誕生日の魔法
明日は燈吾の誕生日。一緒に暮らし始めて初めて迎える誕生日だから、精いっぱいの気持ちでお祝いしたい。一緒に暮らし始めてって言っても、ルームシェアだけど。
同じ大学に進学して、大学から三駅のところで部屋を借りてふたり暮らし。俺の親は永人は抜けてるから、燈吾くんと一緒じゃないならうちから通いなさい」と言っていたから、まあいいのかな。
表向きは幼馴染、本当は恋人。それが燈吾と俺の関係。
「ただいまーっと」
帰宅して荷物を下ろす。燈吾はバイトでまだ帰っていない。俺は冷蔵庫に明日の料理の材料をしまう。
明日は日曜日。バイトはふたりとも休み。予定はなにも入れていない。ふたりきりで過ごす、贅沢な日。
でも、明日のメインメニューは誕生日なのにカレーだ。シーフードカレー。たいしたものは作れないけど、でもできる限りでもっとちゃんと作りたいって燈吾に言ったら、「手の込んだもの作ってくれるより、くっついてくれるほうが嬉しい」と。だからカレーを煮込んでいる間もくっつくらしい。可愛い奴。
とりあえず自分の部屋に戻って、荷物を片付けて着替える。机に置いてある、空のペットボトルに目が留まって口元が緩む。
無糖のミルクティーのペットボトル。
高校二年のとき、燈吾とのダブル間接キスのあのペットボトルだ。
燈吾には「捨てたら?」と言われたけど、捨てられるわけない。だって、燈吾が告白してくれた思い出が詰まっている。洗って乾かして、大切に飾ってある。燈吾だって、俺が交換した砂糖入りミルクティーのペットボトルを洗って取ってあるの知ってる。
「明日…」
楽しみ。
プレゼントは、「永人が自分の首にリボンを結んで俺にくれるんじゃなかったらいらない」と言われてしまった…。そんなのあげられない。だから用意できなかった。
そういう関係ではあるけれど、そんなこと恥ずかしすぎてできない。想像しただけで頬がぽっぽする。よくそんなこと思い付いたな…。
「さて」
俺の晩御飯と、燈吾が帰ってきたときにお腹が空いているだろうから、なにか作ろう。そしたら燈吾の部屋で待っていよう。
午後十一時前に燈吾は帰ってきた。俺が燈吾のベッドでうとうとしている間に、俺の作った食事を済ませてシャワーを浴びて布団の中に潜り込んでくる。
「今日もありがと。大好き、永人」
「うん…」
うとうとしながらキスをする。時計を見たら、もうじき日付が変わる。
「永人?」
「………」
時計の針が“12”で重なるのを待つ。
………重なった!
「誕生日おめでとう、燈吾」
俺からキスをすると、燈吾がふわっと微笑んでくれた。
「ありがと。プレゼントは?」
「え? いるの?」
「うん。永人が首にリボン結んで俺にくれるんでしょ?」
「それができないならいらないって言ってたじゃん」
「つまり、それをしろってことだよ」
首にちゅっとキスをされる。
「ええ…?」
そんなのあり?
ちゅっ、ちゅっと続けて首にキスをされてしまう。でもリボンなんて持ってない。
「…リボンないよ」
「じゃあ永人だけちょうだい」
「結局そういうこと?」
「そういうこと」
寝間着を乱され、熱い夜に溶けていった―――。
甘い香りで目が覚める。
「おはよう、永人」
「おはよ…いいにおい」
「ミルクティー淹れてきた。ハチミツ入り」
ハチミツか。甘くていい香り。
俺がベッドから起き上がると、燈吾がローテーブルをベッドに寄せる。
「永人が好きな甘いミルクティー、ずっと変わらないな」
「うん」
「俺が永人を好きなのも、ずっと変わらないから」
「……なんで燈吾の誕生日なのに、俺を喜ばせてるの?」
頬が熱くなってくる。ミルクティーを一口飲んだら、ハチミツの甘さと香りがふわっと広がって心地いい。燈吾もミルクティーを飲んでいる。たぶんハチミツなしだろう。
ふたりでのんびりミルクティーを飲んで、またベッドでくっついてからゆっくり起きて朝ご飯を食べた。
その後もすぐにベッドに戻ってまたくっついた。ひたすらくっつく。お昼を作って食べてまたくっついてお昼寝して、くっついて。くっつくのに忙しいくらい。晩御飯を作って食べてくっついて。シャワーも一緒に浴びて、とにかくくっついていた。くっついて抱き締め合ってキスをして、肌を重ねる。今日一日だけで燈吾のすべてを知り尽くしてしまったかもしれない。
「……明日がくるのが嫌かも」
一日中こんなにくっついていたから、離れるのが寂しい。俺が呟くと、燈吾がよしよしと頭を撫でてくれる。
「また休みの日にくっつこう」
「うん…」
それだけじゃない。燈吾の誕生日っていう、特別な日が終わってしまうのが嫌だ。
時計を見る。針が“12”で重なろうとしている。
「あ……」
日付が変わっちゃった…。
「そんな顔しないで、永人」
「うん…」
慰めてくれるけど、やっぱり寂しくて。なんとなく燈吾に抱きついたら、燈吾は手を伸ばしてベッドサイドの時計を取る。
「燈吾?」
「ちょっと待って」
時計をいじって俺に見せる。さっきまで午前零時を過ぎていた針が、午後十一時五十分を指している。
「……?」
「十分間、俺と永人だけ昨日に逆戻り」
「………」
燈吾と俺だけ…ふたりだけ。
「…もう……なにそれ」
「こういうの、だめ?」
心配そうに俺の顔を覗き込む燈吾に、ぎゅっと抱きつく。
「……だめじゃない…最高すぎる」
「よかった…」
「……十分間、離さないで…」
「うん」
こんな魔法を使えるの、燈吾だけだよ。
END




