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第29話 事の顛末

 「と、言うことなんだ」


 黒電話先の相手と会話を終えた後、祭持さんは俺に今回の霊異者がどういう経緯、そしてどういう目的で競斗さんに取り憑いたのかを説明してくれた。


 どうやら今回、競斗さんに取り憑いていた霊異者は幼い少女らしく、何やら生前、実の父親の男から母親と共に虐待を受けていたらしい。


 そしてある日、お酒を飲んだ父親が何を思ったのか、母親を外に引っ張り出したとのこと。


 酔っ払って思考能力が低下したのだろう。そのまま母親を引きずって反対側の道路まで引っ張って行ったらしく、少女はその母親を助けようと追いかけ、道路を飛び出した時に大型自動車、トラックに轢かれてしまった……その時の、母親を助けたいと言う気持ちが、少女を霊異者へと変貌させてしまった。


 母親を助けたい、取り戻したい。だから、


 「だからあんなに『返して』と訴えてきていたのか……」


 さっきのことを思い出し、瞼を閉じる。


 辛い……本当に辛く悲しい話だ。


 「じゃあ、これで一件落着……ってことか。競斗さんに取り憑いていた霊異者は消えたし、俺はもう教室でビクビク怯えなくて良くなったのか」


 少女が不憫すぎて、あまり一件落着とは思い難いが、もう競斗さんに取り憑いていた彼女はもういない。この事件は終わったのだ。


 一人寂しげに俯いていると、祭持さんは「何を言っているんだ」とキョトンとした顔をする。


 「ん?消えてないよ?」


 「……え?」


 今……なんて?消えてないって?


 祭持さんが言った言葉に思わず自分の耳を疑ってしまう。


 え?俺の聞き間違いだろうか?

 

 そんな俺に追い打ちをかけるように、とぼけた顔で口にするのだった。


 「だから、競斗君に取り憑いていた霊異者、消えてないって」


 は?消えてない?


 「え?祭持さん、あの霊異者を除霊してたじゃないか」


 俺の目の前で、競斗さんに取り憑いていた霊異者を除霊させていただろ。祭持さんが人差し指を競斗さんの額に触れた途端、競斗さんが纏っていたオーラが爆散して跡形も無くなったのを俺はしっかり見ていたんだが。


 だが、祭持さんはやれやれと首を振ると、話し始める。


 「除霊?私はただ理性が飛んでしまった霊異者の少女の力をただ爆散させて、正気に戻してやっただけだよ。彼女は競斗君の中に今もいるよ?」


 今もいるだって?


 つまり、さっき祭持さんが競斗さんにやったことはただ溜めていた力を爆散させただけだと……


 さぞ当たり前のように告げる祭持さんに、俺の中で少しばかりの怒りが湧いてきた。その感情に任せるがままに俺は口を開く。


 「何で……除霊しなかったんだ?」


 祭持さんが言った言葉から、競斗さんが抱えている問題を先送りにしただけだと、そう捉えた俺は祭持さんに詰め寄る。そんな俺を見て、祭持さんは面倒くさそうに返事をするのだった。


 「しなかったんじゃなくて、できなかったんだ。そんなことしたら競斗君は死んでしまう。私があの場所で競斗君と出会った時には、既にあの子は霊異者に完全にとはいかなくとも、中途半端に取り憑かれ、乗っ取られてしまっていたからね」


 「どういうことだ?」


 「今、霊異者の少女と競斗君の魂は混ざっているんだ。うーん、その説明は正しくないか。少女と競斗君の精神や魂のようなものが繋がり、混ざってしまっている……いや、それだと同じ説明になってしまうか。まあ要するに、もし霊異者を消してしまったら必然的に競斗君も消してしまうことになるんだ。いわゆる運命共同体ってやつかな?」


 途中、説明が面倒だからって投げやがったな。


 気怠そうにソファに背中を預ける祭持さんは、これ以上噛み砕いて説明する気はないのだろう。足を組み直し、天を仰ぎはじめた。


 そんな祭持さんに呆れを感じて、ため息をつく。


 「と、言うことは問題は何も解決していないのか」


 今日俺がやってきたことは全て無駄だったと。その場凌ぎにしかすぎない、ただの空回り。

 

 そう考えてしまい、無意識に拳に力が入ってしまう。そんな俺の拳を見た祭持さんは、預けていた背中を起こし、姿勢を正したのだった。


 「そういう訳ではないよ、奥崎君。そもそもあの霊異者は元々大人しい、ただの子供の霊異者だったんだ。今回、競斗さんに取り憑き、乗っ取ろうとしてしまったのは、力が暴走してしまったからだよ」


 「力が暴走……?」


 俺がまだ聞いたことのない情報が出てきて、思わず眉を顰めてしまう。そんな俺に気づくことなく、祭持さんは続きを喋るのだった。


 「そう。霊異者は、自分にはあり余る力を持っていると、その力に翻弄され、理性が飛んでしまうことがあるんだ。自我が飛び、自分を霊異者たらしめている想いのままに暴れてしまう……それを暴走というんだよ。時に、感情は理性を超えるだろ?」


 そう言い終わると、まるで、どうだ?と言わんばかりにこちらを見てくる。


 「……俺、暴走だなんて聞いてないんだけど」


 「教えてないからね」


 もう一度ソファに深く座ると、祭持さんは不敵に笑った。その笑顔に少し苛立ちを覚えた俺はつい睨みつけてしまう。が、怒ったところで今更だ。


 そう思った俺は肩の力を抜き、大人しく祭持さんの言葉に耳を傾けることにした。


 「いやぁ、私もまさか力が暴走してしまったせいで人に取り憑き、乗っ取ろうとしただなんて思っていなかったんだよ。てっきり、自分の意思で、理性のままに競斗君を乗っ取ろうとしていた、そう思っていたんだ」

 

 そう言いながら祭持さんは「あははは」と言いながら頭に手を置き、軽々しく笑う。


 「……じゃあもう俺と競斗さんは安全なのか?いや、もうその少女は暴走したりしないのか?」


 元々大人しかったとしても、また今回みたいに暴走してしまって、俺を含めた競斗さんの周りの人達に危害が及ぶことはないのだろうか。その問題が解決していないと、今回の事件はまだ解決とは言えないだろう。


 そんな俺の言葉を受けて、祭持さんは頬杖をつき、考えるような仕草をする。


 「んー、そうだね。絶対、安全……とは言い切れないけど危険ではなくなった。少なくとも今は……ね?まあ、それに暴走が今後起こることはほぼ無いと思っていていい」


 「今は危険ではない……とは?」


 「私はあの霊異者の少女が時間をかけて溜めていた力をほぼ散らした。だから今すぐに、少女が競斗君をどうこうすることができない状態にあるんだよ。今、あの少女から競斗君に対してできることはせいぜい競斗くんとコミュニケーションを取ることくらいだと思うよ?」


 「なるほどな……だから、今は問題ないってか……だったら時間が経って、あの少女がある程度の力を取り戻したらまた同じことが起きてしまうじゃないか」

 

 何も解決してやいない。そんな俺の言葉に、祭持さんはニヤリと笑った。


 「あの霊異者の少女は、別に気性が荒い訳では無い。むしろ優しく勇敢な良い子ちゃんだ。ちゃんと、少女と競斗君が友好関係を築くことさえできれば、競斗さんが危害を加えられることは無いと思うよ。それに暴走も、適度にガス抜きをすれば何も問題はない。まあ要するにこれからの競斗君次第かな?」


 「競斗さんは、あの霊異者と仲良くなれるのか?」


 「さあね?でも、少なくとも奥崎君。競斗くんは君より仲良くなれる可能性は高いと思うよ?」


 「……はあ、それは言えてるな」


 友達と呼べる人が高校に二人しかいない俺にはなんとも胸が痛くなるお言葉だな。


 祭持さんが言った言葉で地味にダメージを受けてしまった俺は肩が重くなる。祭持さんはソファから起き上がると、そんな俺の肩に手を置いたのだった。


 「なあ、奥崎君。君が競斗くんに何か手助けしてやりたい、とても献身的になってやりたいのは充分分かるけど、もうこれ以上は君にも私にもどうしようもないよ。できるとしたら競斗くんと霊異者の少女が手を取り合うことを祈ることだけだね」


 「そう……か……って、そこまで気にかけてなんかいねえよ!なに、何気なく『とても献身的になってやりたいのは充分分かる』だよ!そんなこと思ってないし、そこまで仲良くねえ!ただの隣の席だってだけだ!競斗さんの隣の席の俺にまで危害が及ばないようにーーーー」

 

 「そうか、まだ自分の気持ちを正直に口にするのが難しい年頃だったね……うん」


 そう言い、俺の肩に置いていた手で軽く肩を叩く。


 「・・・・は?」


 祭持さんの突然の行動につい固まってしまう。そんな俺の肩をもう一度叩くのだった。


 「・・・・うん」


 「……なぁにぃが『うん』だよぉ! だから違うって言ってんだろぉぉ!」


 俺は祭持さんの手を無造作に払いのけると、もう家に帰る為に踵を返した。


 「じゃあ、帰るからな」


 「なんだ、もう行っちゃうのかい?折角からかい甲斐がでてきたところだったのに……」


 「もう、か・え・ら・せ・ていただきます!」


 俺は雑に扉を開けると部屋を出ていくのだった。


 そんな俺の背中に向かって、祭持さんは手を振る。


 「気をつけて帰るんだよ、奥崎君」

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