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第4話 やり過ぎ注意



あ〜楽しかった。

4時間目の物理が終わる。俺は今まで言われてきた小言の分を全て返すかのように、隣の住人をいじめ倒した。

ちなみに物理もペアワークがなく、俺の好きな授業3位に入っている。歴史との差は授業の質である。

この人頭頂部だけが禿げているのが特徴な、ご高齢の先生なんだが、ボケてるのか同じこと何回も言うんだよな……。

基本話してるだけだから過ごしやすくはあるんだが、授業を聞いている人は殆どいないほどには、授業自体の面白さは全くない。

この人は騒がしくても気にしないタイプの先生であり、授業中はときどき、陽キャたちが普通に話してたりする。


「結局何やるか決まらなかったなー」


「……あなたに決める気があったとは思えなかったけど」


「気のせいだよ?俺めっちゃ決める気あったよ?」


ないです。ただ反応を見て遊んでました。

……だって面白いんだもん。俺が『逆立ちで帰らせるか』って呟いたら、横で驚くほど絶望に満ちた表情をしているもんだから、なんか止められなくなったよね。

正直途中で可哀想に思えて、止めることも検討したが、よく考えたらこいつが言い出したことだし、そもそもその時点で俺の口はブレーキが効かなくなっていた。

今なら交通事故を起こした人が『ブレーキが効かなかったんだ』という供述をする気持ちが分かる気がする。


「……はぁ」


そいつはため息をついて席を立ち、教室を出ていった。

まあ流石にやり過ぎたから、後で謝ろう。

これであいつに対する命令権が無くなってしまうが仕方ない。どうしても止められなかったんです……


「お前えげつないな」


そう言って、瞬は俺に話しかけてくる。


「まあ、やりすぎたとは思ってる」


「あの上月が涙目になってたもんな。男子が密かにお前のこと拝んでたぞ」


「やべえ奴らだな」


「お前が言うな」


「何を言っている、俺はちょっと意地悪をし過ぎただけだ」


「あの上月をあそこまで弄べるのもお前くらいだろ。やっぱり……」

「断固反対」


「……まだなんも言ってねえじゃん」


「お前の考えてることなんて手に取るように分かるからな。どうせ『やっぱお似合いだろお前ら付き合っちゃえよ』とか言うつもりだったろ?」


「でもお前ら相性バッチリじゃん」


瞬はいつも恋バナするときと同じように、顔を近づけて周りに聞こえないように囁く。

俺も同じように囁き声で、


「は?お前、一回転生して眼科行ってこいよ」


「なんで一回殺すんだよ……というか、お前がその気じゃなくても、上月さんはお前といる時が一番感情表現が豊かに見えるぞ」


「そうかあ?」


俺は一度思い返してみる。……確かに俺に小言を言うとき、いつも少し笑ってたような気がする。

だとしたら、俺を馬鹿にして笑ってるんじゃないだろうか。『こんなこともできないの?』というあいつの声が聞こえてくる。


「確かによく笑ってたかもな、俺を馬鹿にして」


「相変わらず変なときにネガティブな奴だなあ」


「俺は至って正常だが?」


別に普通に考えた結果だと思うが。

まあ、自分のことは自分じゃよく分からないとも言うし、他の人からも同じようなことを言われた記憶があるので、きっと瞬が正しいのだろう。

これでもポジティブを心掛けてるつもりなんだけど……


「よく言うぜ、さっきあのアイドル様をいじめてたくせに」


「……というか、お似合い度で言えばお前の方が高いんじゃないか?」


「俺と上月が?なんでまた」


「どっちも学校が誇る美男美女で中身以外は完璧。これ以上無いほど共通点に溢れてるじゃないか」


「中身以外は余計だっつうの……俺と上月は合わねえよ」


「なんでそう思うんだ?共通点も多いのに」


「……共通点のあるなしで人との相性は決まんねえの」


瞬はどこか遠くを見つめて言う。やべ、地雷踏んだか。こいつ意外と多いからな……

俺は流れを変えようと、一旦次の授業で使う教材を取り出すため、自分のロッカーへと向かう。


「……」


「……あ」


そこで、丁度教室に戻ってきたそいつが目の前に現れる。

おっと気のせいか?なんかいつもより数段怖い顔してるように見えるんだが……。

やっぱり早めに謝っておくべきか。


俺がそいつに謝ろうと口を開く前に、目の前のそいつは言った。


「今日の放課後、少し良いかしら」


ちょっと今のこいつと放課後も一緒にいるのは精神的に厳しい。適当に断っておこう。


「いや〜ちょっと家でゲームするのにめっちゃ忙し……あーうそうそめっちゃ暇!めっちゃ空いてるよ!」


うわなんかめっちゃ圧力あるんだけど。思わず咄嗟に、俺の中の防衛本能も肯定に舵を切ってしまった。

山内先生程ではないが、凄まじい無言の圧力が身体中に伝わって来る。

やっぱさっきの怒ってますよねー。


「……」


そいつは無言で席に座った。

んーこれはまずい。どれくらいまずいかと言ったら、間違えて下着のまま外に出たときくらいまずい。

まじであの時は焦った、誰もいなくて良かったほんとに。いたらもう近所の人に顔見せできなくなるところだった。

……とにかく今は謝罪をしなければ。


「あのーさっきのは──」

「言いたいことがあるなら後で言ってくれないかしら」


「……はい」


おい、まずいとか言ってた奴誰だよ。これアウトよりのアウトじゃねえか。

てかどうするこれ……とりあえず一旦放課後を待つしかないか。今の状態のこいつに話しかけるとか、あまりにも自殺行為だしな。

……つーかあいつ(瞬)いつの間にかいなくなってやがる。

なんか最近の車並に危険察知能力あるんだよなあいつ。


俺は次の教科に使うものを取り、席に着く。


───そうして、5時間目の開始を告げるチャイムが鳴る。


今日最後の授業は英語コミュニケーション。『コミュニケーション』と名前に付いているように、他と比べてもペアワークが特段多い教科だ。

俺が嫌いな教科第2位であり、ペアワークが比較的少ない月曜日の日程を俺が好きになれない理由が、この教科に詰まっている。


……あれ、これから俺この教科こいつと受けるの?



次はなんやかんややってなかったペアワーク回です。

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