Episode:96
「服装……ねぇ。どんなだったかな。たしか、枯葉色だった気はするんだけど」
お姉さん、さすがにうろ覚えみたいだ。
でも仕方ないと思う。普通の人は軍隊なんかに遭遇したら、慌ててしまって兵装のチェックなんてムリだ。
「すまない、よく覚えてないんだ」
「いいえ、色だけでもだいぶ違いますから」
実際色が分かれば、ある程度は絞り込める。
この近辺の国で、軍服に枯葉色を採用しているのは、大国ではロデスティオとアヴァンだったはずだ。だから、そのどちらかだろう。
アヴァン軍なら味方だからいいけど――ロデスティオ軍だったらまずい。
そしてその可能性は、ほぼ100%に近かった。何しろあたしたち自身が、こっちの方向へ進軍しているのに、遭遇してるのだ。その部隊がここまで来たと思うほうが、確実だろう。
その部隊がこんな国境付近まで来たってことは、目的は間違いなく侵攻と制圧のはずだ。だとしたら標的は、ルアノンの町しかない。
考え込むあたしに、おじさんが訊いてきた。
「お嬢ちゃん、やっぱりまずいかい?」
「はい、たぶん」
本当は確実にまずいのだけど、さすがにそこまでは言えなくて、そんな答えになる。けどおじさんには、それで大体伝わったみたいだった。
「よし、すぐに戻ろう。町の連中に知らせたほうが良さそうだ」
「分かりました」
狩りに来てたおじさんたちが、返事とともに車へと戻る。
「あれだな、久々に脱出だな」
「通り道、見とかねぇとだー」
町が襲われるかもしれないのに、おじさんたちはやけに落ち着いてた。
「まったく、なんかあるたびにたまんねぇな」
「しゃーねぇ、引っ越さない俺らも悪いわ」
会話を聞いてはっとする。たしかルアノンの町、国境地帯にあるせいで、戦火に何度も巻き込まれてたんじゃなかっただろうか? 町の鐘楼も、そういう物見やぐらを兼ねていたはずだし……。
そういうことなら町の人たち、逃げるのには慣れてるかもしれない。
もちろん、いきなり軍に侵攻されたらパニックになるのは間違いない。でも幸い事前に発見できたから、その分有利に動けるはずだ。
「ヘイゼル姉、連中に見つかってねーだろな」
「そんなヘマしちゃいないよ。第一気づかれてたら、とっくに殺されてるさ」
「そりゃそうだ」
お姉さんの言葉から考えても、おそらく見つかってないだろう。近くまで進軍されてしまったのは痛いけど、これならまだ逃げるのは間に合う。




