Episode:97
「ともかく急がなきゃだな。あいつらに先回りされたら困る」
「あ、でも、夜まではたぶん平気です」
戦力じゃどう考えても、向こうのほうが上だ。けどそれが森の中に潜んでるんだから、今すぐ動くつもりはないんだろう。
おそらく、狙いは奇襲だ。だとすれば、動くのは夜だ。
それを説明すると、お姉さんがうなずいた。
「たしかにね。真昼間じゃ奇襲ったって丸見えで、奇襲になりゃしないだろうし」
この辺、ケンディクの人なんかに比べて理解が早い感じだ。なんというか、すごく「慣れてる」感じがする。
それを言うとお姉さんが笑った。
「そっか、あんた知らないね。えーと、あの町が何度も戦火くぐってんのは知ってるかい?」
「あ、はい、聞きました」
最初にこの町へ来たときにも聞いたし、そのあとも何度か、そのことは聞いてる。
「まぁそんなだからね、慣れてるんだよ。んで、いつでもみんな逃げられるようにしてるんだ」
話を聞きながら、すごいなと思った。もしこんなふうに、どの町でも逃げる体制が出来てたとしたら、被害を受ける人は格段に減るだろう。ノネ湖で別れたロジーヌおばさんとその息子さんみたいに、巻き込まれてひどい目に遭ったりしなくてすむはずだ。
「けど姉貴、逃げるったってどこへだよ」
イマドが訊く。
でも言うとおりだと思った。
ルアノンの町、小さいといってもそれなりの人口だ。たぶん、全部あわせたら最低でも数千人だろう。それが全員逃げるなんて、容易なことじゃない。
けどお姉さん、あっさり答える。
「あれ、お前知らない? 谷だよ」
「谷って……大峡谷か?」
大峡谷といえば去年の夏に、走竜で見に行ったところだ。
「あんななんもねーとこ、逃げてどーすんだよ」
「なんもなくないさ、あそこ、地下都市がある」
思わずイマドと、顔を見合わせる。
「地下都市って……」
「言葉どおり、地下都市さ。っても、古い時代のもんだけどね。地下が掘り抜いて、住めるようになってるんだ」
どうやらあの谷、ただ見て回れるだけじゃなかったらしい。
「ぜんっぜん知らなかったぞ、俺」
「だろうね。あんま話すことじゃないし、ルアノンじゃ寄り合いに出れる年にならないと、町のモンにも教えないんだ」
要するにこのまちの切り札と言っていいものだから、容易には教えないんだろう。




