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第15話 競斗芽井の行方

 「はーい」


 声からして競斗さんの母親だろう。扉の奥から足音と共に声が聞こえ、しばらくするとドアが開いた。


 「はい……って、どちら様でしょうか?」


 競斗さんの母親は、俺と祭持さんを交互に見たのち、誰だ?と言わんばかりに首を傾げる。


 「競斗芽井のクラスメイトの奥崎蓮です。ちょっと競斗さんに用があって来たんですけど」


 競斗芽井のクラスメイト。俺がその言葉を告げると、競斗さんの母親は、なるほどと言わんばかりに頷き、笑顔になった。


 「ああ、芽井の同級生だったのね。わざわざ家まで来てくれたのに申し訳ないけど、今、芽井はうちにいないのよ」


 「そう……ですか」

 

 いない。その言葉を聞いて、少し気持ちが沈んでしまう。競斗さんはまだ帰ってきていないか……まあ、予想の範疇とはいえ、今までの苦労を思い出すと堪えるな。だがまあ、母親なら競斗さんの居場所を知っているだろう……まだ望みはある。


 「ちなみに、どこに行ったとかって、分かります?」


 「どこ……までは分からないのだけれど、『友達の家に遊びに行く』って言ってたわね」


 友達。それが誰なのか分かれば、競斗さんに会える。あともう少しだ。

 

 「その友達って?」


 「ごめんなさいね。そこまでは私も分からないわ」


 そう言うと、競斗さんの母親は首を横に振った。最後の希望だった、競斗さんの母親。『友達の家に行った』ということは分かったが、肝心の『友達』が誰なのか。そこまでは知ることができなかった。


 「そう、ですか」


 これ以上、手掛かりは出てこないだろう。そう結論付けた俺は、「ありがとうございました」とお辞儀をして話を終わろうとした。そんな時、競斗さんの母親は祭持さんを見て不思議そうな顔で聞くのだった。


 「あ、あの……あなたは?見た感じ、高校生?ではないようだけど?」


 ……自分の娘の知り合いには見えないのに、どんな理由でここに来たのか。恐らくは、競斗さんの母親はそれを聞きたいのだろう。なんて答えるべきか……「この人は、あなたの娘さんに取り憑いている霊異者を取り除きに来ました」だなんて、馬鹿正直に言っても信じてもらえない。むしろ不審者に思われてしまうだろう。


 「あ……競斗さんのお母さん、こ、この人は……」

 

 祭持さんのことをなんて説明しようか。喋りながら、必死に頭を回していると、少し後ろにいた祭持さんが突然、俺の肩に腕を回してきた。


 「あぁ、私は……この子のお姉さんですよ? 少しだけ、年の離れた……ね」


 「いぃっ!?」


 急に肩に腕を回されたことと、急な姉弟設定に驚いてしまい、つい変な声が出てしまう。


 そしてそんな俺に、祭持さんは回した腕の方の手で俺の頬にそっと触れてくる。


 祭持さんの一連の動きがエロくて、ほんの少しだけ頬が赤くなってしまう。


 競斗さんの母親は、そんな俺たちに一瞬驚くも、ただ微笑ましく笑うだけだった。


 「姉弟で仲が良いのね。私にも年の離れた姉がいたらしいんだけど、もし生きていたら……あなた達のように仲の良い姉妹だったのかも」


 昔のことを思い出しているのか、遠くを見つめ目を細め始めた。


 「じゃ、じゃあ、俺たちはこれで!」


 どこか思いにふけり始めた競斗さんの母親を見て、これはここから去れるチャンスだと思った俺は肩に回された腕をほどくと、祭持さんの背中を押して急いでその場を離れるのだった。


 「母親も、競斗さんの居場所を知らない……か」


 競斗宅から少し離れたところで俺と祭持さんはこれからどうするかを考えていた……と言っても、もうしらみ潰しに探していくしか方法がないのだけれども。祭持さんも俺と同じ考えだったのか、諦めたようにため息をついて後、呟くのだった。


 「これは……地道に探すしかないようだね」


 「ああ、それしかない……よな」


 いやでも、そうなると時間がかかる上に見つけられるかすらも分からない……まあ、もう既に競斗さんを探し始めてから一時間近く経っている。今更、時間がどうとかはもうどうでもいいか。

 

 だがやはり他にもっと良い方法はないのか……改めてそう考えてみるも、やはり思いつくことはない。そんなことを考えている俺の隣で、祭持さんは仕方ないとばかりに背伸びをし、提案をしてくるのだった。


 「奥崎君、時間が惜しい。私と君、別々で探そうじゃないか」


 「別々?」


 「そうだ。別々で、だ。」


 確かに二人一緒に探すよりも各々で探したほうが見つかる可能性は高くなるし、効率も良い。だが、もし祭持さんではなく、俺が競斗さんを見つけた場合には? 見つけた競斗さんがまだ乗っ取られていない状態の競斗さんならいい。しかし俺が見つけた時、既に霊異者に乗っ取られてしまっていた場合はどうするんだ。人を無理矢理乗っ取ろうとする奴だ。近づいてきた俺に攻撃する可能性は充分ある。と、言うか俺、殺されてしまうのではないか?


 祭持さんはそのところを考慮していないのではないだろうか。そう思った俺は、焦って祭持さんにまくしたてる。


 「別々でって……も、もし俺が競斗さんを見つけたとして、その競斗さんが既に乗っ取られていたらどうするんだよ?一般人の俺には何もできないぞ?と言うか、俺、最悪殺されてしまうだろ」


 「君が、一般人ねぇ……大丈夫だよ、私の電話番号を教えておくからね。競斗さんを見つけたら私に電話してくれ。電話をくれてから、必ず一分で君のところに駆けつけるようにするから」


 「いや、だから」


 「大丈夫。一分……絶対に一分で駆けつけるから」


 「う……」


 電話したら一分で俺の場所に来てくれる……聞こえはいいが、それは俺がどんな危機的状況に陥ってしまったとしても一分は耐えてくれってことじゃないか。


 まあ、一般人の俺でも一分くらいならなんとかできるかもしれない……多分。


 「ホントに一分で来てくれるんだろな?」


 「もちろん。どんなところにいても、君のところに一分で駆けつけるよ」


 「……分かった」


 実のところ、あまり納得はいっていない。だが祭持さんは、どこに居ようと必ず駆けつける。そんな自信に満ちた表情をしていて、俺は渋々という感じだが頷くのだった。そんな俺を見て、祭持さんはニヤリと笑うと、道路の先を指差す。


 「じゃあ、私はこっち方面を探すから、奥崎君、君はそっち方面を探してくれ。くれぐれも……逃がさないでくれよ?」


 『逃がさないでくれ』。その言葉は冗談なのか、はたまた本気で言っているのか。夕日に隠れてしまった祭持さんの表情を読むことのできない俺は、祭持さんの言葉を冗談だと判断し、吐き捨てるようにして一蹴した。


 「俺は一般人だ。逃がさないも何も、殺されないように徹することで精一杯だっての」


 「ふっ、そうかい」

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