第11話 取り憑く霊異者とは
「今回の霊異者の目的はまだ分からないが、その目的の為には取り憑くことが必要だったのだろう。力の弱い霊異者が現実に干渉できることはごく僅かだからね」
……ほう、祭持さんには、今回の霊異者は弱い認定なのか。でも祭持さん基準だから油断はできないんだけどな。
「弱い霊異者ね……」
祭持さんの言う弱い霊異者というものに半信半疑な俺は、つい無意識にボソッと言ってしまった。その言葉を聞いていた祭持さんは頷く。
「ああ、今回のは弱い霊異者の類いだよ。力が強い霊異者はわざわざ人に取り憑いたりする必要はないからね。いるとしたらそれは物好きか、頭のおかしい奴だけだろう」
なるほどね。競斗さんに取り憑いている霊異者は自分で目的を達成させれる程の力がない。でも取り憑くことで目的を達成できる、または目的に近づけるから一つの方法として、競斗さんに取り憑いたということなのか。
「競斗さんに取り憑いた理由はなんとなく分かった。だったら霊異者が人に取り憑いた後、その後、競斗さんはどうなるんだ?」
そう、問題はそれだ。今の祭持さんとの会話で、競斗さんに取り憑いているのは弱い霊異者だと言うことは分かった。だったら霊異者が取り憑いて、行き着く結果はなんなのか。鬱になるのか、はたまた取り除かないと体が重くなるのか。もしくは不幸なことが起きやすくなるのだろうか? まあ、弱い霊異者なのだから競斗さんが死ぬことはまず無いのだろう。
そんな楽観的に考えていた俺だが、祭持さんから返ってきた返事は、俺の予想を大きく裏切る言葉だった。
「結論から言おう。競斗芽井は死ぬ。正確には競斗芽井の精神体は消滅してしまうんだ」
「なっ!?」
俺は驚きのあまり、目を見開いてしまう。
死ぬだなんて……確かに、祭持さんの話を聞く前は競斗さんの命が危ないかもしれないとは考えていたが、さっき聞いた話では、弱い霊異者の力は人に触れれるかどうかくらいだと言っていた。だからもっと軽い、それこそ日常生活に支障がきたすかきたさないかくらいの影響じゃないのか!?
「今回のは、祭持さん自身が弱い霊異者って言っていただろ。強い霊異者は人を殺すかもしれないけど、弱い霊異者なんだから人を殺せるくらいの力を持っていない筈だろ?」
そう……祭持さん自身が言っていたんだ。今回の霊異者は弱い部類だと。そんな弱い部類の霊異者なのに人を殺せるだなんてどうやって……
「まあ、落ち着けよ奥崎君。まだ君の聞きたいことについて答えてないだろう? 順番に行こうじゃないか」
動揺する俺に、祭持さんは極めて冷静にそう言う。
聞きたいこと?もう俺の聞きたいことは聞いた筈だが。
祭持さんは何を言っているのだろうと、首を傾げていると、祭持さんは仕切り直しと言わんばかりに手を叩き、部屋に乾いた音が響き渡った。
「……じゃあ話を戻すけど、君が知りたがっている取り憑く霊異者について教えよう」
『取り憑く霊異者について』、その言葉を聞き、俺はまだ祭持さんが、霊異者の力の話だけで、取り憑いた霊異者のことについてはまだ言っていないことに気が付いた。
そうだ……俺はまだ今回の霊異者、取り憑く霊異者の特徴を教えてもらっていない。
「まず、霊異者が人に取り憑く理由は対象の体の主導権を奪うこと。つまり体を乗っ取る為だ」
祭持さんはゆっくりと手を動かし、人差し指を胸元……谷間の少し上に添える。
……ゴクリ。
「霊異者は、人に取り憑くことによって内側に入り込み、その後、ある程度の力を使うことによって体を奪うことができる。そのある程度の力っていうのが、結構強い力なんだけど……まあ、どのくらいかって言うと触れずに人一人を殺せるくらいって言えば伝わるかな?」
いや、伝わらないだろ。
そう思った俺だが、指摘すると話が長くなりそうと思った為、黙っておく。
祭持さんは、胸元に添えた人差し指をゆっくり、ものすごくゆっくりと下に動かした。その仕草に俺の目は釘付けになってしまい、チラリとこちらを見る祭持さんに気づくことはない。
そんな俺をクスリと笑い、胸元に置いていた指をパッと離すと、祭持さんは言葉を続けるのだった。
「『主導権を奪う』には相当の力が必要になってくるんだけど、『人に取り憑くこと自体』にはあまり力は必要じゃないんだ。それこそ、人に少し触れれる程度の力があればできる。今回の霊異者もそのくらいの力を持っている霊異者の筈だ」
「な、なるほど」
「でも、なんで取り憑くことしかできない、体を乗っ取る力がないのに取り憑くのか……取り憑いたところで体を奪えるほどの力が無ければ意味がないんじゃないのか……と、そう思うだろうけど、意味はあるんだ。それはね、取り憑いた対象の想いで自分の力を増幅できるからなんだよ」
祭持さんはソファから起き、ゆっくりと俺に近づくと、肩に手を添えた。
俺は、祭持さんの突然の行動に驚くものの、動揺しているのを悟られないように必死に隠す。そんな俺の身長に合わせるように、祭持さんはかがみ込み、耳元で囁くのだった。
「憎しみや悲しみ、喜びや幸せ。日常的に湧き上がる感情を、取り憑いた霊異者が自分の力に変えていくんだ……ゆっくりと、時間をかけてね」
祭持さんはそう言い終えると、俺の肩から手を離し、再びソファに戻っていく。
「そうして対象の中で蓄えていった力を使って体を乗っ取る。これが力の弱い霊異者でも体を奪える理由なんだ」
「・・・・」
「そして一度体を奪われたら終わり……精神が呑まれて消滅してしまう。仮に霊異者をその体から引き離せたとしても消滅した精神が戻ることはない。その人は心のない状態、植物状態になってしまうんだ、分かったかい?」
「・・・・」
「……分かったかい、奥崎君?」
「っ! ぁ、ああ」
な、なるほど、弱い霊異者でも人を殺せるというのはそういうことだったのか。取り憑いた対象の想い、いや感情を自分の力へと変えれる。だから力のない霊異者でも人を殺せると。じゃあ、その力を溜め込む期間はどれくらいなんだ?
「祭持さん、取り憑いてから力を十分に貯め終えるまでの期間はどれくらいなんだ?」
「んー、霊異者や取り憑く対象の取り巻く環境や性格によって変わるけど、大体三週間くらいかな」
三週間。思ったより長い……いや、短いのか?
「まあ、でも今回の対象者、競斗君がいつ取り憑かれたのか分からないから、なるべく急いだ方がいい」
それはそうだ。俺は競斗さんに取り憑いた霊異者がいつから取り憑いているのかを知らない。もしかしたら三日前とかかも知れないし、二週間前かも知れない。
これは早くしないとな。
そう決意をし、拳を強く握る。よし、聞きたいことは聞けた。もうここにいる必要はない。そう思った俺は、祭持さんに「ありがとう」と告げると、扉の方へと向かう。そんな俺に、祭持さんは忠告するかのように言うのだった。
「……取り憑いた霊異者は、最初のうちは目に見えて変化することはない。取り憑かれた人間の中で、力が溜め込むからね。そして十二分に力を溜め終えた霊異者が力を解放した時に、霊異者の姿が一変する。だから奥崎君、覚えておくといい。もし霊異者、いやその子に明らかな変化が訪れてしまった時はもう手遅れだと言うこと……ね」
「……分かったよ」
「連れてこれなくても、せめて最近何か変なことが起こってないかくらいは聞いといてくれよ?頼んだよ、私の助手君?」
「……分かりましたよ」
『助手君』。その言葉を聞いて、祭持さんの助手になったことを思い出すのだった。
そうだった。俺は祭持さんの助手になったんだったな。




