだよ?」

 

 「ゲームは、いつまで没収……なんだ?」


 「そんなもん知るか」


 「なんでだよぉぉぉぉ……」

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