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第13話 もう時間は無い

 ご飯を食べ、学校の支度を終えた俺は学校に行き、いつも通り授業を受けた。


 最中、特に何事も起きることもなく平穏な時間を過ごし、午前の授業の終了を告げるチャイムが鳴るのだった。


 チャイムが鳴り終わり、教科書を閉じた俺は、長い間、緊張と硬直で固くなってしまった体をほぐす為に大きく背伸びする。


 はあ、ずっと座学は疲れるな。


 体を伸ばせるだけ伸ばし終えた俺は、チラリと横を見て、唾を飲み込んだ。


 そう、俺は今日、放課後に競斗さんを誘わなければいけないのだ。競斗さんに取り憑いている霊異者を祭持さんに取り除いてもらう為に。


 誰にも気が付かれることなく机の下で拳を握りしめると、俺は意を決して、隣の席の競斗さんに声をかけたのだった。


 「なあ、競斗さん」


 「ん、何?」


 名前を呼ばれた競斗さんは不思議そうに首を傾げ、こちらを見つめてくる。そんな競斗さんの視線と、肩の霊異者の視線から逃れるように、俺は黒板の方を見た。


 「今日の放課後……予定、空いてたりしない?」


 「……え?」


 うわ、なんか言い方がきめえよ。

 

 しくじったと思いながら黒板を見つめ、自分に毒を吐くと俺はゆっくり目を閉じた。


 自分で発しておいてアレだが、なんかマジで気持ち悪い言い方だな……うん。何で言い終えた後に気付いちゃうんだ。そのまま気付かずにいられたのならこの感情を味わうことなんかなかったのにな。


 後悔と羞恥。その二つの感情に襲われ、この場から逃げ出したい気持ちになる。そんな俺を、競斗さんは目をまん丸にして見てくるのだった。


 「ほ、放課後? あ、それって……昨日言っていた、私に一緒に来て欲しい場所があるっていうやつのこと?」


 突然のキザ臭い言葉に驚いたのか、少し動揺している競斗さん。


 「ああ、そうだよ」


 どうやら競斗さんは帰り際に言っていた俺の言葉を覚えてくれていたらしい。俺は頷くと、競斗さんの方、正確には競斗さんの目から視線を逸らさないようにして、手の平を合わせた。

 

 「お願いだ! 今日の放課後、俺と一緒に来てくれないか?」


 「あー、えー……うーん」


 ……何やら渋っている。俺の言葉を聞いて、目線をキョロキョロとさせては口元に指を添えて困っている。……まあ、予想していた反応ではある。俺は、友達が限りなく少ない陰キャだからな。クラスにあまり馴染むことができなくて、教室で大人しく椅子に座っているだけの陰キャ。そんな俺と放課後どこかに行くのは抵抗があるだろう。うん、自分で言ってて悲しくなるな……うん。


 だけれども、一緒に来てもらわないと競斗さんと俺の命が危ない。少し惨めな気持ちになったくらい、自分達の命が助かると考えれば、た、大したこと……は、ない。


 「頼む、一回だけでいいんだ! 今日の放課後だけ、俺と一緒に来てくれないか!?」


 頼むよ! 競斗さんと俺の命が懸かってるんだ!


 そんな俺の祈りも虚しく、競斗さんは深く頭を下げ、手のひらを合わせる。


 「ごめんね、きょ、今日も友達に誘われてるんだ」


 どうやらもう先着がいるらしい。今日の午前中に誘われたのか、はたまた昨日の放課後か。どのみち今日は一緒に来てくれないと思った俺は、祭持さんから聞いて欲しいと言われていたことを聞くことにした。


 「じゃ、じゃあさ! 最近身の回りで何か変なこととか起きてないか? 些細なことでもいい、あれば教えて欲しいんだ」


 「・・・・」


 その言葉を聞いて、何やら心覚えがあるようだ。競斗さんは何やら暗い顔をして俯いている。そして数秒間を空けて、重い口を開くのだった。


 「私ね……最近、同じ夢を見るの」


 「同じ……夢?」


 「そう、長い廊下をひたすら走り続ける夢。暗くて狭い廊下を、私は何かに追われる恐怖に襲われながら走る夢。そんな恐怖に駆られて長い時間走っていると、小さい女の子がいて……その子の近くに寄ると、横から何か大きな物が私とその女にぶつかって目を覚ますの。いつもちょっとずつ違うけど、ほぼ同じ内容の夢。しかも昨日は…………」


 そこまで言って言葉が途切れる。腕を抱えるように自分の体を抱きしめ、ほんの少し震えてる。


 そんな競斗さんの姿を見て、その続きが気になり問うが、競斗さんに濁されるのだった。


 「昨日は?」


 「う、ううん。なんでもないよ」


 「「・・・・」」


 二人の間に微妙な空気が流れる。そんな気まずい空気を誤魔化すように、競斗さんは明るい声で言うのだった。


 「だ、大丈夫だよ!夢、そう!ただの夢だから!あ、明日はちゃんと予定空けとくからね!じゃあ私、ご飯食べてくる!」


 「あ、ああ」


 そう言うと、勢い良く席を立ち、風のように教室を立ち去ってしまう。そんな競斗さんを、俺はただただ見ていることしかできなかった。

 

 一連の動きが速すぎて、何も反応できなかったな。


 競斗さんが出て行った扉を見つめ、ため息を溢すのだった。




 「君はまた断られたのか」


 その日の放課後。昨日に引き続き、祭持さんの家に来た俺に、祭持さんが開口一番に言い放つ。またかと言わんばかりに気だるそうにする祭持さんに、俺は睨みを利かせた。


 「うるせえ。明日は一緒に来てくれるって言ってくれたわ」


 ……今日は連れて来れなかったけど、明日は一緒に行くと、約束を取りつけることには成功している。今日は断られてしまったけれど、明日は必ず来てくれるだろう。

 

 「それで?競斗くんを連れては来れなかったけど、何か聞けたからここに来たってことでいいのかい?」


 灰色の手袋がずれていたのだろうか?祭持さんは手袋を嵌め直しながら聞いてくる。


 「ああ。競斗さんはどうやら、ここ最近同じ夢を見ているらしいんだ」


 「夢……ね」


 そう呟くと、思案するような素振りをし、祭持さんは俺を見つめて言うのだった。


 「それはどんな夢なんだい?」




 『迷いの館』その館にある一部屋で、俺はソファに深く座っている祭持さんに今日、競斗さんから聞いた話を説明し始める。


 「俺が聞いた話だと、長い廊下をひたすら走り続ける夢らしい。走り続けている途中で少女がいて、二人共、横から飛び出してきた何かにぶつかって、そこで目が覚めるらしいんだ」


 「……ふむ」


 「毎回、若干の違いがあるものの、その夢の内容はほぼ同じだって言ってたな」


 「なるほどね……他には、何か言ってなかったかい?」


 「他には……言ってなかったけど、そういえば最後に『昨日は……』って濁していたな。ひどく怯える仕草もしていたし、もしかしたら昨日、いつもと違う何かがあったのかも知れない」


 「へぇ……昨日ね」


 目を伏せそう言う祭持さんは、何か意味あり気な表情を見せる。何か、競斗さんに深刻なことが起こっているのだろうか……それは恐らく……。


 「奥崎君。競斗くんに残された時間は、どうやら私たちが思っている以上に短いのかも知れない。明日、いや、下手したら今夜にはもう、競斗芽井という人格は消えてしまうだろう」


 やはり、競斗さんの今の状況は非常に不味いらしい。祭持さんは真剣な眼差しで俺を見つめ、言葉を続けた。


 「夢を見ると言うのは、ほぼ準備が整っている状態なんだ……濁した出来事は、おおかた朝起きたらベッドじゃないどこかに自分がいた、というものだろう」


 自分の意思と関係なく体が動いている……つまり、もう乗っ取られてしまっていると言うことなのか?いや、それだったら辻褄が合わない。俺が会った競斗さんは、競斗さんだったからな……と、言うことは乗っ取られかけているという解釈でいいのだろうか?あるいはもう、いつ完全に乗っ取られてしまってもおかしくない状況に、競斗さんが陥ってしまっている……ということか。


 今になってようやく、現状の深刻さに気が付いた俺は、無理矢理にでも連れてこれば良かった……だなんてことを思い、連れてこなかったことを悔やむ。


 苦虫を潰したような顔をしていると、祭持さんはゆっくりとソファから腰を上げ、俺を指差したのだった。


 「さて、奥崎君。今から競斗くんの家に行くよ。競斗芽井の家はどこなんだい?」


 「どこって……俺、住所なんか知らないぞ?」


 「…………はぁ」


 いや、ただのクラスメイトなんだから、知らないに決まっているだろ。

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