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第21話 いつかの席替えの日に

 「ねえ、これからよろしくね?」


 席替えが終わり、今までとは違う環境になったことから生じた気まずさから自分の机に突っ伏していると、隣の席から声を掛けられた。


 小、中学と体験してきた過去の経験上から、席替えというものに全く良い印象を持っていなかった俺は、話しかけてきた相手に内心うざいと思いながらも顔を上げる。


 見ると、声を掛けてきた子はまるで太陽のように明るく、屈託の無い笑顔をこちらに向けてきていた。その笑顔は悪意も、俺のように嫌な心情も感じさせない純粋な笑顔。


 陰キャの俺に向けるには眩しすぎるその笑顔に、俺はつい顔を背けてしまう。


 「……よろしく」


 「うん、よろしく!」


 嬉しさと喜び。声だけ聞いていてもそれらが分かるくらい声のトーンが高めで返ってきた返事に、俺は意味が分からないとそう思ってしまう。


 何でそんなに嬉しそうなんだ?こんな根暗な俺の隣は嫌じゃないのか?他の奴らみたいに、『最悪の席替えだった』とそうは思わないのか?


 俺の隣の席はハズレの席。今までもこれからもそう思われると思っていた俺には、この子の反応はとても理解し難いものだった。


 「「・・・・」」


 「ね、ねえ、もしかして私が隣で嫌だった?」


 俺がそっぽを向いて黙っていたからだろうか?不安そうな声で聞いてくる。そんな彼女に俺は軽く首を降って否定した。


 「そんなことない」


 「そ、そしたら何でそんな不機嫌そう……なの?」


 違うと言ったのに信じてくれず、更に不安そうな声で聞いてくる。


 このままじゃ泣いてしまうのではないか。そう思える程に震える声でそう言うものだから、俺は一度ため息をついて振り返ったのだった。


 「別に不機嫌じゃないよ」


 そう、不機嫌じゃない。


 むしろ俺の隣の席だということを嫌がらず、逆に喜んでくれたことに嬉しく感じている。だけど、俺は面倒くさい人間なんだ。嬉しく思っても素直に喜べず悪態をついてしまう、そんな男なんだ。


 「ほ、本当に?」


 覗き込むようにして恐る恐る聞いてくる。


 男がやればただ気持ち悪いだけのその仕草だが、女の子がするとすごく可愛く思えてしまうのは一体何故なんだろう。


 そんなことを一瞬思ってしまうが、今はそんなことを考えるよりも目の前の女子を泣かせないことの方が大事だ。


 そう思った俺は怠そうにしていた体を起こし、その女子が抱いている不安をかき消す為に強く頷く。


 「ああ」


 「……そっか、良かった!」


 ようやく俺が嫌がっていないことを確信できたのか、その子は安心したかのように笑顔になった。そして俺の名前を呼ぶ。


 「ねえ、奥崎君」


 「なんだ?」


 「もし奥崎君が困っていたら私が助けてあげるよ!奥崎君って……なんか悩み多そうな見た目してるし」


 は?唐突に何を言い出すんだ?それに何だよ、『悩み多そうな見た目』って。


 「それは失礼だろ。と言うか悩みが多そうなのはそっちの方だと思うけどな」


 言われた言葉が的を得ていたこともあって、つい言い返してしまう。


 「あは、あはははは……そう見えるかな?」


 図星だったのか、その子は冷や汗を額に浮かべながら目を泳がせるが、すぐにやる気に満ちた顔になり、顔の前で拳を作った。


 「た、確かに私は少し頼りないかも知れないけど、もし奥崎君が困っていたら助けるよ!絶対……とは言えないけど、わ、私なりに頑張って助けるから!」


 今までろくに話したことがなく俺がどんな人なのかも知らないのに、それなのに俺のためになろうと拳を握り決意を固め、若干不安さを滲ませながら力説するその姿に俺はつい笑ってしまう。


 「じゃあ、頼むよ」


 「な、何で笑うのさぁ!」


 そんな俺の態度が自分を馬鹿にしたと捉えたのか、少し顔を赤く染めて頬を膨らますと、腰に手を当てる。


 別に馬鹿にして笑った訳じゃない。ただ君が、本当に根っから良い子で優しい子なんだなって思った……だなんてそんなこと本人に言う勇気なんて俺にはない。だから、


 「……笑ってない」


 そう言い、またそっぽを向く。


 「いや、笑ってたって!」


 鋭いツッコミが遅れて飛んできた後、「ムキー!」と現実では発っしないような奇声が聞こえてくる。


 そんな漫画の世界でしか聞けない奇声が現実で、しかも同級生から聞けるんだな。なんて思い、少しだけ口角が上がってしまう。


 今回の席替えは悪くないのかも知れないな。


 俺は高ぶった気持ちを抑える為、一度目を瞑り自分を落ち着かせる。上がった口角が戻ったのを手で確認した後、隣の席の方へと振り返るのだった。

 

 「俺も、俺もあんたが困ってたら助けるよ。まあこんな俺にできることなんてほぼ無いだろうけどな」


 淡々とした口調。


 俺なんかがおこがましい、そんな意味合いから彼女に期待させない為に言葉に感情を乗せずに喋ったのに、その子は俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑う。


 「うん、期待してる」


 その笑顔は、今までの人生で俺に向けられた表情の中で一番温かく、輝きのある表情だった。


 眩しすぎるその表情に見惚れてしまい呆けていると、その子は思い出したように口をへの字に曲げると、人差し指を近づけてきた。


 「あ、それと私は『あんた』じゃなくて、競斗芽井だからね!」


 俺にあんたと呼ばれたのが気に入らなかったらしい。プリプリと怒るその子に、俺は恥ずかしさから目を逸らしながら喋る。


 「……よろしく、競斗さん」


 「うん! よろしく、奥崎君!」

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