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第8話 未来に思いを馳せる者たち



現在、俺と上月(そいつ)は指定された空き教室にいる。


「少し遅かったわね。何かあったの?」


訝しんだ様子で俺に問いかける。


「ごめん、ちょっと頼み事を頼まれて」


「ふーん、まあいいわ」


良いのか……絶対に何か詰められると思ったんだけど。


「それで、結局何で俺をここに呼び出したんだ?」


「……そうね、まずはあなたに聞きたいことがあるの」


なんだこいつこれ以上引き伸ばす気か? 連載ギリギリの漫画くらい引き伸ばすじゃん。

引き伸ばしすぎるとどんな作品も飽きられるんだぞ。


「……何だ?」


「あなた、4時間目のことは覚えているわよね」


「あーめっちゃお前のこと煽ったやつな……まさか、やっぱり許さないとか言うつもりか?」


「……見方によっては、そうとも言えるかもしれないわね」


そいつは釈然としない言い方をする。

さっきから曖昧な事しか言わないなこいつ……


「さっさと結論を言ってくれないか?」


「……確か私が何でも言う事を聞くと言ったわよね」


「言ってたな……でもあれは無効なんじゃなかったか?」


確か俺がいじりすぎたから無効になった気が……


「そんなこと一回も言ってないわよ」


「あれ?そうだっけ」


俺は少し記憶を遡ってみる。

……言ってはないな、うん一回も言われてない。

頭の中で考えたことが現実に起こってるものだと勘違いすることってあるよね。

……というか、


「じゃあ俺が何か命令しても良いのか?」


「……あなた、5時間目私に謝って来たわよね」


「そうだが……まじで何が言いたいんだ?」


さっきから話が見えてこない。これあれだ、目の前に餌がある状態でお預けを食らってる感覚だ。

かなりムズムズする。


「あのまま全て無かったことにするのは不公平だと思わない?」


「……というと?」


「あなたに好きなようにされたままというのは、割に合わないのよ」


「……あーなるほどそういう事か」


ようやく話が見えてきた。


「お互いに命令する権利を得るというのはどうかしら」


つまりこういうことだろう。

こいつは俺に弄られたまま終わるのが嫌だから、自分にも命令権を与えろ、そう言いたいのだ。


「……最初からそれを言え。絶対その前の下り要らなかっただろ」


「っ……仕方ないでしょ!」


「何がだよ!ただ言うだけだろうが!」


「…………とにかく! それで良いわよね?」


こいつ……無理矢理ごり押しやがった!


「……俺は別に良いけど、お前こそ良いのか? 俺がお前に何か命令できるということになるんだぞ」


「望むところよ、私はもうあなたに命令することは決めているから、あなたも今週の日曜日までには決めてしまいなさい」


「日曜日までに?」


何でわざわざ日曜日に……まさか休日に会おうとか言わないだろうなこいつ。


「……」


そいつは一度沈黙する。え、ないよな? 俺の大事な休日を、こいつと過ごすとか絶対嫌なんだが。


「先に言っておくが、その日に会おうとか言われても絶対に行かないからな」


「……あなたがどう言おうと構わないけれど、残念ながらあなたに拒否権は無いわ」


「……どういうことだ?」


「実は、ここにあなたを呼び出した理由はもう一つあるの」


「……」


なんだろう……ものすごく嫌な予感がする。

俺の危機察知センサーが今すぐ逃げろと警鐘を鳴らしているんだが。

俺が沈黙しているとそいつはその口を開く。


「あなたに、正確に言えばあなたと私に『工藤(くどう)先輩』から休日に会わないかと誘われたのよ」


「…………え、それガチで言ってる?」


「本当よ。今日偶然先輩に会ったときに言われたの」


工藤先輩。この学校の生徒会長であり、この学校に在籍する生徒なら知らない人はいない程の有名人である。

普通の学校に置いて、生徒会というのは基本的に地味であり、漫画やアニメで見るような『華』は本来存在しないし、生徒会長だからって学校中にその名が轟く訳でもない。

しかし何を夢見たのか、この工藤先輩という人はそれをこの高校で実現しようとしたらしく、その上大成功を収めたという逸話だ。


具体的に何をしたのかまでは知らないが、今の生徒会は学校の権力の大部分を握っており、その構成員も美男美女揃いだとか。


生徒会がこんなことになっているので、俺らの学年では生徒会に入ろうと躍起になっている奴らが数十人単位でいる。

人数が多すぎるため、去年から最初は生徒会が面接を行いそれを通過したものだけが、選挙に参加できるという仕組みに変わった。

そのため去年行われた生徒会選挙でも、今までに類を見ないほどの盛り上がりを見せていたらしいので、工藤先輩が生徒会長である今年は、もはやどうなるのか予想ができない。


一端の生徒である俺らに対して生徒会長直々に誘いが届くというのは非常に稀であり、普通の人間は泣き叫びながら喜ぶところかもしれないが……


「丁重にお断りすれば何とかならない?」


「これからの学校生活を棒に振る覚悟があるなら、勝手にどうぞ」


そうですよねー。

あの人、自分が手に入れたいものはどんな方法を使っても手に入れる人だからな、仮に断ったら何をされるか分かったもんじゃない。

だからこそ面倒くさいのだ。


工藤先輩に誘われたと言えば聞こえは言いが、実際はただの命令なのである。


「はあぁぁぁぁあ」


俺はおそらく今年一番であろうため息をつく。


「……良かったわね、多分殆どの生徒がこれを聞いたら羨ましがると思うわよ。あなたも喜んだら?」


「誰が喜ぶかばーか。あの人と休日に話すとか何の罰ゲームだよ」


しかもこの罰ゲーム、いつ来るか分からないし防ぎようがないんだよな……これもうただの天災だろ。


「それと、これから私からあなたに連絡を回すよう頼まれたの」


目の前のそいつは仕方なさそうに言う。


「……ごめん、ちょっと何言ってるか分からない。日本語で言ってくれ」


「連絡先を交換しましょう」


「……ごめん今からスマホ粉々にする予定あるから無理かも──────」

「連絡先を交換しましょう」


「いやだからむ「連絡先を交換しましょう」」


「…………はい」


本当何なんだよ今日。

今日のこいつ、まじで様子がおかしいんだけど……いつもの冷静な毒舌さは何処へやら、今日のこいつは勢いでごり押す脳筋スタイルにジョブチェンジしているようだ。

俺は別人説を提唱したい。


スマホを出したそいつが、早くしろと目線を送ってきているので、俺も仕方なく重い手を動かしてスマホを取り出す。

そうして互いに連絡先を交換し合う。

……こいつのアイコン猫か、一周まわって予想通りかもしれない。

なんとなくだけど、何か裏で猫を愛でてそう。

ほら、猫の動画を見て顔を綻ばせる姿が簡単に想像──────あー明日の晩御飯何が良いかなあー。


目の前のそいつは、殺気を漂わせながら俺を睨んでいた。

こっわ。

……時々思うんだけど、こいつ俺の心の中に盗聴器でも付けてんじゃないのか?


「連絡先も交換できたし、取り敢えず今日のところは解散で良いかしらね」


「オーケーじゃあ俺は帰るまたな」


解放宣言がされたので、俺はそいつに何か言われる前に速攻で帰ろうとする。


「待ちなさい」


そいつは俺の肩をガシッと掴む。

どうやらまだサービス残業をしなければいけないらしい。 何だよサービスって、お前らはお客様じゃねえんだぞ金払えや。


「なに? 俺これから一刻も早く帰って、これから始まるドラマを見なきゃいけないんだけど」


「あなたドラマ見ないでしょ」


「……最近見始めたんだよね」


「へえ、何て名前のドラマなの?」


「恋人を捨てて弟と付き合い始めた」


「何その問題しかなさそうなドラマ……取り敢えず暇なのは分かったわ」


見破られただと……この多様性の塊みたいなタイトルのどこに問題があったと言うんだ。


「……それで何の用だ?」


俺は両手を上げ降参のポーズをとって、急かすようにそいつに尋ねる。


「金曜日の放課後に作戦会議をするわ」


「直接会ってか?」


「……ええ、メールだと伝わりにくいこともあるから直接会って話した方が良いでしょう?」


「ふーん、まあ分かった。それについてはまた後で連絡してくれ」


早く帰りたくなってきた俺は、取り敢えず適当に相槌を打つ。

後のことはその時の俺に任せようの精神である。決して面倒事を先延ばししている訳では無い。


俺の言葉を聞いたそいつは、心なしかホッとした顔をする。


「そうね、じゃあまた明日会いましょう」


「ん、またな」


俺は軽い挨拶をしてその場を後にする。どうやらこいつはまだこの教室に残るようだ。

最後に教室をチラリと見ると、胸に手を当てている隣人の姿が見えたが、俺はすぐに視線を戻して廊下を歩き始める。


「今日は本当に色々あったなあ」


数学の時間に始まり、この放課後の密会。

人生で起こるイベントはもう使い切ったと思ったんだけど、どうやらイベントとは無限に湧いてくるものらしい。


これからどうなるのだろうか。

正直もうこのまま平和に終わる気がしないが、これ以上イベントが増えないことを祈るばかりである。


俺はこれから来る未来に大きな不安を抱えながら、誰もいない廊下を歩くのだった。



──────同時刻、無人の教室で一人喜びに明け暮れている者がいた。


「ふんふふーん♪」


まさか高城(あいつ)と連絡先を交換することになるとはね……まあ、あの生徒会長にどうしても仲介役をして欲しいと頼まれちゃったから仕方なく、本当に仕方なくだけどね!


それにしても、あいつ何で毎回あんなに反応が面白いのかしら……今夜スタンプでも大量に送り付けてやろうっと。



──────彼女はいつものクールさを微塵も感じさせない様子で、上機嫌に鼻歌を歌いながら教室の机や椅子を綺麗に並べていた。

元来彼女は感情表現が豊かな人間なのだ。



「しかも二人で会う約束まで立てちゃった。真面目な話をするためだけど、まああいつで遊ぶ機会はたくさんあるわよね。それに……」


あいつに一度だけ、何でも命令できる権利。

元々あいつに対して申し訳ない事をしたから、自分に何でも命令して良いと言い始めたものだ。

だけど、あいつが執拗に煽ってきたから無効になりそうになった。

そのまま終わるのは味気ないと思い、そこで私はあいつに対して命令する権利を得ることを思いついた。

多少強引になっちゃったけど……何とかこれを手に入れられた。


「何を命令しようかなー」


この案を思いついたときにいろんな命令を考えたが、魅力的なものが多すぎて決められずにいる。


「あいつをいじめる目的で使うのも良いけど……」


どうせなら普段は絶対にできないことをしたい。

まあ、あと1週間あるからじっくり考えよう。


これからが楽しみだなあ。

私は未来に期待を寄せるのだった。




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