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第17話 老婆と謎の少女

 「・・・・」


 一人残された老婆。誰が見ても優しそうな表情をしたおばあちゃん。皆から登美さんと親しまれる彼女は、自分以外誰の姿も見えない道で、一人呟く。


 「あれはどっちもみたいだね」


 少年が曲がっていった角を見つめながら、ため息と共に言葉を吐いたかと思うと、ゆっくり後ろを振り返り、誰もいない筈の場所を見ながら、言葉を続けるのだった。


 「ところで、そこの可愛い可愛いお嬢ちゃん、わしに何か用かな?」


 それは電柱。人一人くらいなら隠れられそうなその柱を、彼女は表情を変えることなく見続ける。


 数秒の静寂。その後、少女らしき人の声と共に一人の女の子が姿を現したのだった。


 「んー?用事ー?おばあちゃんには、ないかな?」


 黄色と白のワンピース。明るいピンク色の髪をなびかせながら、その少女は純真無垢と思わせるような素振りを見せる。


 「ただ、わたしはね?その、最近気になってるお兄ちゃんがいて、お気に入りのお兄ちゃんが、好きなお兄ちゃんがいるの」


 年相応の喋り方。なおかつ、狂気を感じさせるその雰囲気を前にしても、彼女、登美さんの表情は変わらない。


 そんな登美さんに、少女は思い出したかのように捲し立てた。


 「あ!そうだ、聞いてくれる?なんか、わたしのお気に入りのおにいちゃんなのにー、お兄ちゃん、ちょっとわたしが目を離した隙に、女の人と一緒にいたんだよ。たった数日、目を離しただけなのにっ……あの女の人、おばちゃんのくせにずーっと私のお気に入りで遊んじゃって……」


 少女は、最初はふざけた感じで話していたが、最後の方は少し怒気が混ざっており、まるで殺さんとばかりの表情を見せる。


 「あのおばちゃんも……もしさっき、お兄ちゃんと離れなかってなかったら、殺してたかも」


 ふむ……あのおばちゃん。その言葉が誰を指すかはわしは知らないが、あの変わり果てた少年のことだ。普通の人物ではないのだろう。もしかしたら、数日前に店に来たあの女性かも知れないな。


 そう思い、三日前に涼米屋に訪れてきたあの霊媒師を思い浮かべる。自分からしたら、あの霊媒師はまだまだおばちゃんと呼ばれるような見た目はしていないが、少女からしたらそう見えたのかも知れない。


 顎に手を当て、考えていると、自分に殺気を当てられているのに気付き、少女の方を向く。


 「ねえ、お婆ちゃん……お婆ちゃんって、お兄ちゃんのなんなの?」


 「・・・・」


 血走った目で口を歪ましながら聞いてくる少女は、まるで答えを間違ったら殺しにかかって来そうだった。そんな状態の少女にも、登美は変わらぬ態度で接するのだった。


 「わしか?わしはただの駄菓子屋を営んでいる婆さんだよ。ほれ、あんた、駄菓子はいるかい?この駄菓子は最近子供たちにも人気なんだ」


 そう言い、ポケットから駄菓子を一つ取り出す。そんな登美を、少女は警戒するようにじっと見る。


 「…………そうなの? じゃあ、一個貰っちゃおっかなっ?」


 突如、さっきまでの表情とは一変し、笑顔になった少女は、まるでさっきまで怒っていたことが嘘だったかのようにニコニコしながら、登美の手から駄菓子を取り、口に含んだ。


 「ホントだ!美味しいね、これっ!」


 笑顔でそう答える少女に、登美も笑顔で答える。


 「そうだろう?わしも昔から食べてはいるが、美味しくて、幾つになっても飽きないよ」


 その光景は、まるでおばあちゃんとその孫のようにも見える。二人、仲良さそうに笑っていて、誰かがこれを見てたとても癒される光景だろう。


 「お菓子、ありがとっ」


 そう登美に伝えると、駄菓子を食べ終えた少女は少年が走っていた方面へとスキップし始める。


 とても機嫌良さそうに、幸せそうにスキップを始めた少女だが、少し行ったところで足を止め、振り返る。


 「ねえ、お婆ちゃん。わたし、奪われるの大っ嫌いなの。だから、もしお兄ちゃんをわたしから奪ったら、あなたのものぜーんぶ……奪っちゃうかも」


 その表情は笑顔ではなく、無。何を考えているかは全く分からないが…‥一つ、怒気が含んでいることだけは登美には分かった。


 「じゃあね、お婆ちゃん」


 最後に無邪気な笑顔でそう言うと、少女は、少年が曲がっていった曲がり角をスキップして行くのだった。そんな少女を見送った後、登美は疲れたようにため息をつくのだった。


 「はあ、とんだとばっちりだったわい」

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