第10話 霊異者とは何か
「で、君はそのまま私の元に来たと」
学校帰り。そのまま直で迷いの館へと足を運んだ俺は、祭持さんにまた例の部屋へと招かれた。それから俺は、今日の競斗さんとのやり取りを話し、それを聞いた祭持さんは競斗さんを連れて来れなかった俺に呆れたのか、大きくため息をついたのだった。
「はぁ……一回女の子に断られたからって、そんなにしょげるなよ、ダサいぞ少年」
……おい、ため息をついたのは連れて来れなかったからじゃなくて、俺の惨めさでかよ。
「いやいや、全然しょげてない。これっぽっちもしょげてないからな」
少しムキになりながらも返すと、祭持さんはやれやれと首を振った。
「おいおい、見栄を張っていたらモブに見えるからやめた方がいい。ただでさえ冴えないのだからね」
……ここに来なければよかったか? あのまま家に帰ってゲームでもしとけばよかった。
手をひらひらと泳がせる祭持さんに恨みが少々込もった視線を送るが、それを気にすることなく祭持さんは背伸びをし始める。
「んんー…………まあ、君がそんな簡単に女の子を放課後デートに誘えるとは思ってなかったから、そんなに落胆しなくていいよ」
まるで俺のことを知っているような口ぶりでそう言う祭持さんに、俺は少しイラッとしながらも否定する。
「違う、デートじゃない。霊異者を取り除く為だ」
霊異者を取り除く為に放課後一緒にいるのがデートだったら、今こうして祭持さんの家に上がらせてもらっている状況はどうなるんだ? うち……お家デートって奴になってしまうじゃないか。
一人、アホみたいな考えを巡らせていると、祭持さんから異様な雰囲気が発せられているのに気づき、俺の意識は現実に戻される。
「……そうだね、霊異者を取り除くことだ。そしてそれは早ければ早い方がいい……それは君も分かっているだろう?」
俺が変なことを妄想したからだろうか……それとも、競斗さんを連れて来れなかった俺に催促しているのか……恐らく後者だろう。今の祭持さんの目は鋭く、圧を感じる。そんな、今まで会った誰からも感じなかった類いのプレッシャーに、俺はつい怖気付いてしまい、黙ってしまう。
「・・・・」
「あー、別に君を責めてる訳じゃないんだ。ただ私はなるべく早くしてくれたら助かるなーなんて自分勝手にそう言ってるだけなんだ、な?」
祭持さんは早口で喋り、動揺からなのかあたふたと焦り始めた。恐らく、俺が黙ったのは祭持さんの言葉で落ち込んだからとか思っているのだろう。
……俺は別に落ち込んで俯いている訳じゃなく、突然の祭持さんの圧につい黙ってしまっただけなんだけどな。
「分かってる。なるべく早く競斗さんを連れてくるよ」
祭持さんの言葉に俺は頷いた。そして祭持さんに聞きたいことがある為、問いかける。
「ところで祭持さん」
「ん? なんだい?」
俺の問いかけに、目だけを動かしこちらを見てくる。
「今回の霊異者のような、人に取り憑く霊異者のことについて教えて欲しいんだ」
そう、俺が聞きたいことは取り憑いている霊異者についてだ。
まだ俺は霊異者についてほぼ知らない。今回の競斗さんに取り憑いている霊異者を取り除かなければどんなことが起きるかも、それ以前にそもそも霊異者が取り憑くには何か条件とかがあるのかもしれないとかも。
俺は、霊異者は普通の人には見えないと言うことと、霊異者の簡単な……恐らく、基礎的な対策方法しか知らないのだ。
「嫌でも学校生活の大半を、霊異者に取り憑かれている人の隣で過ごさなきゃいけないんだ。もしかしたら、俺の命が危ない場面になるかも知れない。その時に、ある程度の情報を持っていたら上手く立ち回れるかも知れないんだ。だから、それくらいの情報を教えてくれたっていいだろ?」
昨日から感じていたが、祭持さんは俺に最低限の情報しかくれない。昨日は、俺が現状置かれている状況に必要な情報はくれたが、それ以上の情報はくれなかった……と言うか、これは俺の勘だが、部分的に隠してる、または誤魔化している節まであると思う。
まあ、俺は昨日までただの一般人だったから霊異関連の情報を最低限しかくれないのはまあ当たり前だと思う。けど今回は違う。俺はもう霊異関係に体を半分突っ込んでいて、競斗さんのことも、当事者……とはいかずとも関係者ではある。それに俺の命が脅かされる可能性も出ている。
そんな俺の言葉で、祭持さんは俺が知る必要があると判断してくれたのだろうか、口元に手を置き、数秒考え込むと口を開いた。
「そうだね、そうしよう……と、その前に霊異者の力について教えようじゃないか」
霊異者の力……その言葉を聞いてつい身構えてしまう。そんな俺を見て、祭持さんはニヤリと口角を上げて頬杖をついた。
「奥崎君。君も知っての通り、霊異者は生前の死ぬ寸前で抱いた想いが強いと霊異者になってしまう。その想いは憎しみか、或いは嬉しさなのかは霊異者次第だが、その想いの強さで霊異者としての強さ……現実への干渉力が決まるんだ。そしてその強さは基本的にはその後も変化することはない」
なるほど。霊異者として生まれた時点で、その個体の強さは決定してしまうのか。そして、その強さは死ぬ寸前で抱いた想いの強さによって左右されると。
「霊異者として力が弱いと分類される者は、程度にもよるが基本的には現実世界の何にも触れることができない。人にも物にも、それこそ空気にもね。ただそういう弱い霊異者達は、霊異者として存在しているけど普通の人からすれば存在しない者扱いになる」
それこそ、昨日の霊異者みたいにね? と付け加え、俺にウインクをする。そんな祭持さんの仕草にドキッとしながらも、昨日のカラスが祭持さんの言う『弱い者』の分類だと言う事実に苦笑いを零してしまう。
昨日のカラスの霊異者は俺以外に触ることが出来ていなかった。俺は霊異者が見えるから一般人ではない。だから触れられたのだろうけど、それ以外には何にも触れることのできない弱い霊異者だったのだろう。あのカラスの霊異者は何にも触れることのできない弱い霊異者……あんな化け物より力の強い奴らがうじゃうじゃ居るとか考えたくもないな。
突きつけられた容赦ない現実に軽く絶望していると、そんな俺の表情を読み取ったのか、祭持さんはさっきよりも口角を上げ、悪巧みでもしているかのような悪い笑みで言葉を続けた。
「だけど霊異者としての力が強い者は違う。人に触れれるし、物を動かすこともできる。風を作り出すこともできるし、普通の人に自分を視認させることもできる。稀に非科学的な力を使える霊異者もいる。そういう霊異者達は……人を殺すことだって簡単に出来ちゃうんだ」
殺す……ね。恐らくだけど、俺が知らないだけで世界では霊異者による事件は数多くあるのだろう。
「まあ、君の話を聞いた限りでは、今回の霊異者は恐らく、人には姿を見せれないが少し物体に触れることのできるくらいの力を持った霊異者だろう」
……そんな曖昧な表現で今回の霊異者の強さを教られても、昨日の霊異者としか対峙していない俺にはあまり実感が湧かないが?まあ、少なくとも昨日のカラスの霊異者より強いことは絶対だと言うことはよく理解した……いや、俺、殺されてしまうのでは?
そんな不安に駆られ、死にたくない!と、目で訴えかけようと祭持さんの表情を見ると、なんだか意味ありげな悲しそうな表情をしているのに気が付いた。どこか遠い、知り合いを見る目をしている。
「霊異者は、自分が霊異者となってしまった想いを晴らす為に動く……殺された恨みで霊異者になったのならば、特定の人、或いは無差別に人を殺そうと動く者もいるし、家族に見守られて幸せの気持ちで霊異者になった者は、家族を守る為、家族の幸せの為に動く」
この話は、実体験なのだろうか……祭持さんが今まで遭遇してきた霊異者の中にいた者達の話なのだろうか?
祭持さんは遠くを見るようにして話していたが、数秒目を瞑ると、さっきまでと同じように喋り始めるのだった。




